第1章・第2部: 生と死の領域
凛太郎 (りんたろう) は目を開けた。そこは完全な闇に包まれた空間だった。自分の身体はまるで無重力の中にいるように軽く、耳には自分の呼吸音だけが響いていた。
やがて、遠くに微かな光が現れ、奇妙な光景を照らし出した。そこには、二人の存在がチェスを指している。ひとりは暗く、不吉な気配を放つ骸骨の神、死の神。そしてもうひとりは、神々しい光を纏い、白く輝く翼を持つ生の神だった。
「おや?」生の神が微笑む。「誰かいるのか?」
「人間だと?」死の神が鋭く凛太郎を見つめる。「なぜ人間がここにいる?」
死の神は机の上にあった古びた本を手に取り、表紙を見た。そこにはこう書かれていた――『風崎凛太郎の生涯』
「ふむ…お前は凛太郎か。興味深いな。」
死の神は本をめくりながら言った。しかし、その本には奇妙なことが書かれていた。
「お前は本来85歳まで生きるはずだった。大学を卒業し、結婚して二人の子供を持つ運命だった。だが、今ここにいる。」
「なに…?」凛太郎は息をのんだ。「それは…おかしい。俺は確かに…首がなかったはずだ。」
死の神はさらに深く考え込んだ。すると、生の神が立ち上がり、静かに口を開いた。
「封印が…ひび割れているわ。」
「まさか…あの天上神か?」死の神は頭を抱えた。「歴史がまた歪められているのか。」
凛太郎は混乱しながら叫ぶ。「ちょっと待て!何の話をしてるんだ?!」
死の神は息をつき、ゆっくりと説明を始めた。
「遥か昔、世界を揺るがすほどの強大な天上神が封印された。だが、その封印は長い年月の間に弱まりつつある。そして、その影響がこの世界の運命に歪みを生んでいる。」
「つまり…俺はそいつのせいで死んだってことか?」
死の神は不敵に笑った。「そうとも言えるな。」
「じゃあ…異世界転生ってのはどう?」
その瞬間、死の神と生の神の動きが止まった。
「こいつ…死を全く恐れていないのか?」
生の神は微笑み、死の神は呆れたようにため息をつく。
「面白い人間だ。いいだろう。」死の神は手を振り、暗闇に一つの装置を出現させた。
「このモーファーを持っていけ。ただし、お前にマナはない。」
「なに?!マナなし?!」
「その代わり、このモーファーには特別な魂が宿っている。500年前に私が回収した魂だ。」
凛太郎はそれを受け取り、覚悟を決めた。
「よし、契約する。どうせなら最強の異世界ライフを楽しませてもらうぜ!」
死の神は契約書を作り出し、凛太郎は即座にサインした。
「では行け。だが、忘れるな…お前にはマナがない。生き延びられるかどうかは、お前次第だ。」
次の瞬間、凛太郎の身体は光の中へと吸い込まれた。目を開くと、そこには二つの太陽が輝く異世界の街が広がっていた。