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新世界への扉


 大陸統一から3年が経過した。アーテミス王国の王都は、今や大陸統合政府の首都として繁栄していた。


「女王陛下、本日の統合議会の議題をご確認ください」


 20歳になったアリア・フォン・アーテミス女王の元に、秘書官が報告書を持参した。


【統一大陸の現状】

- 人口:2,400万人(3国合計)

- 統合軍:平和維持軍15,000名

- 経済成長率:年8%(古代技術活用効果)

- 技術レベル:現代技術と古代技術の融合完了


 しかし、表面的な繁栄の陰で、新たな課題が浮上していた。


「陛下、東海岸で不審な物体が発見されました」


 ガレス・ド・モンクレア統合軍司令官(元近衛隊長)が緊急報告を持参した。


「どのような物体ですか?」


「巨大な金属製の船です。全長300メートル、我々の技術を遥かに超えています」


 戦術支援装置の画面には、見たことのない形状の船舶が映し出されていた。平たい甲板、巨大な煙突、そして甲板上には翼を持つ奇妙な機械が並んでいる。


「これは...空母?」


 アリアがVRで学んだ現代軍事知識により、その正体を識別した。


「空母とは何でしょうか?」


「航空機を搭載・運用する軍艦です。つまり、空を飛ぶ機械を船で運ぶ技術です」


 ガレスが戦慄した。


「我々の魔導飛行船を上回る技術ということですか?」


「可能性があります。しかし、敵対的かどうかは不明です」


---


 その日の午後、驚くべき事態が発生した。


「陛下、空に巨大な飛行物体が出現しました!」


 王宮の見張り台から緊急報告が入った。


「魔導飛行船ではありません!形状が全く異なります!」


 アリアが急いで屋上に向かうと、空には信じられない光景が広がっていた。


 巨大な金属製の鳥のような物体が、轟音を響かせながら優雅に飛行している。翼は固定され、プロペラが回転している。


「旅客機...」


 アリアが呟いた。


「現代技術の航空機です。これは間違いなく他大陸からの訪問者です」


 航空機はゆっくりと王都郊外の平原に着陸した。


【異文明との初接触】


 着陸した航空機から、見慣れない服装の人々が降りてきた。


「私はノア・アトランティス、極東大陸連邦の外交使節です」


 流暢な共通語で話しかけてきたのは、40代の男性だった。スーツという見慣れない服装に身を包み、眼鏡をかけている。


「アリア・フォン・アーテミス、大陸統合政府女王です」


 アリアが外交儀礼に従って応対した。


「貴方がたの技術は驚異的です。どちらからいらっしゃったのですか?」


「海を越えた東の大陸から参りました。我々の連邦は50カ国で構成され、人口は3億人を超えます」


 この数字にアリア一行は息を呑んだ。自分たちの統一大陸の10倍以上の規模だった。


「我々は長年、この大陸の動向を観察してきました」


 ノア使節が続けた。


「3年前の『創造の神殿』での平和協定締結、古代技術の平和利用、統合民主制の成功...これらは我々の連邦でも大きな注目を集めています」


---


 その夜、アリアは一人でVRアーティファクトと向き合っていた。


「他大陸の存在...これまで知らなかった世界がある」


 VRを起動すると、これまで見たことのない新機能が解放されていた。


【新機能:異文化コミュニケーション支援】


『Cultural Integration Protocol - Global Communication』

- 目的:異なる文明間の相互理解促進

- 機能:言語翻訳、文化的背景説明、外交プロトコル学習

- 適用範囲:世界規模の国際関係


「これは...世界規模での統合を前提とした機能ですね」


 さらに、新たなシナリオが解放されていた。


『Global Naval Operations - Carrier Strike Force』

- 内容:空母機動部隊による世界規模作戦

- 学習要素:海軍戦術、航空戦術、補給戦略

- 規模:複数空母、航空機200機、支援艦艇50隻


『Diplomatic Crisis Management - International Relations』

- 内容:多国間外交における危機管理

- 学習要素:国際法、文化的配慮、経済制裁、平和的解決

- 複雑度:50カ国以上の利害調整


「世界はもっと大きく、複雑だった」


 アリアは自分の視野の狭さを実感していた。


---


 翌日の正式会談で、極東大陸連邦の実情が明らかになった。


「我々の連邦は、確かに技術的には先進的です」


 ノア使節が率直に説明した。


「航空技術、海軍技術、通信技術において、貴大陸を上回っています」


【極東大陸連邦の技術レベル】

- 航空技術:ジェット戦闘機、大型旅客機、ヘリコプター

- 海軍技術:空母、原子力潜水艦、ミサイル駆逐艦

- 通信技術:衛星通信、インターネット、GPS

- エネルギー:原子力発電、太陽光発電、風力発電


「しかし、我々には古代技術がありません」


 ノア使節が重要な事実を明かした。


「『創造の神殿』のような古代遺跡は、我々の大陸には存在しないのです」


 これが、両大陸の根本的な違いだった。


 極東連邦は現代技術を独自に発展させたが、アーテミス大陸は古代技術を基盤として発展した。


「つまり、相互補完の関係にあるということですね」


 アリアが外交的に総括した。


「我々の古代技術と、貴連邦の現代技術を融合すれば、より素晴らしい文明が築けるかもしれません」


---


 緊急招集された統合議会では、新世界への対応策が討議された。


【出席者】

- アリア女王:大陸統合政府首脳

- カール・アイゼンハルト皇帝:ガルディア代表(53歳)

- アウグストゥス・マクシミリアヌス皇帝:サンクトゥス代表(53歳、改心後)

- ノア・アトランティス使節:極東連邦代表


「我々は新たな局面を迎えました」


 アリアが会議を開始した。


「世界は我々が考えていたよりもはるかに広大で複雑です」


 皇帝カール・アイゼンハルトが軍事的観点から発言した。


「極東連邦の軍事技術は脅威でもあり、機会でもあります。慎重な対応が必要です」


 皇帝アウグストゥス・マクシミリアヌスが政治的視点を提供した。


「3年前の平和協定の経験を活かし、拡大した枠組みでの協力体制を構築すべきです」


 ノア使節が極東連邦の提案を説明した。


「我々は『世界平和機構』の設立を提案します」


【世界平和機構構想】

- 参加国:両大陸の全ての国家

- 目的:世界規模での平和維持、技術共有、文化交流

- 機能:国際法制定、紛争調停、災害支援、技術開発


「興味深い提案です」


 アリアが前向きに応答した。


「ただし、詳細な検討が必要です。特に、技術共有の範囲と方法について」


---


 会談の合間、守護者がアリアに重要な情報を伝えた。


「アリア様、極東大陸の存在により、重要な事実が判明しました」


「どのような事実ですか?」


「古代テクノス・アルカナ文明は、世界規模で存在していました」


 守護者が驚くべき真実を明かした。


「現在の『創造の神殿』は、世界中に存在する古代遺跡の一つに過ぎません」


「つまり、他にも古代技術が?」


「はい。そして、最も重要な『根源の神殿』が、両大陸の中間地点である海底に存在します」


 戦術支援装置の画面に、海底神殿の映像が表示された。


【根源の神殿】

- 場所:両大陸中間の深海底(水深3,000m)

- 規模:『創造の神殿』の10倍

- 技術レベル:現在の古代技術を遥かに超越

- 危険性:使い方を誤れば世界崩壊級の破壊力


「この神殿の技術は、世界そのものを根底から変える力を秘めています」


 守護者が警告した。


「もし悪意ある者の手に渡れば、両大陸が滅亡する可能性があります」


---


 一方、極東大陸連邦内部では、秘密組織が暗躍していた。


【新テクノ・アルカナ財団】


「アトランティス使節の報告を受けました」


 黒いスーツの男が、薄暗い会議室で報告していた。


「アーテミス大陸の古代技術は、我々の予想を上回る威力です」


「特に注目すべきは、アリア女王の統合指揮能力です」


 財団理事長のドクター・プロメテウスが冷徹に分析した。


「彼女の能力を我々の支配下に置くか、あるいは排除する必要があります」


【新テクノ・アルカナ財団の正体】

- 表向き:技術開発・投資会社

- 実態:世界支配を目論む秘密結社

- 資金源:50カ国の軍需産業、エネルギー産業

- 目標:古代技術の独占、世界統一政府の樹立(財団支配下)

- 手段:経済侵略、政治工作、軍事的威嚇


「極東連邦政府は我々の傀儡に過ぎません」


 プロメテウスが不敵に笑った。


「ノア使節も、真の目的を知りません。彼は我々の駒として動いているだけです」


「『根源の神殿』の存在も、既に我々の情報網で確認済みです」


 財団の技術顧問が補足した。


「深海探査技術により、神殿への到達は可能です。問題は、古代技術の解析能力です」


「それこそが、アリア女王を必要とする理由です」


 プロメテウスが計画を明かした。


「彼女を拉致し、『根源の神殿』の技術解析を強制する」


「あるいは、彼女の技術を複製し、我々の支配下に置く」


---


 その夜、アリアは一人で王宮の書斎にいた。


「世界は複雑すぎる...」


 3年前の決戦時とは全く異なる種類の重圧を感じていた。


「大陸統一という明確な目標があった時は良かった。でも今は...」


【新たな葛藤の要素】

- 責任の重大さ:世界規模での指導者としての重圧

- 情報の不足:極東連邦の真の意図への疑念

- 孤独感:世界レベルの意思決定を行う孤独

- 技術の両面性:古代技術の平和利用vs軍事転用リスク


「3年前は敵が明確だった。ルシファーの野望、戦争の脅威...」


「でも今は、平和な外交の仮面の下に何が隠れているのか分からない」


 VRアーティファクトを手に取りながら、アリアは深い思索に沈んだ。


「私には本当に、世界を導く資格があるのだろうか?」


 23歳という若さで、世界規模の責任を背負うことの重圧が、アリアの心を蝕み始めていた。


---


 迷いを抱えたアリアは、VRアーティファクトの新機能を活用することにした。


「『Diplomatic Crisis Management』シナリオを開始します」


【VRシナリオ:国際外交危機管理】


 VR空間に現れたのは、国連本部のような巨大な国際機関だった。


『参加国:52カ国』

『議題:資源をめぐる国際紛争』

『制約:軍事行動禁止、経済制裁のみ使用可能』

『目標:平和的解決、全参加国の利益確保』


「これが世界規模の外交...」


 アリアは各国代表との交渉を開始した。


 しかし、すぐに外交の複雑さを実感することになった。


「A国の利益とB国の利益が完全に対立している」


「C国は表向き中立を装いながら、裏でD国と取引している」


「E国は経済制裁を恐れて、本音を隠している」


 現実の世界では、正義と悪が明確に分かれているわけではない。すべての国が自国の利益を最優先とし、複雑な駆け引きを行っている。


【24時間後 - シナリオ部分成功】


『結果:紛争の一時停止、根本解決には至らず』

『評価:B級(外交的妥協の実現)』

『学習事項:世界平和の困難さ、完璧な解決策の不存在』


「完璧な解決策は存在しない...」


 アリアがVRから学んだ最も重要な教訓だった。


「世界規模では、常に妥協と調整の連続なのですね」


---


 VR訓練を終えたアリアの元に、緊急報告が舞い込んだ。


「陛下、大変な事態です!」


 ガレスが血相を変えて駆け込んできた。


「極東連邦の空母機動部隊が、我が大陸沿岸に接近しています!」


 戦術支援装置の画面には、衝撃的な映像が表示されていた。


【極東連邦空母機動部隊】

- 空母:3隻(全長350m級)

- 護衛艦:駆逐艦8隻、巡洋艦4隻

- 潜水艦:攻撃型原子力潜水艦6隻

- 航空機:戦闘機120機、爆撃機30機

- 総兵力:約15,000名


「これは我々の平和維持軍15,000名に匹敵する戦力です」


「ノア使節は平和的外交だと言っていたのに...」


 アリアの心に、裏切られたような感情が湧き上がった。


 その時、王宮にノア使節から緊急通信が入った。


「アリア女王、申し訳ありません!」


 ノア使節の声は切迫していた。


「私は欺かれていました!真の目的は外交ではありません!」


「どういうことですか?」


「極東連邦政府の背後に、『新テクノ・アルカナ財団』という組織が存在します」


「彼らの目的は、古代技術の強奪と世界支配です」


「空母機動部隊は、古代技術を奪取するため派遣されました」


---


 緊急事態を受けて、大陸統合政府は臨戦態勢に移行した。


「統合軍全軍に緊急招集命令」


 アリアが大将としての権限を発動した。


「敵戦力は空母機動部隊。我々はこれまで経験したことのない海戦・航空戦に直面します」


【統合軍現有戦力】

- 地上軍:12,000名(SASタクティカル装備)

- 魔導飛行船:30隻(従来型)

- 古代技術装備:『創造の神殿』レベル

- 指揮システム:統合指揮プロトコル


「戦力差は明らかです」


 ウォルター・オールドガード統合軍参謀長が分析した。


「敵の現代海軍技術に対し、我々は有効な対抗手段を持ちません」


「でも、我々には古代技術があります」


 アリアが希望を示した。


「そして、学ぶべき新たな戦術があります」


 アリアは『Global Naval Operations』シナリオの習得を決意した。


---


「『Global Naval Operations - Carrier Strike Force』を開始します」


 アリアが新たなVRシナリオに挑戦した。


【VRシナリオ:空母機動部隊作戦】


 VR空間には、現代的な海軍司令部が現れた。


『友軍:空母機動部隊3群(空母9隻、護衛艦30隻、航空機400機)』

『敵軍:敵空母機動部隊2群(空母6隻、潜水艦20隻)』

『戦域:太平洋全域』

『目標:制海権確保、敵艦隊殲滅』


「これが現代海戦の規模...」


 アリアは空母『エンタープライズ』の艦橋で、艦隊司令官として指揮を執った。


「第1空母群、戦闘機発進。敵艦隊の位置を確認せよ」


「第2空母群、爆撃機により敵空母を攻撃」


「第3空母群、対潜戦闘により潜水艦を制圧」


 海戦は3次元的な戦術が要求された。海上、海中、上空のすべてで同時に戦闘が展開される。


「潜水艦による雷撃を回避しながら、航空機により敵艦を攻撃」


「レーダーによる早期警戒と、電子戦による敵通信妨害」


「補給艦による燃料・弾薬の継続補給」


 現代海戦は、これまでの陸戦とは全く異なる複雑さを持っていた。


【48時間後 - シナリオクリア】


『戦果:敵艦隊完全制圧、制海権確保』

『評価:A級(優秀な海軍指揮)』

『階級:大将→海軍元帥昇格』

『新装備獲得:現代海軍装備一式』


【新獲得装備】

- ニミッツ級原子力空母:航空機90機搭載

- イージス駆逐艦:6隻(対空・対艦・対潜能力)

- 攻撃型原子力潜水艦:4隻(ステルス性・深海作戦能力)

- F/A-18戦闘攻撃機:120機(マルチロール戦闘機)

- E-2早期警戒機:8機(レーダー監視・指揮統制)


「これで対等に戦えます」


 アリアが元帥として新装備を確認した。


---


 極東連邦の空母機動部隊接近と時を同じくして、守護者から重要な警告が届いた。


「アリア様、新テクノ・アルカナ財団が『根源の神殿』の位置を特定しました」


「彼らは深海探査船により、神殿への到達を目指しています」


「もし財団が根源の技術を入手すれば、世界支配が現実となります」


 戦術支援装置の画面に、海底神殿周辺の状況が表示された。


【根源の神殿周辺状況】

- 財団探査船:3隻(深海探査・採掘能力)

- 護衛艦艇:駆逐艦4隻、潜水艦6隻

- 神殿までの距離:海底3,000m、到達まで72時間

- 危険度:世界破滅級技術の暴走リスク


「我々も神殿に向かわなければなりません」


 アリアが決断した。


「新装備の空母機動部隊で、財団より先に神殿に到達します」


「しかし、海戦の経験がない我が軍で大丈夫でしょうか?」


 ガレスが懸念を表明した。


「VRで48時間の特訓を行いました。元帥として、必ず勝利します」


 アリアの瞳に、新たな決意の炎が宿っていた。


---


 状況は急速に悪化していた。


【現在の勢力配置】

- アーテミス統合海軍:空母1隻、護衛艦10隻、航空機120機

- 極東連邦機動部隊:空母3隻、護衛艦12隻、航空機150機

- 新テクノ・アルカナ財団:探査船3隻、護衛艦10隻、潜水艦6隻

- 争点:根源の神殿(世界支配級古代技術)


「これは世界大戦の始まりかもしれません」


 アリアが重大な認識を示した。


「ただし、我々の目的は技術の独占ではありません」


「根源の神殿の技術を、世界平和のために正しく使用すること」


「それが我々の使命です」


---


 出撃を翌日に控えた夜、アリアは一人で新装備の原子力空母『アルテミア』の艦橋に立っていた。


「まさか海軍元帥へ...想像もしていませんでした」


 VRアーティファクトを手に、これまでの道のりを振り返った。


「私の成長、大陸の統一、そして世界平和」


「しかし、世界は私が思っていたよりもはるかに複雑で危険でした」


 星空を見上げながら、アリアは新たな誓いを立てた。


「それでも、諦めません」


「技術は人のために、力は平和のために」


「世界中の人々が幸せに暮らせる日まで、私は戦い続けます」


 海風が元帥の軍服を揺らしたが、アリアの決意は揺らがなかった。


 明日、人類史上最大の戦いが始まる。世界の運命を決する『根源の神殿』をめぐって、三つの勢力が激突する。



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