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現代ダンジョン世界で、俺より先に柴犬が適応した  作者: 寺田Ⅳ式


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第二話 先に踏み込む

 あんずが、光の下で立ち止まった。


 自然公園の奥。

 舗装が切れ、土がむき出しになる場所だ。


 俺は呼吸を整えながら近づく。

 脚が張っている。

 それでも、視線はあんずから外れなかった。


 あんずは座らない。

 伏せもしない。


 ただ、前を見ている。


 視線の先。

 地面の上で、空気がわずかに歪んでいた。


 触れられそうで、触れられない。

 そんな境目。


 その足元で、枝が一本、転がっているのが見えた。


 なんとなく、目についた。


 拾い上げる。


 反りはない。

 節も少ない。

 まっすぐで、握った感触がいい。


 理由はない。

 ただ、これだと思った。


 次の瞬間、あんずが踏み込んだ。


 景色が揺れる。


 シャラン。


 鈴が鳴ったような音が、頭の奥で一度だけ弾けた。

 耳で聞いた音じゃない。


 視界が淡く光り、すぐに元に戻る。


 あんずの体が、半分、向こう側へ消えた。


「――あんず!」


 枝を握り直し、追いかける。


 足元の感触は変わらない。

 体も、そのままだ。


 けれど、景色が違う。


 自然公園に似ている。

 ただ、広さの感覚が合わない。


 音が遠い。

 自分の足音だけが、妙に響く。


 前方で、動く影が見えた。


 二足で立つ、小柄な人型。


 あんずは、すでに距離を詰めている。


 ゴブリン。


 拳が一発、振られる。

 様子を見る動き。


 あんずは正面に入らない。

 一歩、斜めに踏み込む。


 拳が空を切る。


 前足が叩き込まれ、乾いた音がした。

 体勢が崩れる。


 続けて、蹴り。

 これも一発だけ。


 あんずは距離を詰めたまま、低く当たる。


 倒れた。


 首元に噛みつき、短く締める。


 それで終わりだった。


 ゴブリンの体が崩れ、淡い光に変わる。


 粒子が空中にほどける。


 散る前に、あんずの体へ吸い込まれていく。


 俺が追いついたのは、その直後だった。


 光の粒子の一部が、こちらへ流れてくる。


 腕に触れ、胸のあたりを抜けていく。


 温度はない。

 重さもない。


 ただ、通り抜けた。


 あんずは、もう次を見ていた。


 二体目。


 少し距離を取って、殴り。

 蹴り。


 相変わらず、一発ずつ。


 あんずは同じ動きをしない。


 前足で叩き、体当たりで崩す。

 倒れたところを噛む。


 終わり。


 また、光の粒子。


 今度も、ほとんどがあんずへ。

 俺の方へ来たのは、ほんのわずかだった。


 三体目も同じだった。


 あんずは迷わない。

 動きに無駄がない。


 俺は枝を構えたまま、後ろに立つ。


 戦っていない。

 距離も、ある。


 それでも、目は離せなかった。

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