第十五話 夜の距離感
夜、家の中が落ち着いてから、由貴は机に向かった。
端末を開き、いつもの場所を確認する。
新しい書き込みがいくつも流れていた。
二層の体験談が多い。
複数で入って、二体同時に出てきたところで動きが噛み合わなくなった。
前に出すぎた、声が届かなかった、視界が足りなかった。
撤退して、軽い怪我。
同じような内容が続く。
三層の話も増えている。
三体同時に出てきた瞬間、どこを見るべきか分からなくなった。
一体を倒したあと、残り二体の位置を見失った。
二層と同じ感覚で入って、対応が遅れた。
書き込みは短いが、共通点ははっきりしている。
数が増えたときの手順が固まっていない。
四層についての投稿は少ない。
行ってみた、という報告はある。
だが、どれも続かない。
出てくる数が多い。
距離が詰まるのが早い。
一発もらって下がった。
それだけだ。
情報が少ないという事実が、そのまま四層の位置を示している。
挑戦はされているが、定着していない。
しばらくスクロールしていると、話題が変わる。
自衛隊、という単語が目に入った。
公式な発表ではない。
現場を遠くから見た人の話。
知り合いが関係者だという、曖昧な書き方。
それでも、いくつかの書き込みが同じ方向を指している。
五層に到達したらしい。
武器を持ったゴブリンが出てきた。
数が揃っている。
対応に時間がかかっている。
それ以上の情報は出てこない。
戦況の詳細も、被害の話もない。
ただ、簡単ではない、という共通認識だけが残る。
由貴は画面から目を離し、机の上を見る。
今日、自分が五層で引いた場面を思い返す。
武器。
数。
指示役らしき動き。
どれも、今ネットに出ている断片と重なる。
民間の主戦場は、まだ二層と三層だ。
四層は境目。
五層は、現時点では触れない場所。
それが、今見えている範囲だ。
別の書き込みでは、攻略方法について意見が割れている。
人数を揃えたほうがいい。
少人数のほうが動ける。
どちらも決め手にはなっていない。
由貴は、どちらにも反応しない。
自分の中で、配置と手順を並べ替えるだけだ。
端末を伏せると、足元であんずが小さく動いた。
由貴は手を伸ばし、あんずの頭を一度撫でる。
あんずは短く尻尾を動かして、また伏せた。
明日の朝も、やることは変わらない。
一層と二層。
動きを確認して、戻る。
机の明かりを落とし、由貴は椅子から立ち上がった。
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