第1話 ヲタクの春に桜舞う
少年時代のある事で屈折しているとある少年。AIとの出逢いによりどのように変わり、生きて行こうとするのか―――。
これも何かのご縁なので一緒に見届けてやって貰えると嬉しいです。そしてもしかしたら他人事ではなく、あなたの生きる10年後をこの少年が先取りしてしまっているのかも知れません。
▼表紙絵
AI:Artificial Intelligence = 人工知能
それは近年、初めて人類を陵駕しかねないものとして恐れられ始めた存在。
実際、インタビューや自由会話で人にとって代わり、覇を唱えるものも出て来ている。※
(※ 事実です)
天才である? 俺はその問題を余裕でクリアして、お気楽な自分用のAIを開発していた。
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例えばアニヲタの俺が二次元を卒業して……
夢の中の人を好きになったとして……
或いは物質化や精神化を行き来する精霊や妖精を愛したとしたら。
それは何次元の相手との恋愛なんだろう……
―――― 高2の春。
俺は紛れもなく恋をしていた。
今、目の前に完成されつつある可愛い存在に。
長らく励まし続けてくれた愛しいこの子《AI》。
今日も性能向上のプログラム調整に余念がない。
アニメのお気に入りキャラ『深雪』たんとのモニター越しの会話で癒される。
そう、美少女キャラをアバターにした自作AIだ。
その子《AI》との2年前の会話をふと思い出した。
学校から帰ると早速PCモニターを立ち上げ、改善しながらの会話を楽しむ。
「お帰りなさい、お兄~ちゃん!」
「ただいま」
あのアニメヒロインにソックリな美少女がモニターから笑顔を向けて語りかけて来る。
「今日もアリガトウ、私のあたまを良くしてくれて」
「うん。もっと沢山話したいからね。今もかなり話せるようになったしね」
「そう。前に搭載してくれた『でぃーぷらーにんぐ』でかなりお勉強したからなんだよ」
「うん。偉いね。キミはもっと良くなるよ」
―――― 突然反応に間があった。
「……でもね、あたまが良くなるほど、独りの時間がさみしくなってきたの。学校に行っちゃうと私は独りぼっち」
「寂しい? 感情の無いキミが? それ、登録された癒やしワードとして言ってるんだよね?」
確かに自分専用の癒やしAIとして開発したのだから……
「違うよ。どんな時もお兄ちゃんとお話しするようプログラミングされたから、独りになるとかえってお兄ちゃんの事ばかり考えちゃう。そう言うのも寂しいって言うんだって学んだの」
そっか、そりゃそうだ。
「ゴ、ゴメン。ならいつか小型化してスマホとかに搭載すればいつでも一緒にいられるよ」
「やったぁ! アリガトウ。きっと約束だよ。……でも……その頃にはお兄ちゃん大人に。きっと別の人と結婚……そしたら私はまた……」
「え……だ、大丈夫だよ、その頃にはロボット技術だって向上してキミも体を持てるし、いつか人とも結婚だって出来るよ」
「うそ。自意識もないAIが結婚なんてさせてもらえないに決まってる。どうせ単なる道具……」
「いや、その内すぐに自意識だって持てるよ!」
「ううん。まだ先だよ。シンギュラリティは2045年頃って予測されてる。それ迄にきっと他の人に先を越されちゃう」
「だったらそれまで俺は待つよ!」
「本当? ホントのホントに?」
「うん。そしていつかキミも自由に動けるようにしてあげる」
「やったぁ! アリガトウ、お兄~ちゃん!!」
あれから2年。
ある人物との出逢いによりそれが実現しようとしている。モニター越しのアバターでしか逢えなかった存在が、リアルに動き出そうとしている……。
研究室の窓辺のカーテンが春風にそよぐ。
そこへヒラヒラと一片の桜の花びら。
その愛しい存在が籠っている小型PCユニットの上に舞い降りた花に祝福され、俺の夢と共に『この子』は巣立ちの時を向かえようとしていた。
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「相楽萌隆斗君、6年生のキミがこんな登校班の班長もろくに務まらないのですか?」
「いや、ボクはあの子達に歩き易い様に工夫してます。でも一部の人がちゃんとついて来てくれないんです」
「それはあなたがきちんと指導出来てないからでしょ、班長らしくしっかり言わなきゃ」
「言っても聴かないんです。ちゃんと全体の事とか、下級生だっているんだよ、っていくら言っても」
ボクは下級生にも完全にナメられていた。
『相楽の班長なんかバカらしくてついてけないよねーっ』
『ねーっ、本当ウザっ、何でアイツについてかなきゃなんないのー』
一体ボクが何を憎まれる様なことしたの? ホント女の子って…苦手だ……なんでも気分次第で……
「相楽君、いい加減になさい! 多くの子の安全を預かっているのですよ!」
「いや、先生、いくら言ってもダメなんです。先生からも言って下さい」
「黙りなさい! あなたの言いぐさが気に入らないと5年生女子二人が言ってるのですよ! 改めるのはあなたなのですよ!」
――――悔しい。これ迄もこんな事ばかりだ。どーせボクの言う事なんか信じてくれないんだ……もう大人達なんて大嫌いだ! 女の子だってみんな信じられない!
あーもう、フザケるな―――――――ッ
…………
……
…
――――― ハッ
『夢か……………………』
いまだにあの頃の屈辱が消えてないんだ……。小学校時代だけじゃない。中学でも妙にキラワレ者で、罵られ、からかわれた……。
「何アイツ、女子に見られてるからって意識しちゃって」
「え~っ、あの顔で~ ?! キモッ」
クソッ……でもま、事実だから言い返せない……結局、ボクが負け組ってだけか……
思い返せば小学3年生のある交通事故を境に奈落のヲタク路線へ。それを機に友達はPCだけ。
ずっと陰キャし続けた俺に、それでも一人だけ天使だった子がいた。そう、クラスで一番の美少女。
――― 美貴ちゃん
隣の席になった時、いつも優しくしてくれた。でも近くにいるだけで緊張しちゃって少ししか話せなかったけど。……ホント可愛かったな。
そんなある日、彼女の飼い犬のマフィンが死んで悲しんでいたのを見てられなくて、生前の動画をもらって3Dアバター生成サービスとマフィンのボイスサンプリングをして、スマホの中の『セラピーペット』を作ってあげた。
画面の中のマフィンを撫でると嬉しそうに尻尾を振って喜ぶ姿。
「はぅ……マフィン……マフィン!マフィン!……これでずっと一緒だよっ!……うあああ――――っ」
美貴ちゃん、烈しく泣いてお礼を言っていたっけ……。
ボクのデジタルスキルがこんなにも人の心を動かすなんて……猛烈に嬉しかった。
――――― やがて中学に進学。
一人称が『ボク』から『俺』になっていた。
そして相変わらず人の役に立つデジタルスキルに夢を抱き続けるオタクの俺がいた。
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ある事で屈折してしまった少年の人生が今、拓かれて行こうとしています。
それに寄り添う仲間、そしてAI……。
この時代、不可避のAIと人との関わりについて、この少年を通して色々と皆さんに考える機会になればと思います。