第11話 熱
3限目 体育
「こっちこっち! パスパース!!」
「俺に回せ! 俺に!!」
授業は男女別で行われていた。
男子はグラウンドでサッカー。
女子は屋外コートでバスケットボール。
コート外で休憩中の女子が合間を縫ってちょこちょこ見に来るため、
男子はなんとか良い恰好を見せようと張り切っていた。
だが_
今日はこの男の独壇場。
榎本汰月
スポーツ推薦で入学した彼は、桜川東高校サッカー部が、
初の全国への切符を掴む為の最後のピースであった。
ドンッ!!
鈍い音と共に撃ち抜かれたボールが、ゴールネットに突き刺さる。
キーパーは反応することさえできない。
「おいおい! あんなん、どうやったら止められるんだよ!」
「同じ人間の動きじゃね~ぞ!」
同級生たちは榎本の華麗なプレイに手も足も出ない。
安代「確かに凄い......止められる可能性があるとしたら__」
安代智樹
中学でバレーボール部のマネージャーだった彼は、
榎本のプレイをじっと眺めていた。
そして、ふと染谷の方を向く。
フィールドの端では、ボーっと突っ立っている染谷に寺田が声をかけていた。
寺田「大地。お前、また坂下さんのことじ~っと見つめてんのかよ。」
「今日の朝言われたろ? 坂下さん、ここじゃセパタクローはやらないって」
染谷「......」
*
染谷「できないとは......どういう意味だ?」
坂下「......」
染谷「好きなんだろ? 公園で一人でボールを蹴るくらい! それなら__ここでも本格的にやってみたらいいじゃないか!」
坂下「......馬鹿にされたのよ」
染谷「なに?」
坂下「馬鹿にされたの。日本に戻ってきた時にね」
「クラスメートから声をかけられて、タイでの生活とか色々と話したのよ。で、セパタクローの話もしたわけ。......随分と熱く語った覚えがあるわ」
染谷「......」
坂下「そしたらね、その場で調べだした子が『へ~随分とマイナーな競技なんだ』って言ってね。終いには『これだけマイナーなら坂下さん、将来有名になっちゃうかもね』なんて馬鹿にしたような顔で......」
寺田「......なんだよそれ」
坂下「みんなはそれを聞いて笑ってたわ。多分、意味もなく笑ってただけなんでしょうけど......物凄く腹が立ってね」
染谷「もしかして......ぶつけてやったのか? あのボールを?」
坂下「そんなことするわけないでしょ! って、あんたにやっちゃったんだから説得力ないわね」
坂下は悔しさを表情に滲ませながら続ける。
「私は......結局その場で笑うしかなかった。ちゃんと笑えてたかなんてわからないけど.....結局なにも言い返せなかったの」
「そんな自分が......許せなかった」
染谷「......」
坂下「私にはね......夢があるの。タイに戻ってプロの選手になるっていう夢がね。あの国には、私と同じ熱を持った人たちが沢山いるわ」
「さっき、部活動が盛んになってるって言ってたわね? きっとたかが知れてるわよ。......現にあなたたちだって、セパタクローのことを知らなかったじゃない」
「だから__ここではやらない。もうこれ以上、好きなものを馬鹿にされたくない......」
坂下は俯きながらこぶしを握り締めている。
染谷「......なあ、」
染谷が何かを言いかけると
キーンコーンカーンコーン
朝のチャイムが学校内に鳴り響く。
坂下「もう__行かないと」
教室へと向かう坂下の背中を、染谷はじっと見つめていた。
*
寺田「無理やり誘ったってさ、坂下さんのためにはならないんじゃね?」
染谷「......本当にそうなのか?」
寺田「え?」
捉えどころのない空気が流れる中、安代が割って入る。
安代「二人とも、もうそろそろ授業に戻らないと!」
寺田「あ、そうだよ! 俺たち同じチームなんだから、二人も抜けたら不利になっちまうじゃんか!」
安代「うん。しかも、相手チームの榎本君が無双状態で誰にも止められないんだ!!」
「唯一止められるのは.....染谷君だけだと思う」
寺田「だってよ! 聞いたか大地!? サボってた分、しっかり働いてこい!」
染谷「......そうだな」
染谷は一つ息を吐くと、フィールドの中央へと走っていった。




