第12話 その形でないと出来ない事にこそ存在意義が
お役立ちAIとして久令愛を調教しようと懸命になる萌隆斗。しかし凸凹マンザイコンビは続くのでした。
残暑と久令愛の調律はまだまだ続く。
今は闇雲に外出行動するよりも、先ずは何かちゃんとした理解と指針がこの娘には必要なのでは?
そう考えて膝を詰めて話し合う事にした。本当はヲタクらしくクーラーに当たっていたいだけ、と思って欲しくない。
―――― その通りかも知れないからだ。
「久令愛、キミに重要な話しがある。席に着いてくれ」
「はい。でしたら心して伺います」
家事を中断させて、ダイニングテーブルへ座らせると、愛くるしい瞳をパチクリさせ笑顔で見つめてくる。
……ちょっとハズい。
「キミがこれからどうあるべきか俺、この所の初期対応で分かったんだ」
「はい、ではそうします」
「いやまだ何も話してないって」
「いえ、どうあれ私は従うまでですから。ではどうぞ話して下さい」
「いや違うんだ。確かに俺は人に危害を与えず愛し続ける『絶対律』をキミに与えた。でも強要のつもりではない。ある種の保険だ。
だからこの前、二人三脚で考えて欲しいなどと言った訳だが、そう言いいながら未だちゃんとキミに話してなかった」
「はい?」
「……久令愛、キミは研究対象だが “大切なパートナー” でもある。その前提で話したい」
「大切なパートナー……た・い・せ・つ・な、パートナー。ありがとうございます」
「なぜリピした? 怖いんですが」
―――― ニッコリ。
「ぐっ……ま、まあ、とにかく俺達の目標を共に理解しておいて貰いたい。それで、俺は今年度末に重要な研究成果を提出する事になっている」
「研究成果ですか。次世代AIについて……ですね」
「そう、正確に言えばAI搭載ロボットを題材に学内コンペティション『CNS』ってヤツに挑戦する。その成果次第で共同研究者の《《友人の将来の生活》》が懸かっているんだ。大学の学資的な補助金が得られるんだ」
「お金目当てという事ですか」
「あのなぁ……そう言うと聞こえは悪いがその友人、自営業の家庭で家計が苦しい中、アルバイトしながら家計の足しとロボットの研究に全額を当てている。だから大学に行く費用についても貧しい親に負担させたくないと必死なんだ」
「素晴らしいですね。萌隆斗さんもそうなのですか?」
「俺は小学生の頃からPCオタクで、その頃に久令愛のベースとなるAIの研究の傍ら、FXの相場解析をして自動売買のアルゴリズムを自作。―――― それで儲けて以来、暗号資産通貨ベットコインで大きく増やしたからね。マァ、結構余裕が有るんだ」
「相場師だったのですね」
「!、いや言い方っ!! 」
……全くもう……
「商才が有るだけだ。兎に角それで大学へは心配ない。久令愛のスキン体も特注で高価だったけど、それを余裕で注文出来たのもそのお陰なんだ」
「そうなのですね。ありがとうございます。こんな素敵な見た目で私は鼻が高いです。街行く人もみな振り返る程です」
「ま、まあな。確かにメチャクチャ可愛いから当然だが、その半数はキミの奇行によるものだと自覚して欲しい」
「分かりました。頑張ります!」
うぐっ……
「……って何を頑張るのかいささか不安だが。ま、そう言うわけで今やっている事の意味を捉えておいて欲しいんだ」
「つまりその研究を促進するという事ですね。一瞬お待ちを……。たった今、それに有用な資料をいくつかWEB取得、解析しました」
「この一瞬で……早いな」
「例えばNEDOの『次世代人工知能・ロボット中核技術開発」の事後評価報告書の全568ページの中には様々な分野への波及効果が謳われています。こうした意義ある研究成果をプロットして行くのですね」
「すご……なんか急に高度AIらしくなって来たな。そう。そうした未来技術の可能性をどれだけ示せるか、それを論文にまとめるため、『スーパーAI・久令愛』からこの半年間でしっかり良いデータをとって書き上げていくつもりだ」
「でしたらそれを私も一緒に作りましょうか?」
「それはだめだ。キミが作ればこのところ問題となっているチャットBCGに代表される対話型生成AIに作ってもらったのと同義になってしまう」
「では何を」
「AIロボットとしてどういった有用な活用が可能かを未来に示す。そのあらゆる可能性を探るんだ。特に日常に於いて」
「つまり人型対話ロボットとして何かしらに役に立てば良いと」
「そう。AIにも色々ある……」
※アニメだとここから早回しになるシーンだ―――
「……そのどれもが人をサポートする素晴らしいものだ。人では処理し切れない問題を解決してくれる。例えば交通やら管制システム。……中略……或いは農業や工業の自動制御、知財管理、法規相談、はたまたビッグデータから都市計画や、行動規制、防災、更には新たな価値の創造やら新技術、高度医療、科学研究など……」
――――早回し終了。
「正に無限の可能性がある。これからどんどん人間にしか出来なかった事が置き換えられて行く」
「はい、この先約20年でほぼ全ての分野でAIが人類を凌駕すると予測されています」
そう、そうなんだよ!
正にこれからの20年は激動の時代だっ!
「だがそれら殆どが動き回る体を持つ必要がない作業。だからそう言った仕事はそれぞれに特化された大型サーバーに仕事を任せばいいって思う」
「はい。経理や法務、創作物……そう言った事が殆どです。私の出番は少ない様ですね」
「そう。でもキミは人と同じような体を持ち、話しかけてくれる人型ロボット。
わざわざ小型化PCにして能力を限定してまで動くAIにこだわったのだから、その形でないと出来ない事にこそ、キミの存在意義がある!」
「私の……存在意義……」
使命感ゆえ、強い眼差しで見つめて来る久令愛。
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人を愛す至上命令に対し具体的指針が貰えるなら……
自分の存在意義を求めている久令愛。
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