第8話 黒い海賊船
「いいけど…でもその靴だとちょっと難しいかも」
「大丈夫!運動には自信があるんだ!」
そう言うと、染谷は坂下からボールを受け取った。
(さっきも思ったが...随分と軽いな)
直径は14㎝程。バレーボールとテニスボールの中間くらいのサイズ。
重さはスマートフォン程度とかなり軽い。
網目状になっており、材質はプラスチックでできているようだった。
ボールを放ると、染谷は落ちてくるボールを右足で蹴る。
「あっ!」
足の甲に当たったボールは角度を変え、明後日の方向へと飛んで行った。
「な、なかなか難しいね」
そう言うと、染谷はボールを拾い、再び蹴り始める。
「な?」
「あれ!?」
「ぐうぅ!!?」
ボールはあちこちに飛んでいき、一度も続くことがなかった。
(お、おかしい...こんなはずでは……!)
もう1度ボールを放り投げ、右足で蹴り上げると、今度は少し高くボールが上がった。
しかし、ボールは染谷の後方へ。
(くっ…そおぉぉっ!!)
何とかボールに食らいつこうと脚を思いっきり伸ばす。
すると__
ドスンッ!
「だ、大丈夫、染谷君!?」
心配した坂下が寺田とともに近づいていく。
するとそこには…
股割り状態で固まっている染谷の姿があった。
ふっふっ…
それを見た寺田はもう堪えることができなかった。
「あ~っはっはっはっは!!大地お前…それ……コ、コンパスじゃね~んだから!!!」
大笑いしている寺田の前で染谷は顔を真っ赤にしている。
「ぐうぅ…」
染谷は立ち上がると
「いや、これ明らかにこのボールがおかしいだろ!それに…」
そして、染谷は決して口にしてはいけない言葉を発してしまう。
「やってることもなんか地味だし…全然カッコよくないぞこれ!」
すると、先ほどまで心配していた坂下の表情がみるみると変わっていった。
「地味…ピクッ…カッコ悪いぃ……ピクピクゥ!」
「え、あれ?坂下さん…?」
坂下の異変に動揺する寺田。
すると坂下はボールを拾い上げ、天高く放り投げた。
そして____
彼女はふわりと宙に舞い上がる。
その姿は…美しい弧を描いていた。
その光景に染谷も寺田も目を奪われる。
だが、次の瞬間__
ッパアァン!!
とてつもない破裂音と共にボールが染谷のみぞおちに深々と突き刺さる。
「ぐふうぅ!!」
「大地ぃ~!!!」
崩れ落ちる染谷を見て叫ぶ寺田。
坂下は倒れ込んだ染谷の襟元をつかむと
「…今なんて言った!?」
(え?ちょ…これホントに坂下さんか!?ってか……坂下さんも二面性女子かよ~!???)
「ねぇ?なにが地味だって!?なにがダサいって!!?何がマイナースポーツのくせにだって!!???」
「いや、そこまでは言ってな…」
「言い訳すんな!そもそも...ボール一つまともに蹴れないくせに、セパタをバカにするあんたの方がよっぽどダサいんだよ!!」
怒りの火力は最高潮。
___その時、染谷のポケットからスマホが鳴った。
ピロリロリン♪ピロリロリン♪
染谷はスマホを確認すると
「テラ…帰るぞ」
「へ?」
「あと少しで"だてまき君とトマトちゃんの事件簿"が始まってしまう!」
そう言うと、染谷は慌てて立ち上がり走り出した。
「おい!ちょっと待てよ!!…ごめん、坂下さん!先帰るね!」
寺田も染谷の後を追いかける。
「因みにな~大地!その番組、今日の第2話で打ち切りらしいぞ?」
「なにぃ!?まだ事件すら起きてないんだぞ!?」
走り去ってゆく二人を坂下は遠目で見つめていた。
「なんなのよあれ」
坂下は再びボールを蹴り始めた。
トン・・トン・・タタン・・
(ホント…なんなのよ…)
(でも、アイツ......身体めっちゃ柔らかかったな……)
このとき、坂下はまだ知らなかった。
この出来事が、彼女の高校生活を大きく変えることになることを__




