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セ・パ・タ・!  作者: 日並うたたね
第1章

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第3話 白い帆船と黒髪の王子様(仮)

ざわ…ざわざわ…


先ほどの坂下 泉のスピーチの興奮が冷めやらぬ中、

1年B組の教室内は所々でざわついていた。


「うわ~もう尊過ぎて死ねる~♪」


「俺…あんな美人初めて見たわ」


「あ~いう子ほど裏がありそうだけどね~。性格悪そうな顔してんじゃん」


「そういうこと言ってるお前は性格も顔も悪いけどな」


あちらではキラキラと目を輝かせている女子が。

こちらでは胸の前に手を当てて、深いため息を吐く男子が。

そちらでは憤った女子の右ストレートが唸りをあげていた。


「すげ~注目の的だな」


そう言うと、寺田は教室の真ん中の席に座っている坂下を見つめた。

みな恐れ多いのか、坂下の周りには誰も近づけないでいる。


まるで、大海原にぽつんと浮かぶ真っ白い帆船のようだ。


「まあ…こっちも負けてねーんだけどな」


そう言うと隣で座っている染谷に目を向ける。


「うわ~...マジイケメンじゃん」


「顔ちっさ!脚なっが!…ってかまつ毛もなが!」


染谷を見つめる女子達から黄色い声援がとんでいた。


身長178センチ、あっさりとした顔立ちに、切れ長の目元。さらりと流れる黒髪。

坂下 泉と同様、この男もまた、この学校では異質な存在だった。


そんな黄色い声援など気にも留めず、染谷は頬杖を付きながら”ジッ”と坂下の後ろ姿を見つめていた。


(まあ…女子のときめきもすぐに収まるだろ)


「ところで大地。お前、彼女のこと知ってるような雰囲気出してたけど…顔見知りかなんかか?」


「いや。ただ...新入生代表の挨拶を断った時に、もう一人声をかけている生徒がいると言っててな。

もし断っていなかったら、俺とその生徒2人でスピーチをする予定だったらしい」


「はあ!?じゃあなにか?入試のトップ合格者はお前だけじゃあなかったってことか?」


「どうやらそのようだな」


そう言うと、染谷は"ニヤリ"と笑った。


寺田は自己採点により、染谷の入試テストの点数を知っている。

全教科中、ケアレスミスがたったの2つ__つまり、ほぼ満点。


(こいつの他にも…いるもんなんだな~。しかも人格に難もなさそうだし)


教室のざわつきが少し落ち着いてきたそのとき__


ガラガラガラッ。


という音とともに教室のドアが開くと、紺色のスーツを着た男性が教卓へと歩いていく。

生徒たちは慌てて自分の席へと戻るが、坂下の周りの生徒たちは少し遠慮がちに席へとついた。


「よし、全員席についたな。じゃあ…まずは改めて、入学おめでとう」

「今日からこのクラスを担当する宮下みやした すぐるだ。歳は37。担当教科は歴史。俺の名前を書く機会なんてお前らにはそうそうないだろうから…黒板には書かない。まあ気にするな」


(なんだ、このゆる~いおっさんは)


生徒たちが心の中でそう思っていると、宮下はさらに言葉を続ける。


「え~…あ~…まあなんだ。これ以上俺がなんか言っても仕方ないな。さっきの坂下の挨拶が完璧だったし…よくやったぞ、坂下」


「ありがとうございます」


凛とした表情で坂下が答えた。


「ただ…流石に何にもないっていうのもなぁ......じゃあ1つだけ」


宮下は頭を少しかいたあと、真っすぐ生徒たちを見据えた。


「…自分の成功を疑え」


一瞬だけ真顔になったかと思えば、


「まあ、でも疑いすぎて禿げたら元も子もないから、ほどほどにな」


と、すぐにへらっと笑った。


「クスクス……」


教室に、小さな笑い声が広がる。


「今日はこれで解散。ただし、明日はひとりずつ前に出て自己紹介をしてもらう。1人30秒までな」


すると、茶髪でおかっぱの男子生徒が手を挙げた。


「なんで30秒なのでしょうか?」


「去年、長ったらしい挨拶をする奴が数人いてな。そのせいでプレッシャー感じて吐いたやつがいたんだよ」


そう言って宮下はひとつため息をつく。


「いいか?最初の自己紹介がその後の学校生活を大きく左右する...なんて思ってるやつもいるかもしれんが、そんなことはない」

「だからまあ…気楽に考えてこい」


こうして、入学初日は無事終了となった。


***


「自己紹介ね~」


寺田は頬杖を付きながらストローでメロンソーダをすすっている。


「テラは何を話すか決めたのか?」


「うんにゃ、別になんでもいいだろ。俺の前に坂下さんとお前がいる時点で…その後はもう消化試合みたいなもんだしな。何話しても"印象薄いやつ枠"に収まるだけだって」


「そういうお前こそ...何話すか決めたのか?」


寺田はおそるおそる染谷に尋ねた。


「ふっふっふっ…まあな!」


そう自信満々に答える染谷を見て


寺田は彼が中学時代に起こした数々の伝説を思い出す。


(先生……俺、自己紹介前日から既に吐きそうだよ)


自分のことではなく、他人の自己紹介に頭を悩ませるかわいそうな寺田であった。

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