上級継承者への道
『創造の神殿』での戦闘から3ヶ月が経過した。アーテミス王国とガルディア帝国の軍事同盟は、表面的には順調に進展していたが、現実には多くの困難に直面していた。
【統合司令部設立会議】
アーテミス王宮の大会議室には、両国の軍事指導者が一堂に会していた。
【出席者】
- ガルディア帝国皇帝:カール・アイゼンハルト(50歳、軍事的現実主義者)
- アーテミス王女:アリア・フォン・アーテミス(17歳、統合司令官候補、少佐)
- ガルディア軍参謀長:ヴォルコフ将軍
- アーテミス軍統合戦術部隊長:ウォルター・オールドガード大佐
※サンクトゥス帝国皇帝アウグストゥス・マクシミリアヌスは敵国指導者として、情報収集・対策検討の対象とする。
「王女殿下、統合軍事作戦の現状について報告いたします」
ヴォルコフ将軍が厳しい表情で発言した。
「両軍の装備体系、戦術思想、指揮系統に大きな相違があり、統合作戦の実施は予想以上に困難です」
【統合作戦の具体的課題】
| 課題分野 | アーテミス軍 | ガルディア軍 | 統合の困難度 |
|----------|-------------|-------------|-------------|
| 装備体系 | VR由来現代兵器 | 伝統的魔導兵器 | 極めて高い |
| 戦術思想 | 機動戦術重視 | 重装歩兵戦術 | 高い |
| 指揮系統 | 少数精鋭指揮 | 階層的大規模指揮 | 中程度 |
| 通信手段 | 戦術支援装置 | 魔法通信 | 高い |
皇帝カール・アイゼンハルトが現実的な懸念を表明した。
「王女殿下の戦術的才能は認めますが、我が帝国軍1,200名を指揮するには、さらなる経験が必要でしょう」
この指摘は正当だった。アリアはアーテミス軍800名の指揮には慣れているが、異なる軍事文化を持つ2,000名の統合指揮は未経験だった。
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同盟軍の課題を受けて、アリアは新たなVR訓練に取り組むことにした。
「ガレス、『Coalition Command - Multi-Nation Crisis』シナリオを開始します」
夜、執務室でVRアーティファクトを起動した。
【VRシナリオ開始:多国籍軍統合作戦】
VR空間に現れたのは、現代の国際平和維持軍司令部だった。5カ国の軍が参加する大規模統合作戦のシミュレーションが展開される。
『友軍:多国籍軍3,000名(装備・戦術が各国で大きく異なる)』
『敵軍:テロリスト連合5,000名(非対称戦術使用)』
『勝利条件:民間人保護、多国籍軍の結束維持、敵勢力完全排除』
『特殊条件:各国軍の文化・言語・宗教的配慮必須』
「これは...『創造の神殿』での経験を遥かに上回る複雑さです」
VR内で、アリアは5カ国の将軍たちと対峙していた。
「アメリカ軍ジョンソン将軍、貴軍の航空支援を要請します」
「ロシア軍ペトロフ将軍、重装甲部隊の展開をお願いします」
「中国軍リー将軍、後方支援の調整を」
「イギリス軍スミス将軍、特殊部隊の投入タイミングを」
「フランス軍デュボア将軍、工兵部隊による障害除去を」
しかし、各国の利害関係と軍事文化の違いにより、統合作戦は困難を極めた。
「ジョンソン将軍!勝手な航空攻撃は民間人を危険に晒します!」
「ペトロフ将軍、重装甲突撃は他国軍との連携を無視しています!」
「リー将軍、後方支援の優先順位について他国と調整してください!」
多国籍軍の指揮は、単なる軍事的技術を超えて、外交的調整能力を要求していた。
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VR訓練と並行して、現実世界でも両国軍の統合訓練が開始された。
【王宮訓練場での合同演習】
「アーテミス第1小隊、ガルディア第3中隊と連携し、模擬敵を制圧せよ」
アリアが指揮する合同演習だったが、VRでの多国籍軍経験を活かそうと試みた。
「訓練での経験を参考に、各部隊の特性を活かした配置を取ります」
しかし、現実の文化的差異は予想以上に深刻だった。
「王女殿下、ガルディア軍の重装歩兵が我が軍の機動ルートを遮断しています」
トム・ファーマーソンが困惑の声を上げた。
「言語の壁のせいか、命令の伝達にも時間がかかります」
ハリー・ソードマンも戦術的混乱を報告した。
「我が軍のジャベリン射撃と、ガルディア軍の魔法攻撃のタイミングが合いません」
アリアはVRでの多国籍軍調整方法を現実に適用しようとしたが、文化差の壁に阻まれてしまった。
「VRでの統合指揮システムは完璧でしたが、現実では各国軍の誇りや伝統が障害になります」
一方、ガルディア軍側も同様の困惑を示していた。
「セルゲイ大尉、アーテミス軍の移動速度が速すぎて、我が軍の陣形が崩れます」
「ミハイル軍曹、彼らの『魔法の武器』の威力が予想以上で、我が軍の戦術が通用しません」
【VR経験と現実のギャップ】
- VR:完璧な通信システム、文化的配慮不要
- 現実:言語の壁、宗教的タブー、軍事的誇り
- 結論:技術的統合だけでなく、心理的統合が必要
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軍事的課題に加えて、両国間の文化的差異も問題となった。
【食事・宗教・習慣の違い】
ガルディア軍兵士のイワン・ストロングアームが、食堂で問題を起こした。
「なぜアーテミス軍は肉を食べないのだ?我が国では肉こそが戦士の力の源だ」
「我が国の神への祈りの時間を邪魔するな!」
一方、アーテミス軍のジェームズ・ランサーも反発した。
「ガルディア軍は規律が厳しすぎる。なぜ上官に絶対服従しなければならないのだ?」
「我が国では個人の判断も尊重される」
このような文化的対立が、軍事協力の障害となっていた。
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統合作戦の困難が続く中、守護者が重要な提案を持参した。
「王女殿下、テクノス・アルカナ上級継承者の試練を開始する時が来ました」
「現在の状況では、古代技術の真の力なしには、サンクトゥス帝国に対抗できません」
守護者が神秘的な装置を取り出した。
「『時空間修行場』です。この装置により、時間の流れを操作した特別な修行が可能になります」
【上級継承者試練の詳細】
- 修行場所:異次元空間(時間の流れが現実の10倍)
- 修行期間:現実時間1ヶ月 = 修行時間10ヶ月
- 習得技術:物質完全変換、時空間制御、生命力強化、情報制御
- リスク:失敗時の生命危険、精神的負荷、現実復帰困難
「ただし、この修行は極めて危険です」
守護者が厳重に警告した。
「修行中は現実世界から完全に隔離されます。その間、王国の統治はどうされますか?」
アリアは深く考え込んだ。サンクトゥス帝国の脅威は1年後に迫っている。しかし、1ヶ月の間、王国を離れることのリスクも大きい。
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「ガレス、ウォルター大佐、オズボーン公爵をお呼びください」
アリアが重要な決断を下した。
「私の修行中、摂政体制を確立します」
【摂政評議会の構成と個性】
- 軍事摂政:ガレス・ド・モンクレア(近衛隊長)
- 性格:忠実、実直、王女の秘密保持を最優先
- 政治摂政:オズボーン公爵(保守派代表)
- 性格:慎重、伝統重視、国内安定を最優先
- 改革摂政:ランカスター伯爵(建設的改革派)
- 性格:積極的、革新志向、改革推進を重視
- 民衆摂政:マーカス・レボリューション(急進派代表)
- 性格:情熱的、理想主義、民衆の声を代弁
「皆さんに1ヶ月間、王国の統治をお任せいたします」
「姫様、それは重大な責任です」
ガレスが懸念を示した。王女の不在を隠し通すことへの不安が表情に現れていた。
「件の話、これらをどこまで共有するのですか?」
「最小限に留めます。『特別な修行のため1ヶ月間隔離される』とだけ説明してください」
オズボーン公爵が慎重な性格から国内安定への懸念を表明した。
「王女殿下、民衆の動揺を避けるため、可能な限り通常の統治を維持すべきです」
一方、ランカスター伯爵は積極的な改革推進を提案した。
「この機会に、王女殿下の不在でも機能する統治システムを構築しましょう」
マーカス・レボリューションは民衆の視点から意見した。
「急進派の中には、王女の不在を『逃亡』と受け取る者もいるでしょう。透明性の確保が重要です」
【摂政体制内部の潜在的対立】
早くも方針をめぐって意見の相違が露呈した。
「王女の影武者など欺瞞だ!民衆を欺くことは許されない!」
マーカス・レボリューションが批判すると、ガレスが鋭く問い返した。
「では他に代案があるのか?王女の不在が発覚すれば、国家機密が漏れる恐れがある」
オズボーン公爵が仲裁に入った。
「冷静になりましょう。我々の使命は王国の安定維持です」
ランカスター伯爵が建設的な提案をした。
「影武者は最小限に留め、主に文書による統治を中心としてはいかがでしょう」
この初期の対立により、摂政体制の運営が容易ではないことが明らかになった。
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皇帝カール・アイゼンハルトへの説明も困難だった。
「王女殿下、統合作戦の準備中に、なぜ1ヶ月も不在になるのですか?」
フランシス・ニュートラルを通じて送られた皇帝の疑問は当然だった。
「特別な軍事訓練のためです。1ヶ月後には、現在の10倍の指揮能力を身につけて戻ります」
「10倍とは、具体的にどのような訓練ですか?」
「詳細は軍事機密ですが、統合作戦の成功に不可欠な技術です」
皇帝は疑念を抱きながらも、アリアの判断を信頼することにした。
「分かりました。しかし、1ヶ月後には確実に結果を示してください」
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修行開始前に、アリアは最後のVR訓練を行った。
「『Anti-Aircraft Warfare - Flying Fortress Battle』シナリオを開始します」
【VRシナリオ:大型飛行船戦】
VR空間には、サンクトゥス帝国と同規模の敵飛行船30隻が出現した。
『敵戦力:魔導飛行船30隻、搭載兵力15,000名』
『友軍:統合軍2,000名、限定装備』
『特殊条件:民間都市上空での戦闘、建造物損害最小化』
「これが1年後の現実になります」
アリアは『創造の神殿』での戦闘を思い出していた。飛行船10隻でさえ苦戦したのに、30隻となれば...
「ジャベリンの対空精密射撃を実践します」
VR内で、改良されたジャベリン対空戦術を試行した。
「角度85度、風向修正+3度、目標飛行船の推進部を狙撃」
「発射!」
ジャベリンミサイルが高高度の飛行船に命中。しかし、30隻すべてを撃墜するには、弾薬が絶対的に不足していた。
「現在の装備では、最大でも飛行船15隻の撃墜が限界です」
VR訓練により、現実の厳しさが明確になった。
【120分後 - シナリオ失敗】
『結果:飛行船12隻撃墜、18隻残存』
『評価:C級(改善必要)』
『課題:弾薬不足、対空戦術の限界、統合指揮の困難』
「やはり、古代技術の上級継承なしには、勝利は不可能です」
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修行開始前夜、アリアはガレスと最後の対話を行った。
「ガレス、1ヶ月後、私は別人になっているかもしれません」
「どういう意味ですか?」
「古代技術の上級継承により、人格や記憶に影響が出る可能性があります」
守護者からの警告を思い出していた。
「もし私が変わってしまったら...」
「姫様」
ガレスが厳粛な表情で答えた。
「どのように変わろうとも、貴方は我らが王女です。私たちは貴方を信じ、お支えいたします」
「ありがとう。それが聞けて安心しました」
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翌朝、アリアは守護者と共に王宮地下の秘密の部屋に向かった。
「『時空間修行場』を起動します」
守護者が古代装置を操作すると、空間に巨大な光の渦が出現した。
「この渦の向こうに、修行場があります。時間の流れは現実の10倍です」
「1ヶ月の修行で、10ヶ月分の技術習得が可能です」
アリアは決意を固めて光の渦に向かった。
「必ず、皆を守れる力を身につけて戻ります」
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光の渦を抜けると、アリアは見たことのない世界に立っていた。
空は紫色に輝き、重力は地球の半分程度。周囲には古代文明の遺跡が点在している。
「ここが修行場ですか」
「はい。ここで貴女は4つの上級技術を習得します」
守護者の声が空間に響いた。
「まず最初の試練、『物質完全変換技術』です」
アリアの前に、巨大な岩石が出現した。
「この岩石を、金属に変換してください。ただし、分子構造を完全に理解して行う必要があります」
「分子構造の理解...VRで学んだ化学知識を応用するのですね」
アリアは手を岩石にかざした。しかし、何も起こらない。
「技術だけではありません。精神的な集中力、生命力の制御、そして何より『意志の力』が必要です」
最初の試練は、予想以上に困難だった。
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同じ頃、現実世界では摂政評議会が初会合を開いていた。
「アリア王女殿下の不在中、我々が王国を守らなければならない」
ガレスが会議を開始した。
「まず、ガルディア帝国との統合作戦準備を継続します」
オズボーン公爵が政治的懸念を表明した。
「王女の長期不在について、民衆に説明が必要です」
「『特別な軍事訓練』として発表済みです」
ランカスター伯爵が補足した。
「しかし、ガルディア帝国から疑念の声が上がっています」
マーカス・レボリューションが現実的な問題を指摘した。
「急進派の一部で、『王女が逃亡したのではないか』という噂が広まっています」
摂政体制は、アリアの不在という困難な状況で王国を維持しなければならない。
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一方、サンクトゥス帝国では、古代技術の軍事応用が急速に進展していたが、内部にも問題を抱えていた。
皇帝アウグストゥス・マクシミリアヌスが軍事評議会を主宰していた。
「ドミニク、新兵器の開発状況は?」
「陛下、『創造の神殿』で取得した技術により、画期的な進歩を遂げています」
【サンクトゥス軍新兵器開発状況】
| 兵器名 | 開発進捗 | 実戦配備予定 | 威力倍率 |
|--------|----------|-------------|----------|
| 超大型魔導飛行船 | 80% | 8ヶ月後 | 従来の5倍 |
| 次世代魔導戦車 | 90% | 6ヶ月後 | 従来の3倍 |
| 古代技術兵士 | 60% | 10ヶ月後 | 通常兵の10倍 |
| 殲滅魔法増幅器 | 95% | 4ヶ月後 | 従来の20倍 |
「素晴らしい。1年後の決戦では、アーテミス・ガルディア連合軍など取るに足らない」
皇帝の冷徹な計算は、着実に実現に向かっていた。
「ルシファー、支配者派の技術協力は順調か?」
「はい、陛下。我々は既に世界支配の準備を整えています」
しかし、会議室の片隅で、一人の軍人が複雑な表情を浮かべていた。
【サンクトゥス帝国内部の穏健派抵抗】
軍事評議会後、コンラッド・アイゼンベルク中将が密かに部下と接触していた。
「将軍、ルシファーの極端な思想をどう思われますか?」
部下のハンス・フリードマン大佐が慎重に尋ねた。
「世界支配など狂気の沙汰だ」
コンラッドが低い声で答えた。
「我が帝国の誇りは理解するが、民衆を犠牲にした征服戦争など、真の軍人の道ではない」
「では、どうすれば?」
「機会を待つ。皇帝陛下の目が覚める時を。そして、必要ならば我々が行動を起こす」
新兵器開発を急ぐサンクトゥス帝国内部では、ルシファーの極端な思想に反発する穏健派軍人が密かに抵抗を模索していた。
「アーテミス王国の『慈悲の統治』について調べろ」
コンラッドが部下に指示した。
「もしかすると、彼らとの対話の道があるかもしれない」
帝国内部の分裂は、まだ表面化していないが、確実に進行していた。
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異次元空間での修行1週間目(現実時間2日)、アリアは最初の技術習得に成功した。
「やっと岩石を鉄に変換できました」
手のひらの岩石が、完璧な鉄の塊に変化している。
「素晴らしい。しかし、これは初歩です」
守護者の声が響く。
「次は、複数の物質を同時に変換してください。岩石を鉄に、木材を銅に、水を銀に」
難易度が急激に上がった。複数の物質の分子構造を同時に制御する必要がある。
「集中...VRで学んだ多重作業処理能力を応用します」
VR訓練での経験が、古代技術習得に役立っていた。
【修行1週間目成果】
- 単一物質変換:100%習得
- 複数物質変換:60%習得
- 大量物質変換:20%習得
「順調です。このペースなら、予定通り10ヶ月で全技術を習得できるでしょう」
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修行開始から1週間後(現実時間)、摂政体制に最初の危機が訪れた。
「ガレス様、大変です!」
マーカス・レイノルズが血相を変えて報告した。
「サンクトゥス帝国のスパイが王都に潜入しています!王女の不在を探っているようです」
「何名ですか?」
「推定5名。非常に高度な技術を持っています」
オズボーン公爵が政治的判断を求めた。
「王女の不在が発覚すれば、国内外に大きな動揺を与えます」
「対策を講じましょう」
ガレスが決断した。
「王女の『影武者』を立てます。遠目からは判別困難な人物を選び、公式行事に出席させます」
この緊急事態への対処により、摂政体制の結束が試されることになった。
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異次元空間での修行2週間目、アリアは次の段階に進んだが、深刻な精神的危機に直面していた。
「時空間制御技術は、最も危険な技術です」
守護者が厳重に警告した。
「失敗すれば、異次元に永久に閉じ込められる可能性があります」
アリアの前に、時空間の歪みが出現した。
「この歪みを制御し、空間移動を実現してください」
「まず、空間の構造を理解する必要があります」
アリアは手を歪みにかざした。瞬間、強烈な引力に引き込まれそうになる。
「危険です!制御を失いました!」
守護者が緊急介入し、アリアを歪みから引き離した。
これで5回目の失敗だった。アリアの心に、焦燥と恐怖が蝕み始めていた。
【アリアの内面的苦悩】
「なぜできないのです...皆が私を信じて待っているのに」
アリアは膝をつき、両手で顔を覆った。
「ガレスは摂政として重圧を背負い、農民たちは改革の継続を信じ、ガルディア軍は私の帰還を待っている」
「それなのに、私は最も基本的な時空間制御すらできない」
涙が頬を伝った。修行開始以来、初めて見せる弱さだった。
「王女殿下、技術習得に焦りは禁物です」
守護者が慰めるように語りかけた。
「しかし、時間がありません!あと2週間で、すべての技術を習得しなければ...」
その時、アリアの脳裏に仲間たちの顔が浮かんだ。
トム・ファーマーソンの農民出身の誠実さ、ハリー・ソードマンの30年の戦闘経験から生まれる信頼、ジェームズ・ランサーの若い騎兵としての情熱。
「皆が私を信じてくれている。私が諦めるわけにはいかない」
アリアは立ち上がり、再び時空間の歪みに向き合った。
「もう一度挑戦します。今度は、技術ではなく『意志の力』で制御してみます」
恐怖を乗り越えた時、アリアの意志は新たな次元に達していた。
「時空間制御技術の習得に必要なのは、強い意志力と精神的安定が不可欠です。焦ってはいけません」
最初の失敗により、技術習得の困難さを実感したが、同時に精神的な成長の機会でもあった。
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王女不在の中でも、ガルディア帝国との統合作戦は継続されていた。
「ヴォルコフ将軍、両軍の合同演習の成果はいかがですか?」
ガレスが摂政として軍事会議を主宰していた。
「改善は見られますが、王女殿下の直接指揮に比べれば、効率は60%程度です」
皇帝カール・アイゼンハルトからの圧力も強まっていた。
「アーテミス軍の統合指揮能力に疑問があります。このままでは同盟の意味がありません」
ガレスは困難な立場に置かれていた。アリアの修行について詳細を明かせない中で、同盟関係を維持しなければならない。
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修行開始から2週間が経過した時点で、2つの世界でそれぞれ重大な局面を迎えていた。
【異次元修行場】
アリアは物質変換技術の基礎を習得し、時空間制御技術に挑戦を始めた。しかし、その困難さは予想を上回り、何度も失敗を重ねていた。
「まだ技術の30%しか習得できていません」
「焦らず、着実に進めてください。真の力は、最後の1ヶ月で劇的に向上します」
【現実世界】
摂政体制は、国内外の圧力に直面しながらも、王国の統治を維持していた。しかし、アリアの不在による影響は日々深刻化していた。
「王女の帰還まで、あと2週間です」
ガレスが評議会で確認した。
「それまで、何としても現状を維持しなければなりません」
【サンクトゥス帝国】
皇帝マクシミリアヌスは、アーテミス王国の動揺を好機と見ていた。
「アーテミス王女の不在により、連合軍の結束に亀裂が生じている」
「今こそ、心理的圧力を加える時だ」
アリア・フォン・アーテミスの真の試練は、これから始まる。




