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セ・パ・タ・!  作者: 日並うたたね
第2章

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第16話 策士と理解者

放課後の職員室。 そこは生徒にとって、特別な緊張感が漂う場所だ。


「宮下先生、失礼します」


坂下の凛とした声が響く。 その後ろには、猫背気味の寺田と、姿勢よく(猫を被った)染谷が続いていた。


「ん? ああ、お前らか」


宮下はデスクでスポーツ新聞を広げていたが、3人の姿を見ると面倒くさそうにそれを畳んだ。


「先生。この度は……セパタクロー部の設立にご尽力いただき、本当にありがとうございました」


坂下が深々と頭を下げる。 続いて染谷も、教科書通りの美しいお辞儀をした。


「顧問まで引き受けてくださって……感謝の言葉もありません」


「よせよせ、礼なんていい。俺はただ、ちょいと入れ知恵しただけだ」


宮下はフン、と鼻を鳴らす。


「あの校長はな、『優秀な生徒』と『学校の評判』って言葉に弱いんだよ。お前ら二人の名前を出せば、校則なんぞ捻じ曲げてでも許可を出すと踏んでたが……ま、案の定だったな」


「さ、さすがです……」


寺田が引きつった笑みを浮かべる。この先生、あの厳格な校長の扱いを完全にマスターしている。


「でも、先生。本当によかったんですか?」


坂下が少し不安そうに尋ねる。


「顧問って大変だって聞きますし……それに、セパタクローなんてマイナーな競技、先生もよく知らないんじゃ__」


「あー、まあな」


宮下は頭をボリボリとかきながら、天井を仰いだ。


「今は他の部の顧問もやってなくて暇だったしな。それに……」


「それに?」


「……まあ、全く知らないってわけでもないんだよな」


「え?」


宮下の声はあまりに小さく、聞き返した坂下の声にかき消された。


「あ、いや。なんでもない。気にするな」


宮下はひらひらと手を振る。


「……そうですか。でも、僕たちは本当に嬉しいです。先生のような素晴らしい指導者の元で活動できるなんて、光栄の極みです」


染谷がキラキラとした(作り)笑顔で言った。 その瞬間、宮下の目がスッと細くなる。


「……おい、染谷」


「はい、なんでしょうか?」


「お前……まさか3年間ずっとそのキャラでいくつもりか?」


「……え?」


染谷の笑顔がピクリと固まる。 宮下は呆れたように、ふっと息を吐いた。


「いや、まあ……お前がそれでいいなら別に構わんが。疲れない程度にしとけよ」


「……ご心配、痛み入ります(ニコッ)」


染谷が強引に笑顔で返すと、横にいた寺田が小声でささやいた。


「(おい大地……先生、完全に気づいてるぞ)」 「(……し、静かにしろ、テラ。)」


ヒソヒソと言い合う二人を見て、宮下は「やれやれ」と肩をすくめた。 それ以上深く追求するつもりはないらしい。


「ま、とりあえずやるからには自由にやれ。俺は名前だけの顧問だ。練習メニューや戦術は、お前らで考えろ」


「はい!」


「ただ__」


宮下は引き出しから鍵の束を取り出し、ジャラリと鳴らした。


「練習場所と部室の確保だけは、俺がなんとかしてやる。新参者がデカい顔して体育館を使うにしても、お前らだけじゃ他の部の反感を買うだけだろうからな」


「せ、先生……!」


坂下の表情がパァッと明るくなる。


「感謝するなら結果で返せよ? ほら、行った行った」


追い払うように手を振られ、3人は「失礼しました!」と元気よく職員室を後にした。


その背中を見送りながら、宮下は再びスポーツ新聞を広げようとして……やめた。


(……変な奴らだ)


特に染谷。 優等生の仮面を被っているが、その下にある本性はまだ見えてこない。 ただ、セパタクロー部を作りたいと言ってきた時の........あの必死な目だけは、嘘じゃないように見えた。


(ま、熱くなれるもんが見つかったなら、それでいいか)


宮下はスマホを取り出し、懐かしい友人の名前をタップした。


「……さてと。とりあえず……あいつに電話でもしてみるか」


プルルル……という呼び出し音が、静かな職員室に小さく響いた。

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