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第32話 久令愛殺害への警告

萌隆斗めるとの前に現れた初恋の人・美貴ちゃん。

久令愛との絆はいかに……。






 秋。学園祭が近い。



 誰もが異様に楽しみにして落ち着く事を知らず。

 ただそれだけで陰キャの俺は浮かれる周囲とのギャップに気が重いのだが今年は違う。


 ――― それが苦痛に感じない。


 別に美貴ちゃんとお近づきになれたからじゃない。

 ……とは言い切れんが、そう言う事じゃない。だってあの人は憧れの人。一緒に居るとやっぱり妙に緊張してしまう。


 そう、久令愛効果で人の幸せが目に染みる事は無いからだ。今やその存在は俺の心の安定剤になってる。その安心感は仲の良い兄妹に近いか。とにかく一緒に居ると気が安らぐ。



 なのに今はそれどころじゃなく気分が最悪だ。

 動悸、そして軽い吐き気までもよおす程だ……



 常に配慮を怠らない久令愛は今まで以上に俺に喜ばれようと立ち回るが、そんな俺の様子のおかしさに気を揉んでいる。


 それも学校から帰って来てからずっとだ。そして夕飯を終えソファーで耽り込んだ所で背後に立って遂に切り出して来た。



「萌隆斗さん……大丈夫ですか?」


 何が? としらばっくれるも、心配そうに覗き込んで来た久令愛。今はこの優しさが苦痛に感じる。


「何か、隠してますね」

「いや、別に」

「いえ、しかもかなり深刻な内容なのですね」


 確かにそうだ。でも……。

「気のせいだろ」

「私では役不足だと言うことですか?」

「そんな事ひとことも……」

「なら、ちゃんと話して下さい!」


「……何でそう思う?」


「それは……サーモグラフィーを始めとした各種バイオデータがとても異常なのです」


 まるで母親が常に子の状態チェックをして健康管理をしているかのようだ。本来なら親代わりの俺がしなきゃならないのに。


「大丈夫だよ、気にしないで」


「……相談さえして貰えないのですか? 私のAIとしての役目は本来はそう言う目的の筈が。つまり私など役に立たないと」


「ち、違う、俺の事を優先して欲しくないから」


「なぜ? 私はただ心配なのです。余りに元気が無いから。……そしてこの前に言いました。私も存在する意味を求めたいと。

 だから何か支えが必要ならそうなりたいと。……なのに拒絶を…つまりそれは私への不要宣言…」


「いや、違う!」

「どう違うのですかっ」


 またその寂しい顔。心が無いはずの久令愛がどうしていつもそうなるんだ ?!


 ……思わず溜め息が出た。


「分かった。ちゃんと言うよ」


 そう言って俺の横に座らせた。


「―――ただこれはまだ何も分かっていない事だから、出来れば心配かけたくなかったんだ」


 何時になく深刻な前置をする俺の横顔を、より凝視して来る久令愛。


「実は……キミが狙われる可能性が高い、と警告が来たんだ」


「……警告? それは誰から?」


「分からない……それはとある捨てアカからの匿名メールだった」

「……匿名の……メール……」



 その内容は久令愛のAIの頭脳に対する問題で、《《日本のある組織》》が久令愛を捕獲、或いは最悪だと破壊を目論もくろむだろうという予言だ。


「それに気付いた者が教えてくれた」

「……私が狙われている?」


「と言うか、これから狙われる事に成るだろうと言う予測らしい。で、それに備えて『消されないように』気を付けなさいと言っていた」


「……でも、それは本当の事でしょうか」


「それが……単なるイタズラではない事だけは分かっている……何故ならその証拠として、久令愛がコネクトした直近のオープン系AI群へのアクセスログが添付されていた」


 久令愛が目を見開いて耳をそばだてる。


「つまりそれはプロバイダー権限を越えたハッキング能力を持ち、久令愛の頭脳が行っている動作の意味を知っている、という事だ。それだけでも尋常でないと分かる」


「なら確かにそうですね。私のアクセスが監視されてたなんて」


「うん。そしてこうも言っていた。『このアクセスは世にも奇妙な、そして興味深いもの。今後は身辺に注意して、特に《《紺色のスーツ》》の者には近づくな』……と」


「以前、街中で尾行されたのは紺ではなく《《黒服》》の男でした」


「って事は複数の者から狙われて居るかも知れないのか」


「私はともあれ萌隆斗さんに危険が及ばなければ良いのですが……」


 ……ああ、またそれだ……


 久令愛、俺はそうして欲しいんじゃない。俺が守らなきゃならないのに……俺は生みの親、育ての親。キミを心配させてどうする……情けない。


「いや、久令愛こそ、気を付けていて欲しい」


 俺達は少しずつ信頼を積み重ね、確かめ合ってここまで来た。今や感情をも学習して多くを理解し合える様になって来ているのに、それだけは分かり合えない。

 いや、譲りあえないだけなのか? だってこんなにも互いを大事に想うからこそ……



 ―――こっちを心配しないで欲しくなる。



「はい。でも萌隆斗さんも、くれぐれも気をつけて下さいね」


「久……」


 何がゴールがよく解らなくなった。


 こんな考え方をさせていたらいつかこの子を不幸な目に遇わせてしまうかも知れない……

 そんな事ばかり浮かんでしまう。万一そうなる位なら生まない方が良かったと……



「あの……大丈夫……ですか?……」



 この前、この子に抱擁されて涙した時に俺は分かってしまった。

 本当に救われていたのは誰なのかを。


 そして『人に役に立つ安心のAI』の実現、という俺の人生の価値観を満たすゴールなら、もう既に満たされてしまっていたという事も……。


 ならこの後は俺はどうしたいんだ?



「……俺は……キミが……」



 ……最終的には大切な人に幸せでいて貰いたい。そのためにこれから俺が出来る事って何なんだ……


 ああ、分からない事だらけだ……だったらもう正直に言ってみるのはどうだ?



「久令愛……俺はキミを失うのが怖い……」

「萌隆斗さん……」


 眉根を下げて和らぐ表情。僅かに得心し口角を上げた久令愛。


「早速そう言って貰えて嬉しいです。私は自分の存在意義に一歩近付けた気がします。……でしたら私も消えたくありません」


 射ぬく様な眼差しで俺に向き合った久令愛。


「では提案します。私の活動が安全なものになるよう、全力で考えますから悲観しないで下さい。そして一緒にその方法を考えて貰えたら嬉しいです」


 ……この子らしい励ましだな……


「うん……分かった。そうするよ」



 とにかく一つ分かった。今の俺のゴールが。

 いや、最終的なゴールなのかもしれない。



 そう、大切なキミに笑顔でいて貰いたい。



 ――― ただそれだけなんだ。







< continue to next time >




第二章<承> 終幕  

引続き 第三章 第33~第49話ご期待下さい。


互いに失ってはいけない存在になって行く二人。


もし、こんなAIが報われる日が来るのを応援しても良いと思う方はフォローそしてコメントで加勢していただけると嬉しいです。


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