第1章・第3部:新世界へようこそ
リンタロウ・カザラキは、新世界の賑やかな通りへと踏み出した。彼の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
目を輝かせながら、周囲を見渡すと、猫耳の少女や犬の尻尾を揺らす青年、鳥の翼をもつ者たちが、何気なく街を歩いていた。
リンタロウ(興奮気味に小声で):
「これ… これだよ!俺の夢が叶った!異世界、人外、美少女… そして冒険!行くぞおおお!!」
そう叫ぶと、彼はまるで狂ったように駆け出した。
通行人A: 「…誰だあれ?」
通行人B: 「知らないけど、なんであんなに嬉しそうなの?」
囁かれる視線も気にせず、リンタロウは突き進む。やがて、路地の片隅で花を売っている少女を見つけると、ニカッと笑いかけた。
リンタロウ: 「お嬢さん、素敵な花ですね!君の笑顔は嵐の中でも光り輝くよ!」
少女は頬を染め、「ありがとう…」と小さく呟く。
リンタロウ(心の中):
「ふっ、余裕だな。計画通り!ステップ1、美少女と仲良くなる。ステップ2、彼女を助ける。ステップ3、最強になる!…ん?」
突然、ポケットをまさぐり始める。
リンタロウ:
「ない!?俺の本!神の書がない!これがないと…!」
焦りに包まれる彼の背後から、不意に声が響いた。
???: 「本なんか忘れろ。お前には俺がいる。」
リンタロウは弾かれたように振り向く。
リンタロウ: 「誰だ!?」
くすくすと笑う声がする。
魂の相棒: 「俺はお前の魂の相棒。誰にも聞こえない。お前のモーファーを通じて繋がってるんだ。俺のことはアイと呼べ。」
リンタロウ: 「魂の相棒!?なんで今まで黙ってたんだよ!」
アイ: 「お前が"俺は主人公だ!"とか叫んでたからだ。あと、周りの人間の視線が痛いぞ。」
ハッと周囲を見渡すと、また通行人たちがヒソヒソ話している。
リンタロウ(苦笑): 「あ、そうか…。それで、アイ、俺は次に何をすればいい?」
アイ: 「まずは頭を使え。それと、神々の警告を忘れたのか?この世界には"お前そっくりの男"がいる。そして、そいつがやらかしたせいで、お前を憎んでる奴がたくさんいるんだぞ。」
リンタロウ: 「ははっ、大丈夫だって。俺は主人公だぞ?何が起きたって乗り越えてみせるさ!」
その瞬間、背後から誰かがぶつかってきた。
???: 「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
リンタロウ: 「ああ、平気だ。君は?」
少女: 「私はジア。お願い、助けて!悪い人たちに追われてるの!」
リンタロウ(ニヤリ):
「なるほど、なるほど… これぞ定番!ピンチの美少女、追っ手、俺の見せ場… よし、任せろ!俺はリンタロウ・カザラキ!未来の大英雄だ!」
ジアは彼の手を引いて走り出す。
リンタロウ(心の中):
「これはまさに王道展開!俺の冒険は最高のスタートを切った!」
…と、思っていた。
しかし、ジアが突然足を止め、静かな路地へとリンタロウを誘うと、表情が変わった。
彼女の手には、一振りのナイフが握られていた。
ジア: 「やっぱり… お前がリンタロウ・カザラキか。」
リンタロウ(困惑): 「え?えっと、そうだけど…?」
ジア: 「お前が… 私の故郷を滅ぼした男か。」
リンタロウ(絶句): 「は?」
言葉を返す間もなく、ジアのナイフがリンタロウの腹に突き刺さる。
リンタロウ: 「っぐ…!?え、待っ…!」
足元がふらつき、彼は崩れ落ちた。
リンタロウ(震える声で):
「ま、待て… 俺、まだ異世界来たばっか… こんなの… 主人公が死ぬわけ…」
ジアの姿がぼやけ、視界が暗転していく。
──だが、その時。
アイ: 「あーあ、バカだな。まあ、治してやるよ。」
温かい力が体を包み、痛みが消えていく。リンタロウは荒い息をつきながら、ゴミ箱の陰に身を隠した。
リンタロウ: 「最悪だ… 異世界に来た初日で刺されるとか… 俺、主人公だぞ?」
アイ: 「だったら、主人公らしくしろ。じゃないと、次は本当に死ぬぞ?」
空を睨みつけながら、リンタロウは静かに呟いた。
リンタロウ:
「…上等だ。世界よ、覚えておけ。俺はここから這い上がってやる!」