空の戦士たち
午前8時35分、統合艦隊による史上初の大規模航空作戦が開始された。
【空母『アルテミア』飛行甲板】
「第1航空団、発艦準備完了!」
トム・ファーマーソン中佐が、F/A-18戦闘攻撃機『ファルコン1』のコックピットで最終チェックを行っていた。
3年前は農民として弓矢を使っていた彼が、今や統合艦隊航空隊長として最新鋭戦闘機を操縦している。VRアーティファクトによる技術習得の奇跡だった。
「ファルコン1より管制塔、発艦許可を」
「管制塔よりファルコン1、発艦許可。ご武運を」
カタパルトの巨大な力により、F/A-18が時速300kmで甲板から空中に射出された。
「うおおおお!」
初の実戦発艦で、トムは改めて現代技術の凄まじさを実感した。
「頭ではわかっていたが、実戦の重力は別次元だ」
【第1航空団編成(アーテミス艦隊)】
- ファルコン隊:F/A-18戦闘攻撃機12機(トム中佐指揮)
- イーグル隊:F/A-18戦闘攻撃機12機(ジェームズ少佐指揮)
- ホーク隊:F/A-18戦闘攻撃機12機(ハリー大尉指揮)
- 早期警戒隊:E-2ホークアイ4機(情報収集・指揮統制)
【極東穏健派航空団(巡洋艦『リバティ』搭載)】
- ジャスティス隊:F-16戦闘機10機(マイケル大尉指揮)
- フリーダム隊:F-16戦闘機10機(エミリー中尉指揮)
- ピース隊:攻撃機A-10サンダーボルト10機(対艦攻撃専用)
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【ファルコン1内部 - トム・ファーマーソン中佐】
「高度5,000m到達。敵機を探知中」
トムがレーダーを確認しながら、内心の緊張と戦っていた。
「妻よ、息子よ、父は今、空を飛んでいる」
故郷ケントフィールドの農場を思い浮かべた。
「3年前は畑を耕していた手で、今は戦闘機を操縦している」
「でも、戦う理由は変わらない。家族を、仲間を、平和を守るため」
レーダー画面に、80個の光点が現れた。
「財団ドローン軍団接近!数80機!」
【イーグル2内部 - ジェームズ・ランサー少佐】
「ジェームズより各機、敵機視認」
元騎兵だったジェームズ(23歳)が、初の空中戦に臨んでいた。
「馬に乗って突撃していた頃とは、スピードが全然違う」
F/A-18の速度は時速1,800km。馬の50倍以上だった。
「でも、戦いの本質は同じだ。勇気と技術、そして仲間との信頼」
手汗を拭いながら、機銃とミサイルの安全装置を解除した。
「初実戦...怖くないと言えば嘘になる」
「でも、中佐や仲間たちと一緒なら、必ず勝てる」
【ホーク3内部 - ハリー・ブレイブ大尉】
元ベテラン剣士のハリー(52歳)は、最年長パイロットとして若い部下たちを率いていた。
「30年間剣を振っていた手で、今は操縦桿を握っている」
「剣術の『間合い』が、空中戦の『タイミング』と同じだと気づいた」
「若い連中には負けられん」
レーダーに映る敵機を見つめながら、戦闘経験者の冷静さを保っていた。
「敵は機械、我々は人間だ。人間の心と絆が、必ず勝利をもたらす」
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【財団自律型戦闘ドローン『ヴァルキリー』群】
財団が投入した80機のドローンは、これまで人類が見たことのない兵器だった。
【ヴァルキリーの仕様】
- 全長:12m(F/A-18より小型)
- 最高速度:マッハ2.5(音速の2.5倍)
- 武装:レーザー砲2門、小型ミサイル4発
- 特殊能力:完全ステルス、知能機械判断、群体戦術
- 弱点:近接格闘戦での対応不良
「敵機80機、編隊を組んで接近中」
E-2早期警戒機からの報告が入った。
「編隊が完璧すぎます。人間のパイロットでは不可能な精密さです」
ドローンは10機ずつ8個群に分かれ、数学的に完璧な菱形編隊で接近してきた。
「人間なら絶対にミスする編隊飛行を、完璧に維持しています」
「機械の利点は、恐怖がないこと。欠点は、人間の直感がないことです」
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午前8時45分、高度8,000mで史上初の有人機vs無人機大規模空中戦が開始された。
【第1次交戦 - ミサイル戦】
「ファルコン1より各機、射程内突入。AIM-120ミサイル発射準備」
トムが第1撃の指示を出した。
「各機、同時発射で敵編隊を分散させる」
「3、2、1、発射!」
統合艦隊戦闘機36機から、一斉にAIM-120中距離ミサイル72発が発射された。
白い煙の軌跡が空を走り、財団ドローン群に向かった。
しかし、ドローンの反応は人間を超越していた。
「敵機、完璧な回避機動を実行!」
ドローンは瞬時に編隊を解散し、個別の高速回避機動を開始した。人間なら確実に気絶するG力での急激な方向転換を、何の制約もなく実行している。
「ミサイル命中率20%!敵機16機撃墜、残り64機」
「我が方ミサイル残数激減」
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ミサイル戦で決着がつかず、戦闘は接近戦に移行した。
【ファルコン1 vs ヴァルキリー7号機】
「敵機1機、こちらに向かってくる!」
トムの機に、財団ドローンが高速で接近した。
「レーザー攻撃開始!」
緑色の光線が、トムの機体を掠めた。装甲の一部が溶解している。
「うわあ!レーザー兵器だと!?」
体験したことのない新兵器に、トムは動揺した。
しかし、農民としての直感が彼を救った。
「畑仕事で培った『気配を読む力』...今だ!」
ドローンがレーザーを再発射する瞬間、トムは直感的に急降下した。
「機械には、人間の『野性の勘』は理解できない」
20mm機銃による反撃で、ドローン1機を撃墜した。
【イーグル2 vs ヴァルキリー15号機】
「敵機が背後に!」
ジェームズが被追尾状態に陥った。
「騎兵時代の『馬との一体感』を思い出せ」
F/A-18を自分の身体の延長として感じながら、本能的な回避機動を開始した。
「機械の計算では予測不可能な、不規則な動きを」
左に急旋回、急上昇、宙返り、急降下—騎兵としての野生的な戦闘感覚が、現代戦闘機の操縦に活かされた。
「今だ!」
敵機の死角に回り込み、AIM-9ミサイルで撃墜成功。
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【ジャスティス隊の参戦】
「こちらジャスティス1、マイケル・フリーダム大尉」
極東連邦穏健派のF-16戦闘機10機が戦域に到着した。
「アーテミス航空隊と合流、財団ドローンを攻撃開始」
極東連邦の現代的な戦術と、アーテミスの古代技術強化が融合した。
「我が機のレーダーも古代技術で強化されている。敵の位置が手に取るように分かる」
【フリーダム隊の女性パイロット】
「フリーダム1、エミリー・ピース中尉」
極東連邦軍初の女性戦闘機パイロットが、堂々と空中戦に参加した。
「女性だから弱いなんて偏見は、空では通用しません」
「技術と勇気があれば、誰でも戦士になれる」
巧妙な機動でドローン2機を連続撃墜した。
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午前9時15分、戦況に重大な変化が生じた。
【ホーク3の緊急事態】
「おいおいおいうそだろ!うわあああ!」
ハリー・ブレイブ大尉の機体が、3機のドローンに包囲された。
「レーザー攻撃を受けています!機体右翼に被弾!」
52歳のベテランパイロットが、初めて生死の境を体験していた。
「エンジン出力低下!油圧系統に異常!」
機体は煙を吹きながら、墜落コースに入った。
「こちらホーク3、緊急脱出準備」
「ハリー大尉!」
トムが必死に駆けつけようとした。
「無理だ、間に合わない」
【緊急脱出 - 射出座席システム】
「脱出!脱出!」
ハリーが射出座席のレバーを引いた瞬間、爆発音と共にコックピットが空中に射出された。
「うおおおお!」
パラシュートが開き、ハリーは海上に降下していく。
しかし、財団ドローンが追撃してきた。
「パイロットを攻撃しようとしているぞ!」
この世界でのパラシュート降下中の敵パイロットへの攻撃は、規制されていなかった。
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「ファルコン1より各機、ハリー大尉の護衛に向かう」
トムが仲間救出のため、単機で3機のドローンに立ち向かった。
「3対1か...でも、仲間を見殺しにはできない」
【一対多の空中戦】
「来い、機械共!人間の魂を見せてやる!」
トムが弓兵時代の闘志を爆発させた。
20mm機銃による連射で、ドローン1機の翼を破壊。
しかし、残り2機に挟撃され、絶体絶命の状況に陥った。
「もうダメか...」
その時、予想外の援軍が現れた。
【ジェームズの決死の援護】
「中佐!こちらイーグル2!」
ジェームズが最高速度で駆けつけた。
「騎兵の突撃だ!」
AIM-9ミサイルでドローン1機を撃墜、20mm機銃で残り1機も撃破した。
「ジェームズ!助かった!」
「中佐、我々は仲間です。当然のことをしただけです」
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【海上でのサバイバル】
パラシュートで海上に着水したハリーは、救命ボートで漂流していた。
「いやはや、52歳で初の海上サバイバルか...」
30年の軍歴でも、実戦での脱出は初体験だった。
「でも、まだ生きている。仲間が必ず助けに来る」
【潜水艦による救助】
「こちら潜水艦『ハンター2』、海上のパイロットを発見」
セルゲイ・モロゾフ艦長(元ガルディア軍)が、敵味方を超えた人道的救助を実行した。
「元敵軍だった私が、アーテミス軍のパイロットを救助する」
「戦争は複雑だが、人命救助に国境はない」
ハリーが潜水艦に収容され、安全が確保された。
「ありがとう、艦長。命の恩人です」
「お互い様です。戦場では、人間同士が助け合わなければ」
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ハリー大尉の撃墜を受けて、アリアが重大な決断を下した。
【空母『アルテミア』艦橋】
「古代技術『エネルギー操作技術』を航空戦に適用します」
アリアが戦術支援装置を操作した。
「全戦闘機の性能を2倍に向上させ、武器威力を3倍に増幅します」
【古代技術強化の効果】
空中の統合艦隊戦闘機が、突然青白い光に包まれた。
「これは...機体性能が劇的に向上している」
トムが驚愕した。
「最高速度マッハ3、機動性3倍、燃料無限供給」
「20mm機銃の威力が3倍、ミサイル誘導精度が完璧」
【形勢逆転の開始】
古代技術強化により、統合艦隊戦闘機は財団ドローンを上回る性能を獲得した。
「ファルコン1より各機、反撃開始!」
トムが総攻撃を指示した。
「今度は我々の番だ!」
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【古代技術強化機の戦闘力】
「信じられません!」
ジェームズが興奮して報告した。
「機銃の威力でドローンを一撃撃墜!」
「機動性も敵を上回っています!」
強化されたF/A-18が、財団ドローンを次々と撃墜していく。
【10分間の一方的戦闘】
午前9時30分から40分まで、完全に形勢が逆転した。
「敵機撃墜64機中50機」
「我が方損失3機のみ」
「敵ドローン軍団、戦域から撤退開始」
トムが勝利を確信した。
「やったぞ!古代技術と現代技術、そして人間の心の組み合わせが勝利をもたらした」
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しかし、財団は最後の悪あがきを開始した。
【財団旗艦『プロメテウス』司令室】
「通常戦闘では敗北確実」
ドクター・プロメテウスが冷徹に判断した。
「残存ドローン14機を自爆攻撃に転換せよ」
「目標は統合艦隊空母『アルテミア』」
「アリア元帥を排除すれば、古代技術は無力化される」
【自爆ドローンの恐怖】
「敵残存機、編隊を解いて特攻攻撃開始!」
E-2早期警戒機からの緊急報告が入った。
「目標は我が艦隊、特に空母『アルテミア』です!」
14機のドローンが、自爆覚悟で統合艦隊に突撃してきた。
「各機、迎撃準備!」
しかし、自爆を前提とした敵機の迎撃は困難を極めた。
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【空母直接防御戦】
「ファルコン隊、空母直上で迎撃体制」
トムが最後の防衛ラインを構築した。
「アリア元帥を守り抜く!」
「イーグル隊、左翼からの侵入を阻止」
「ジャスティス隊、右翼を固めてください」
極東穏健派とアーテミス航空隊が、完璧な連携で空母を護衛した。
【対艦防空戦闘】
「敵機6機、空母に向けて突撃中!」
「各艦対空ミサイル、全力発射!」
イージス駆逐艦6隻が、SM-2対空ミサイル48発を一斉発射した。
空が白い煙の軌跡で埋め尽くされる中、壮絶な迎撃戦が展開された。
「敵機4機撃墜!残り2機が突破!」
【トムの最後の迎撃】
「ファルコン1、最後の敵機に向かう」
トムが単機で自爆ドローンに立ち向かった。
「農民の息子が、世界を守る戦いをしている」
「家族よ、故郷よ、見ていてくれ」
20mm機銃による最後の一撃で、自爆ドローンを空母から500m手前で撃墜した。
「やった!敵機全機撃墜!」
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午前10時、財団ドローン軍団80機が全滅し、航空戦が終結した。
【戦果確認】
- 財団ドローン:80機全滅
- 統合艦隊損失:3機(パイロット全員救助済み)
- 制空権:統合艦隊が完全確保
【疲弊したパイロットたちの帰還】
「ファルコン1、母艦着艦許可を」
トムの声には深い疲労が滲んでいた。
「許可する。ご苦労だった」
着艦ワイヤーに引っかかって停止したF/A-18から、トムがフラフラと降りてきた。
「中佐、お疲れ様でした」
整備員が駆け寄った。
「2時間の空中戦...陸戦では体験できない疲労だ」
しかし、トムの表情には満足感があった。
「でも、仲間を守り抜いた。これが軍人の誇りか」
【ジェームズの成長実感】
「イーグル2、着艦完了」
ジェームズも無事に帰還した。
「初実戦で5機撃墜...騎兵時代からは想像もできない戦果」
「でも、一番嬉しいのは、仲間が全員生きて帰れたこと」
【ハリーの感謝】
潜水艦で救助されたハリーも、空母に帰還していた。
「皆さんのおかげで命拾いしました」
52歳のベテランが、若い仲間たちに深く頭を下げた。
「特にトム中佐、ジェームズ少佐、命の恩人です」
「我々は仲間です。当然のことをしただけです」
トムが謙遜した。
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【空母『アルテミア』艦橋】
「航空戦終結。制空権を完全確保しました」
ウォルター提督がアリアに報告した。
「これで財団艦隊は航空支援を失いました」
「海上戦闘で圧倒的に有利な状況です」
アリアが次の段階の指示を出した。
「パイロットたちには十分な休息を」
「次は艦艇による海上決戦です」
「制空権があれば、我々の勝利は確実です」
【極東連邦穏健派との連携強化】
「サラ・フリーダム大佐、航空戦での連携は完璧でした」
アリアが極東穏健派に感謝を表明した。
「元帥、我々も正義のために戦えて誇りに思います」
サラ大佐が応答した。
「家族のことは心配ですが、元帥を信じています」
「必ずご家族を救出します」
アリアが約束した。
「それが『慈悲の統治』の責任です」
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制空権を確保した統合艦隊は、次の段階である海上決戦の準備に入った。
【パイロットたちの休息】
航空隊宿舎では、疲れ切ったパイロットたちが休息を取っていた。
「初実戦...思っていたよりもずっと疲れる」
ジェームズが呟いた。
「でも、技術が確実に役立った」
「そして何より、仲間との絆が勝利をもたらした」
トムが総括した。
「次は海上戦闘だ。艦砲射撃と雷撃戦になる」
「我々は制空権を確保した。必ず勝利する」
【財団の動揺】
一方、財団艦隊では深刻な動揺が広がっていた。
「ドローン軍団全滅...予想外の事態です」
技術者がプロメテウスに報告した。
「古代技術の威力を完全に見誤っていました」
「ならば、我々も最終手段を使用する」
プロメテウスが決断した。
「海中からの奇襲攻撃で、形勢を逆転させる」
海戦は第2ラウンドへと移行しようとしていた。制空権を失った財団の反撃が、海中から始まろうとしている。




