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第7話 新しい服と、まだ触れない傷

 ラーメンを食べ終え、湯気の余韻がまだ残るテーブルを離れた。

 雪ちゃんは満足そうに小さく息をつく。

 そんな表情を見るだけで、連れてきて良かったなと胸の奥が温かくなる。

 しかし、まだ私達の買い物は始まったばかり。


「さて、雪ちゃん。ここからが本番だよ」


 両脇にズラリと並ぶお店を眺めながら、私は雪ちゃんに問いかける。


「どこか気になるお店はある?」

「ふぇ!?えーっと」


 キョロキョロと周りを見渡し始める。

 私の無茶振りに応えようとするのが可愛くて仕方ない。


「簡単に考えれば良いよ。シュッとしたのが好きとか、フリフリとしたのが好きとかね」


 と服を買ったことのない奴が申しております。

 しかし、私の当たり障りのない助言を聞いても、彼女はまだ悩んでいる様子。


「実は自分でお洋服を買ったことがなくて……貰い物や正装を着ることが多く、こうした場所は……」


 なるほど、雪ちゃんも私と同じ人種だったわけか……同じか?たぶん、違う気がする。

 まあそれは良いとして、そうなると服屋未経験の2人が揃ってしまったわけだが……大丈夫だろうか?

 でも、流石の私でも服のセンスの良し悪しはわかる。

 特に雪ちゃんの場合、素材が良いので何でも似合う気がするな……ヨシ!


「雪ちゃん!ちょっと来て!」

「え!?は、はい!」


 雪ちゃんを連れ、有名なブランドのお店に入る。

 正直、服の種類なんてわからない。でも、頭の中でマネキンを着せるようにイメージはつく。


「これとこれと、後これも」


 雪ちゃんは戸惑いながらも、胸の前で大事そうに服を抱きしめた。

 3着ほどを持たせ、雪ちゃんを試着室に案内する。


「あ、あの」

「さて、着て来て」


 雪ちゃんはぎこちない動きで、試着室のカーテンを閉める。

 友希チョイス1つ目。

 白いワンピースに身を包み、裾がふわっと揺れるたび、水色の花柄が光をまとって浮かび上がる。

 朝着ていたワンピースとは違い、柔らかな雰囲に思わず息を呑んだ。


「ヨシ!可愛い!」


 雪ちゃんは恥ずかしそうに裾をつまみながら、小さく「そうでしょうか……」と呟いた。


 チョイス2つ目。

 柔らかなベージュのニットが雪ちゃんの華奢な体(胸を除く)を包み、紺のフレアスカートが足元で綺麗に広がる。

 制服のときより、ほんの少し大人っぽく見えた。


「最高!」


 3つ目。

 ピンクのカーディガンのボタンを胸元で留め、白いプリーツスカートが百合のように揺れた。

 その出立ちに思わず見惚れてしまった。


「ナイスバルク!」

「それは意味が違う気がします!」

「でも、良いね!何だか楽しくなって来た!」


 初の服屋でテンションハイになってきた。

 モデルが良いからか、彼女に着せたい服がどんどん溢れてくる。

 未成年を着せ替えて遊んでいると文字に起こせば、第二の事案でしかないが、これで捕まるなら本望!


 どの服を着ても可愛かった。

 でも、どの服を着ても、あの首元に光る赤黒いチョーカーの存在に目が行く。


「ねえ雪ちゃん。ずっと聞こうと思ってたんだけど……そのチョーカー、何?」


 雪ちゃんのまつ毛が、ほんの一瞬だけ震えた。


「……これは奴隷の証です。外せるのは、ご主人様……友希さんだけです」


 それを聞いた瞬間、胸がぎゅっと縮んだ。

 何か言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。


「……でも、これがある限り誰もわたし達に手を出せないんです。ご主人様以外は」


 俯きがちな声。

 その横顔には、強がりでも諦めでもない……何か、痛みのようなものが滲んでいた。

 慰めの言葉が喉元まで来たけれど、飲み込んだ。

 今の私には、その言葉を口にする立場なんてない。

 彼女から見れば、私は買った側の人間だ。何を考えているのか分からない相手だ。

 その距離を無視して優しい言葉をかけることだけは、絶対に違うと思った。

 気づけば、私は雪ちゃんの手をぎゅっと握っていた。

驚いたように雪ちゃんの肩が小さく跳ねる。

 それでも手は離れなかった。握り返してはこないけれど、拒絶もしなかった。

 その小さな手の温度が、私に覚悟を与えた。


「雪ちゃん。これからのことは、全部行動で見せるよ。だから……私を見てて」


 たとえその言葉に重みがなくてもいい。

 これから全部、証明すればいい。


「それでどう?どれか気に入った服とかある?」

「ふぇ!?えーっと……」


 驚いたように瞬きしたあと、雪ちゃんは鏡の中の自分をもう一度そっと見た。

 さっきより、ほんの少しだけ胸を張っている。


「……ゆ、友希さん的にはどうですか?」

「全部似合ってる!全部買おう!」

「さ、流石にそれは」

「決定事項です!店員さん!」


 店員さんを呼びつけ、雪ちゃんが着た3着の服を購入する。

 1つ1万円を超える金額が目に入ったが、心の動揺はなかった。むしろ、清々しさと快感を覚えた。

 店を出たあと、雪ちゃんは頬を赤くしながら言った。


「いつもと違う自分が鏡に映って……なんだか、不思議で、でも少し嬉しかったです」


 その言葉だけで、今日ここに来た価値はあった。


「また機会があれば、今度は自分で選んでみたいです」

「ほほぅ、なら第二ラウンドといこうか!」

「へぇ?」


 雪ちゃんの手を引き、別の服屋に突入し、またまた別の服屋に突入しては試着を楽しんだ。

 右往左往と服屋を転々とし続けて、気づけば3時間を超えていた。

 10店舗以上巡り、50着以上着て、その内の5着が紙袋に収まった。

 数字だけ見れば、立派な成果だ。


 休憩エリアに着いた頃には、頭に酸素が回ってないことに気づく。

 疲れ切って椅子に身を預けながら、私は空調の風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 仕事とは違う、健康的で幸せな疲れだった。


 横を見ると、雪ちゃんはウトウトと船を漕いでいる。

 眠気に抵抗する姿が可愛くて、笑いそうになる。


「ゆーきちゃん」

「……!?は、はい」

「この後なんだけどさ、雪ちゃんの生活用品を見に行きたいんだけど……大丈夫?」

「だ、大丈夫です。頑張ります」


 眠気を振り払うように、胸の前でぎゅっと拳を握る。

 その仕草が、たまらなく眩しかった。


「よし。行こっか」


 こうして、ショッピング最終ラウンドが始まった。

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