表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

ピッキング

〈晩春光爛れの相を示すなり 涙次〉



【ⅰ】


 怪盗もぐら國王は、東南アジアでの泥棒行脚を終へて、日本に帰つてきた。故買屋Xも同道だつた。勿論盗品は税関を通る譯ないから、現地で賣り捌いてしまつたのである。朱那は日本に置いて行つた。彼女は、本当は國王と旅行がしたかつたのだが、國王としてみれば、危険な目に遭はせるのが、嫌だつた- カンテラと違ひ、彼は自分のパートナーを危ない目に遭はせるやうな事は、しない。一つには彼の職種(職業的犯罪者)と、カンテラの斬魔屋とでは、世間の目が違ふだらう、と云ふ事なのだが。カンテラは、放つて置けば、「正義の味方」と、皆は見てくれる。だが、自分は...


 カンテラは、自分のポケットマネーから醸金し、國王に例の「思念上」のトンネル、魔界の一丁目に到達する、()()、を埋める事を依頼。旅の疲れも差し置いて、すぐさま國王は仕事にかゝつた。



【ⅱ】


 金尾が一味に加はつて、今までどんぶり勘定的だつた經費・ギャラの配分が是正された。その結果、各人の取り分が減るなら兎も角、一味全體がより潤ふ結果となつたのは、不思議と云へば不思議だつた。

 杵塚、東京モーターショーに參加して、丁度輸入バイクへの興味が湧いたところで、このベースアップは嬉しかつた。彼は、アプリリアSR-GT200と、ベネリTNT125の二台の輸入車を、即購入。駐車場スペースの関係で、ホンダ・スペイシー100は賣却してしまひたかつたが、だうせ後で由香梨とのタンデム行を思ひ出し、懐かしむ事もあるだらう、と云ふ譯で、賣るのは取り敢へず今は差し控えた。彼女がいつか、自分の許を飛び立つて行く時のために- 。


「傍観者null」は、國王がトンネルを埋めてしまつた事で、またも苦杯を舐めさせられた氣分であつた。これでは「はぐれ【魔】」たちを、人間界に送る事が出來ないではないか!「ぬう、あの泥棒野郎め!」  

 彼は、仕方なしに、人間界の者を誘惑する、と云ふ手に出た。泥棒には泥棒を- と云ふ譯で、國王の同業者、枝垂哲平(しだり・てつぺい)の夢枕に立ち、杵塚のバイク・コレクションをピッキングするやう、誘ひを掛けた。


 枝垂は、何者かに衝き動かれたかのやうに、nullの命じる儘に動いた...



【ⅲ】


 枝垂は、大型無蓋トラックに、牽引クレーンを搭載したもの、を用意した。教へられる儘に、杵塚のバイクが停めてある駐車場に到着し、仕事した(杵塚はきちんと自分のコレクションには、ホイール・アンカーを施錠し、ピッキング對策は取つてゐたのだが)。nullには、もはやこの程度の、イヤミを働くゞらゐしか、カンテラ一味に對し、出來る事がなかつた。所謂、負け犬の遠吠え、である。


 こんなにヘマが重なると、自分の今坐つている、玉坐すら危ふい。nullは、何か出來る事なら、何でもやるつもりだつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ピッキングするなら夜にしやしやんせ白晝近隣目醒めてゐるぞ 平手みき〉



【ⅳ】


 だが、これにさへも、テオの目が光つてゐたのである。テオは、杵塚のコレクションのアンカーに警報装置を付けてゐた- この警報装置は、テオのスマホと連動してゐる。結果、枝垂の惡業は、すぐにバレてしまつた。


 その日、じろさんは折良く当直の日だつた。テオに警報の件を聞かされると、がばつ、と假眠用の毛布を跳ね上げ、現場へ直行。もたもたしてゐた(こゝら邊が、枝垂と國王の格の違ひか)盗人を取り押さへた。じろさんがぎゆうぎゆう締め上げると、枝垂はnullの誘ひ掛けを白狀。


「また『傍観者null』か-」報せを聞いたカンテラは腕組み思案(外殻=カンテラの中で、だが)。「まあ俺も鉄燦の脇差しをゲットした事だし、次回はないよ、と、奴に云つて聞かせるか。今なら可能なやうな氣がしてるんだ」



【ⅴ】


 さて、カンテラの思惑通りになるか、nullの一發逆轉となるか、次回は遂に、一味vs.nullの對決。


 

 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈いぬふぐり踏まれ果てたる春盛り 涙次〉



 前回はひと月遅れの雛祭り咄でしたが、そこでの失敗を、じろさん取り戻した(てい)。杵塚、今日も元氣に、楳ノ谷汀、由香梨とラヴラヴタンデム・ライフを送つてゐるのも、みんなテオの氣が利いてゐる事から。感謝しなさいよ! と云ふ譯で、一卷の終はり。


 ぢやまた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ