第十九話 時間の余白
朝のダンジョンは、やはり変わらなかった。
由貴は自然公園に入り、体をほぐしてから階段を降りる。
一層と二層は足を止めない。
広場に出るたびに動きはあるが、あんずが前に出て流れを切る。
由貴は距離を保ち、必要なところだけを処理する。
三層に入る。
広場に出た瞬間、三体が散る。
あんずが二体を引き受け、由貴は残った一体に向かう。
枝を振る動作は、もう考えなくても出る。
攻撃を逸らし、踏み込み、同じ角度で当てる。
倒れたのを確認し、視線を切り替えると、あんずが残りを処理している。
数戦して引き返す。
時計を見ると、これ以上は余裕がない。
今日はここまでだ。
外に出て家に戻り、制服に着替える。
いつもと同じ平日の始まりだった。
学校では、授業が淡々と進む。
特別なことは起きない。
昼休み、弁当を食べながら、周囲の声が耳に入る。
「土日どうする?」
「ダンジョン行く?」
「三層で練習かな」
それ以上の話は出ない。
四層の名前は出るが、続きはない。
行く、という言葉に繋がらない。
放課後、由貴はまっすぐ帰る。
歩きながら、時間の感覚を整理する。
平日は、朝しか潜れない。
放課後は間に合わない。
三層までなら問題ないが、それ以上は時間が足りない。
夜、端末を開く。
四層についての書き込みを探す。
情報は少ない。
危険、という言葉はあるが、それ以上に多いのは別の理由だ。
時間がかかる。
戻るタイミングが難しい。
途中で引き返せない。
由貴は画面を眺めながら、自分の行動と照らし合わせる。
四層は、強さの問題ではない。
時間を確保できるかどうか、それだけだ。
端末を閉じる。
枝を手に取り、状態を確認する。
問題はない。
あんずは近くで丸くなっている。
由貴は特に声をかけず、背中に手を置くだけだ。
明日は休日だ。
それだけで、条件が変わる。
由貴は早めに明かりを落とし、横になる。
特別な決断はしない。
ただ、時間があるという事実だけを、そのまま受け取っていた。
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