過去からきた幼なじみ 5 ごはんとお風呂
「あーおいしかった」
ひかりがソファーに寝ころんで満足そうに呟いた。
家に帰るとかえでとひかりは早速ごはんの支度を始めた。かえでは鮭を焼き、ごはんを炊いた。ひかりはというと、味噌汁をそれなりに手際よく作ってくれた。しかしそこで変なスイッチが入ってしまったらしく、「他にも作ってあげる」と宣言したあと冷蔵庫を漁り始め、なぜか焼きそばも作ったのだった。
テレビでは大食いの番組がやっている。芸人や大食いタレント(なんだそれは)が人間が食べる量じゃない料理をおいしいと言いながらテレビ画面の向こうで苦しそうに食べていた。
「おいしかったね」
かえでは食べ終わった食器を流し台へ運ぶ。食べすぎて自分のお腹が爆発しそうだった。もし、そこらへんの野良ネコが自分のボディに一発でもおみまいしようものなら、すぐにでも吐ける自信がある。
それでも、ひかりがせっかく作ってくれた焼きそばを残すなんてことはかえでにはあり得なかった。
かえでは全く動く気分になれないので、食器洗いは未来の自分に任せることにした。
「毎日いこうよ。買い物」
そんなかえでとは対照的に、ひかりはまだ余裕がありそうだ。食べ終わった直後に「あとでアイス食べよっと」と言ったときはかえでも耳を疑った。
「食材はまとめて買った方が楽だけどね」
「それでもさ」
まだひかりは仰向けのまま天井を見つめている。食べてすぐ寝ても大丈夫なのだろうか。
「いいよ」
かえでにとってもひかりの提案は願ったりだ。初恋の子と買い物をして、一緒に夕ごはんを作って食べられるなんて幸せとしか言いようがない。裁判でも100対0、勝訴間違いなし。
「やった」
ひかりは仰向けのまま、伸びをするように両手を挙げてバンザイをした。
「しっかし、この人たちよく食べるわよね。おいしそう」
これだけ食べてまだおいしそうなんて言えるひかりも大概だけどな、とかえでは思ったが口に出すのはやめておいた。
「お風呂はどうする?先に入る?」
かえではさりげなくひかりに声を掛けた。
「先にはいるー。アイス食べたいからもう入っちゃお」
ひかりはむくりと上半身を起こした。ごはんを食べている間にお風呂は沸かしてあった。
ひかりは着替えをとりにかえでの部屋に行った。リビングに置いておけばいいのに、とかえでは言ったのだが、ひかりは「サプライズ感を出したいじゃないの」と意味がわからない返答をしてきた。
「じゃ、お先」
「はいよ」
かえではひかりがいなくなったソファーに座り、苦しそうに息を吐いた。食べた直後にお風呂に入っても大丈夫なのだろうか。
「のぞかないでね」
ひかりはからかうようにかえでを見た。
「わかってるよ」
「ほんとはのぞきたい?」
あからさまに意地の悪い顔をしてひかりは首を傾げる。
「なわけあるか」
かえでは強がりをひねり出した。
「私が入ったあとの浴槽のお湯を飲むとか、やめてね」
「よくそんな発想が出てくるな!どっちが変態かわからねぇ!」
確かにその発想はなかった。これは試す価値がある。
「なんてね。そんなことしないのはわかってるけど」
ひかりは微笑むと、そう言い残してお風呂場へさっさと行ってしまった。
「まあ、そう言われたら何もできなくなるわな」
かえではため息をついてソファーにもたれかかった。
しばらくすると(50分をしばらくと言うのか)、ひかりはお風呂を終えて出てきた。
「あんたはトリートメントやら化粧水やら乳液やら揃えてるから助かるわ」
お風呂上がりのひかりの頬はほんのり赤く、肌がしっとりつやつやしているのが見てわかる。髪の毛は既にドライヤーで乾かしており、そのキューティクルは部屋の明かりをきれいに反射している。
あかりの全身からはふんわりと甘いにおいがした。かわいい女の子というのはなぜかくもいいかほり(あえての古語)がするのだろうか。もうこれは兵器と呼んでもいいだろう。