表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

’25阿波踊り始末記

作者: 山谷麻也

挿絵(By みてみん)


 ◆地域イベント


 関東に住んでいた頃、旧友を誘って、ある商店街の阿波踊り見物に行った。

 二人は言葉を失い、急きょ、目的を高校のミニ同窓会に変更した。


「まったく、阿波踊りをバカにしとる」

 怒りが収まらぬ筆者を、おだやかな性格の旧友はなだめた。

「もう、ええわ。飲も」


 ◆どうにかなるさ


 盲導犬ユーザーとなって初めて、阿波踊りに参加した。いや、正確には、人生で初めて、である。

 実のところ、高校OBのにわか連で一度踊っただけだった。ああいうのを経験にカウントしていたら、徳島では袋叩きにされかねない。


「徳島の盲導犬を育てる会」の方で、練習の機会も設けられていた。

 ただ、筆者の住む池田からは遠い。そのため、地元・徳島文理大学連との合同練習の様子を収めた動画も送られてきた。

 いざ開いてみると、もはや筆者の目では画像は認識できなくなっていた。ぶっつけ本番である。


 ◆水もしたたる


 集まった盲導犬は七組。うち三組は県外勢。大学連のサポーターなどを含めて、我が「ハーネス連」の踊り子は六〇名近くに及んだ。

 着付を済ませ、いよいよ演舞場へ出発する。


 ホテルの近くで練習している時、パラパラと来た。

 演舞場に近づくにつれ、雨脚は強くなる。

 降りしきる雨の中で出番を待つ。ハッピの袖から水滴がポタポタとしたたっていた。


 視覚障害者と阿波踊り——。正直言って、ピンと来なかった。

「歩いているだけの人もいますよ」

 何年か前、参加をためらっていると、ユーザー仲間の旦那さんがハードルを下げてくれた。

 しかし、それでは東京で見たのと変わらないではないか。


 ◆願いよ 届け!


 この期に及んで、悩んでいる場合ではなかった。

 娘に寄り添われ、相棒の盲導犬・エヴァンとともに踏み出した。

 左手はハーネスを握っている。右手は娘の左肘に添えている。ところが、足はちゃんとリズムを取っていた。

 やはり徳島県民の血が流れていたのだ。


 ヤットサー

   ヤットサー

 ヤット

   ヤット


 踊りは

   ハーネス!

 徳島の

   盲導犬!


 一かけ、二かけ、三かけて

   しかけた踊りはやめられぬ

 五かけ、六かけ、七かけて

   やっぱり踊りはやめられぬ


 息もぴったり、ノリノリである。エヴァンの足取りも軽い。


 次の演舞場に移動していると、ますます雨脚が強くなる。

 ふと、全国で起きている水害のことを想った。

「負けてたまるか!」

 被災地さらには戦争・紛争、自然災害などに苦しんでいる人々に、エールを贈りながら、力強く鳴り響く太鼓と鉦の音を聴いていた。


 ◆初めの一歩


(だけど、あの天候だから、見物客は少なかっただろうな)

 心残りはこれだった。

 娘に桟敷席の様子を聞いた。

「もう、すごかった。一杯だったよ」


 半世紀ほど前に見た東京の阿波踊り。今ではすっかり地域のビッグイベントに成長していると、区のHPホームページで紹介されていた。


 誰も初めはビギナー、初心者である。まあ、開き直ることなく、次回は少しくらい上達した踊りを披露しなければ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ