第4話 漂流者たちの教室
ザワザワザワッ……
「よ~し、静まれ」
宮下の一声で、教室中のざわめきがピタッと止まった。
「それじゃあ……これから出席番号順に自己紹介をしてもらう。名前を呼ばれたら前に出ろ」
そう言うと、宮下は手に持った出席簿に視線を落とす。
「じゃあまずは……安代 知樹」
「は、はいっ!」
返事とともに、茶髪のおかっぱ男子が勢いよく席を立ち、教卓の前へ向かう。
「あ、安代 知樹です。倉林第一中学校出身で……中学では、バレーボール部のマネージャーをしていました!」
そう言いながら、かけているメガネの端を何度も押し上げる。
「えーっと……あ! 趣味はカードゲームで、『あかんどすえ! 恋するたそがれ忍法帖』
っていうモバイルゲームをやってます!も、もしやってる人がいたら……ぜひ一緒に遊びましょう!」
ペコリと頭を下げるが、教室内は……静まり返った。
「……え? なんて?」
「たそがれ忍法……なに?」
やがて、教室のあちこちからヒソヒソとささやき声が漏れはじめる。
「よし! じゃあみんな拍手~!」
宮下が手を叩くと、それに釣られて生徒たちも一斉に手を叩いた。
安代は恥ずかしそうにしながら、そそくさと自分の席へ戻っていく。
「ほう……”どす恋”をやっているのか……」
染谷がボソッとつぶやく。
(え!? 知ってんの!?)
それを聞いた隣の男子生徒は、心の中で叫んだ。
「よくトップバッターを務めてくれたな。偉いぞ、安代」
宮下の言葉に、安代は少し照れたようにうつむき、頭をかいた。
「じゃあどんどんいくぞ!次は___」
こうして自己紹介は幕をあけた。
「榎本 汰月です。スポ薦(スポーツ推薦)なんで勉強は苦手ッス。サッカーやってます。よろしく」
(うお!めっちゃ金髪じゃん…)
(こえ~…)
「幸田 守といいます。実家がお花屋さんなので、子供の頃からお花が大好きです。好きな花はブローディア。よろしくお願いします。」
(わぁ…からだおっきぃ…)
(ゆるキャラみたい…癒し系すぎる...)
「西園寺 麗と申します。わたくしは将来、父の会社を継ぐという使命があります。ふさわしい人間になるべく、この学校で勉学とスポーツに励んでまいります。」
(西園寺って…あの西園寺財閥の?)
(気は強そうだけどキレイだよな~…)
自己紹介を終えると、西園寺は一度だけ坂下を見てから席へと戻っていった。
「じゃあ…次。坂下 泉!」
「はい!」
坂下が返事をした瞬間、皆が息を呑む。
(きたぞ...…)
(坂下様~…)
「坂下 泉です。父の仕事の都合で5年間、タイで生活をしていました。昨年帰国したばかりで、まだわからないことも多いのですか__
これから皆さんと生活を共にするなかで、この国のこと、そして自分自身のことをもっと知っていきたいと思っています。よろしくお願いします。」
挨拶が終わると、誰に促されるでもなく、自然と拍手が巻き起こった。
ワァァァァ!!パチパチパチパチ!!!
まるで全ての演目が終わったかのような空気だったが__
実は、まだ半分しか終わっていない。
そしてついに、その男の出番が訪れる。
「次...染谷 大地!」
「はい」
返事をすると、染谷はゆっくりと立ち上がった。
坂下と同様、染谷も教室中の視線を一身に集めた。
その中で、ひとり両手を組み、何かを必死に祈っている男がいた。
寺田である。
(大地ぃ…頼むから変なことだけは言わないでくれよ)
教卓の前に立つと、染谷は静かに口を開いた。
「皆さん初めまして。染谷 大地といいます。僕は、自分の可能性を広げたくて、この学校を選びました。まだまだ未熟な自分になにができるのかはわかりませんが――
皆さんと共に、それを見つけていきたいと思っています」
深くお辞儀をすると、本日二度目の大きな拍手が巻き起こった。
ワァァァァ!パチパチパチパチ!!!
(…うわ、あの見た目で性格までいいとか……噓でしょ?)
(染谷…大地ぃ……!)
(……好き♡)
拍手が鳴り止まない中、ひとり事態を把握できない男がいた。
寺田である。
(え…誰だよこいつ!?…は?…"僕"だと?皆さんと共に…って、はぁ!???)
「じゃあ次、寺田 翔一!」
「…え?あぁ、はいぃ!」
慌てて返事をすると、寺田は小走りで教卓へと向かった。
(え~っと……あれ?何話すんだっけか!!?やべぇ、完全にとんでる!!)
「寺田?大丈夫か?」
声をかける宮下に必死でうなずく。
「は、はじめまして!寺田 翔一でひゅ……!」
その瞬間、寺田の口から赤い液体がポタリとこぼれ落ちた。
「キャー!血が出てるー!!」
「おい!寺田!大丈夫か!?」
教室中が軽くパニックに陥る中__
寺田は自ら意識をシャットダウンした。
「消化試合」のはずが、
この自己紹介こそ、本日一番のインパクトとなった。




