第三話 道と広場
道が、遠くまで見えていた。
幅は広くないが、視界は開けている。
一直線ではない。緩やかにうねり、少し先が必ず見えるようで、決定的な先は見えない。
壁はない。
左右には森があり、枝を振るうのに邪魔になるものはない。
あんずは道の中央を進む。
端に寄らず、一定の速度で。
俺は少し後ろ、枝を軽く構えたまま歩いた。
地上の自然公園を思い出す。
舗装された遊歩道が、森の中をぐるりと回っているあの感じ。
ただ、ここは違う。
距離の感覚が、ずれている。
視界は通っているのに、どれだけ歩いても終点が近づかない。
数キロ先が見える、というより――そこに何かがある気配だけがある。
あんずが足を止めた。
道の先、少し開けた場所。
広場だ。
白詰草が、芝生みたいに広がっている。
葉は低く、均一で、下は土。
踏み込んでも沈まない。
自然公園の中にある、休憩用の広場に似ていた。
あんずは、広場の縁で立ち止まる。
すぐには入らない。
俺も、足を止める。
次の瞬間、広場の奥で動きがあった。
緑色の影が、走り出す。
ゴブリン。
茂みからではない。
広場の向こう側から、こちらへ向かってくる。
腕を振り回しながら、一直線。
速くはないが、迷いがない。
あんずが、一歩前に出る。
迎え撃つ。
ゴブリンが腕を振る。
殴る、というより叩く動き。
あんずは正面に立たない。
半歩ずらし、前足で打ち落とす。
次に、ひっかき。
鋭さはあるが、動きは単純だ。
体を低くして避け、間合いに入る。
噛みつこうとしたところへ、体当たり。
倒れた。
首元に噛みつき、短く締める。
終わり。
ゴブリンの体が崩れ、淡い光に変わって消えた。
それ以上、何も残らない。
あんずは振り返らず、広場の中央へ進む。
俺も続く。
広場の中は、見通しがいい。
白詰草が均一に広がり、足場は安定している。
ここなら、迎え撃てる。
次に現れたのも、一体。
同じだ。
腕を振る。
ひっかく。
噛みつこうとする。
あんずは距離を詰め、前足で叩き、倒す。
光になって、消える。
単体。
間隔を空けて。
数は多くない。
それでも、気は抜けない。
俺は枝を握り直す。
いつでも振れる位置。
あんずは、戦いが終わるたびに少しだけ周囲を見る。
次が来ないか、確認している。
吠えない。
唸らない。
ただ、淡々と。
広場を横切り、再び道に出る。
道は相変わらず、遠くまで続いている。
終わりは見えない。
この先も、同じだろう。
単体で、様子見。
「……あんず、帰ろう」
声に出すと、あんずが一度だけこちらを見る。
否定はない。
来た道を引き返す。
うねる道も、広場も、変わらない。
それでも、不思議と迷わなかった。
地上に戻ると、空気が戻ってきた。
音も、匂いも。
自然公園の、いつもの景色。
あんずは何事もなかったように歩く。
それを後ろから抱き抱えて、自然公園を後にした。




