第7話 セパタクロー
トン・タタン・トン
坂下がボールを蹴り始めてからもう20分が過ぎていた。
その間、染谷は一度も坂下から目を逸らしていない。
(こいつは…今なに考えてんだ?)
坂下よりも、染谷に全く動きがないことに寺田は不安を覚えていた。
(うぅ..生態調査とか言ってここまで尾行して、挙句の果てに覗きまで…しかも相手は坂下さん!
こんなことがもしバレでもしてみろ……3年間の高校生活が暗黒に染まっちまうぅ!)
「おい大地、そろそろ帰ろうって!なあ!」
寺田が染谷の肩を揺さぶった、その瞬間__
ヒューゥゥーー・・・
風に押されて、坂下が蹴っていたボールが草むらの手前に転がってきた。
振り返った坂下がボールを拾おうと近づいてくる。
(まっず~いぃ!!)
「おい!なにしてんだ大地!?さっさとずらかるぞ!」
ほふく前進の姿勢でその場を立ち去ろうとする寺田が染谷の方を振り向く。
しかし…そこに染谷の姿はない。
「…え?どこ行った?」
身体を起こし、おそるおそる草むらから覗いてみると__
染谷はボールを手に持ち、坂下の前に立っていた。
(大地いぃぃぃ!???)
「やあ、坂下さん!これ、落としたよ」
爽やかな笑顔でボールを差し出す染谷。
(あ~…もう仕方ねぇ!!)
観念した寺田も、そろそろと姿を現す。
「あ、ありがとう。えっと…寺田くんと……染谷くんだよね?」
寺田は自分の名前が先に呼ばれたことに少し驚いた。
「あ~…うん!まだ話したことなかったよね?よく俺の名前覚えてたね」
「寺田君の名前はみんな覚えてると思うよ」
「…へ?」
「自己紹介...凄いインパクトだったから」
その時、寺田は人生の中でもワースト3に入るであろう大失態を思い出し__
一瞬意識をシャットダウンする。
「でも二人は、どうしてこんなところに?」
坂下の質問を受け、寺田の意識は瞬時に再起動した。
(あ~やっぱりそうくるよな…こんな偶然そうそうあるわけないもんよ!うぅ~…どうしたもんか)
「え~っと…それは__」
「僕らもまた、最近よくここに来るようになったんだ」
(え!?何言いだしてんだこいつ…)
「僕らは隣町に住んでるんだけどね。子供の頃、よくここに遊びに来ていたんだ。最近になってテラが…あ、僕たち幼馴染なんだけどね。彼が絵を書き始めて。それで、その題材を探しにここに来てるんだよ。ほら、ここ自然が豊かでしょ?良いインスピレーションが湧くんじゃないかと思ってね」
染谷は表情を一切変えずに笑顔で流暢に説明した。
(こ...こいつ......マジで誰なんだよ)
驚愕した顔で寺田が染谷を見つめると
「そうなのね…確かにここだと良い絵が描けそう」
(って信じた~!坂下さん信じてくれた~!!あ~もう、半分嘘みたいなもんだけど...)
「ところで...坂下さんが持ってるそのボール……かなり珍しいものに見えるけど、何のボールなんだい?」
染谷がジッとボールを見つめている。
「あぁ、これ?これはね、セパタクローっていう球技で使うボールなの」
「セパタ…クロー?」「セパタ…クロー?」
染谷と寺田が同時に口にする。
「知らなくて当然よ。日本じゃかなりマイナーな競技だから」
「いや、すまない。僕の知識不足だ。それよりそのセパタ…クロー?のボールをなぜここで蹴ってるんだい?」
「タイに住んでたことがあってね。あっちじゃメジャースポーツなの。…小さい子供が、外でボールを蹴って遊んでる姿をよく目にするくらい」
そう言うと、坂下は遠くを見つめた。
まるで__遠いどこかの風景を懐かしむように。
「素敵な話を聞かせてくれてありがとう。もしよかったら...僕にも少しだけ蹴らせてもらえないかな?」
(え!?なにを言い出しちゃってんのこの人!!?)
一難去ってまた一難。予測不能な染谷の行動に、振り回される寺田であった。




