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第11話 あなたを知るために

 ……本当に、何もない。

 部屋は、痛いほど静かでした。


 部屋をぐるりと見渡して、わたしはため息を飲み込みます。

 友希さんの部屋は、驚くほど綺麗です。机の上には埃どころか指紋すら見えません。

 本棚は教科書や参考書が背の高さまで並び、ジャンルごとに分けられています。

 床にも物1つ落とさず、綺麗な状態でした。


 奴隷として、ここで出来ることが何もありません。

 ……わたしは、この家に必要なのでしょうか?


 恐怖……という思いだけが胸の中で膨らんでいきます。

 役割がない世界で、わたしは何者なのでしょう。


 そんな時、ピンポーンとインターホンが鳴ります。

 体がビクッと跳ね、咄嗟に背筋を伸ばし、足元を揃えて玄関へ向かいます。


「宅配でーす。机のお届けに参りました!」


 どうやら、昨日買った机が届いたようです。

 ドアを開けると、配送員のお姉さんが段ボールを軽々と抱えていました。


「あ、ありがとうございます」


 わたしは慌てて受け取ろうと手を伸ばしますが、それは思った以上に重くて、少しよろけてしまいます。


「っ……!」

「無理しないでいいですよ。どこに置きましょう?」


 優しい声が余計に胸を締めつけました。

 当たり前の親切が、わたしには重すぎました。

 わたしが全部やらなければいけないのに……これは、わたしの仕事です。


「い、いえ!大丈夫です!ま、また……よろしくお願いします」


 またがあるかは分かりません。ですが、友希さんが不在の時はわたしがお荷物を受け取ることが出来る。

 それだけでも、存在価値はあるのでは?とほんの少し自信がつきます。


 配送員が帰った後、わたしは段ボールを部屋に持って行きました。

 部屋の中央に置き、開封しようと段ボールの端を開いたところで、ふと思います。


(ゴミはどこに捨てれば良いのでしょうか?)


 段ボールのような大きな物は部屋にあっても圧迫するだけです。

 近くに段ボール回収箱があれば捨てに行きたいのですが、周囲に何があるのか把握出来ていません。

 外を散策したいのですが、外出許可が出ていません。

 わたしはお留守番を任された身。

 主人に無断で外に出ることは許されない行為です。


 ……何だか、そこまで気を遣わなければならないことに、心労が溜まっていきます。

 少しの失敗がわたしの今後を決めると思うと、萎縮してしまいます。

 でも、何もしないのも、またわたしの不必要さを際立てます。


 ……いえ、それは違いますね。

 わたしはまだ友希さんを知らないだけです。

 友希さんの性格、趣味、好きな物……何もかもわからないのです。


 友希さんのことを知らないのに、最初から恐れてはダメです。

 例え失敗して、友希さんに怒られようと、暴力を振るわれようと、それは普通のことです。

 だってわたしは……そういう存在なのですから。


 今後のことについて、友希さんにご相談しましょう。

 わたしは主人の考えを察せない無能な奴隷です。

 だからこそ、わたしなりのやり方で友希さんと向き合っていきます。

 ……そのやり方が正しいかどうかは分かりませんが。


 段ボールから机を出し、今まで使っていた机の側に置きます。段ボールもその近くに置きました。

 本来は、これでわたしの仕事は終了です。

 でも、わたし個人としての仕事を見つけました。

 それは……友希さんのことを知ることです。


 少しでも、友希さんのことを知ろうと、わたしは部屋の中を観察し始めました。

 まず目に入ったのは、わたしの背丈を超える本棚の存在。

 拝読している本について調べてみましょう。背表紙を見るぐらいなら許されるはずです。


 しかし、本棚の目の前に立つと、その不思議な光景に少し頭を捻ります。

 ……本の数が少ないのです。

 6段ほどある本棚なのに、使われているのは4段目の部分だけ。

 捨てたのかな?と思いましたが、本が置いてあった痕跡はありません。


 では、肝心の本の内容はと言うと……C言語入門、Python入門、プログラミングの基礎……聞き慣れない文字ばかりが並んでいます。

 難しそうな本です。

 わたしには、何が書いてあるのか想像もつきません。

 ……友希さんは、こんな難しいものを読んでいるのですね。

 少しだけ、遠い人のように感じました。


 汚れなく綺麗に仕舞われていますが、所々付箋がついており、かなり読み込まれているのが見受けられます。

 しかし、これは……どう考えるべきでしょうか?

 趣味でしょうか?お仕事でしょうか?……どちらとも取れるので、判断がつきづらいです。

 どちらにせよ、友希さんは勤勉で真面目な方なのかも知れません。


 次にパソコンの置いてある机を見てみます。

 食事用に使う机と違い、腰ほどの高さのある机ですが、机の上にはパソコン以外の物は1つも置いてありません。

 余分な物を置かないのだと見受けられます。

 ……ここではこれ以上の情報は得られませんね。

 引き出しやパソコンの履歴など気になりますけど、それはわたしがやって良いことではありません。


 部屋全体を見渡し、気になったのはこの2点だけです。

 他は……何も、ありませんでした。

 まるで引っ越しをしたばかりの部屋のように、綺麗で生活感があまり感じられません。

 ミニマリストと言う言葉を聞いたことがあります。

 友希さんはそれに近い人なのでしょうか?


 だとしても、友希さんを知ろうとしても、これ以上は何も出来ません。

 わたしは部屋の中央に座り、持ってきたバックからマニュアルを取り出し、それを読み込みます。

 アソコで学んだ知識を活かそうとしても、主人の許可がなければ、わたしは何も出来ません。


 奴隷とは指示待ち人間です。

 主人に命令、指示がなければ動いてはいけない。

 そして、主人の家に上がり、そこのルールに染まらなければなりません。


 本を読んでいると気づけば、お昼を回っていました。

 友希さんは……まだ帰って来てません。

 捨てられたかも……そういう不安さえも、わたしは受け入れなければなりません。

 少し……寒いですね。


「ごめんね!遅くなった!」


 その声を聞いた瞬間、わたしは胸が弾みました。

 そして立ち上がり、駆け足で友希さんを迎えに行きました。


「お、お帰りなさいませ」


 そう言うと同時に気づきます。

 友希さんの額には汗をかき、息も少し乱れています。

 走って帰って来た……のでしょうか?

 そんな疑問を口にする前に、友希さんが先に口を開きます。


「雪ちゃん、明日予定空いてる?」


 思い掛け無い言葉に、一瞬戸惑います。


「は、はい……大丈夫です」

「なら、学校行こ!」


 やはり、この方の考えていることがわかりません。

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