13 革命、そして
それからの数日間は……いや、その先もずっと、夢のなかにいるような日々が続いた。
革命決行日は宮殿でも城下町でも、革命軍のシンボルである青い旗があちこちで翻った。
「我らはフェアリー革命軍! 暴政に反対し、真実を求める者なり!」
「圧政で我らを苦しめるジャクヒン派、そして真の魔女であるバンシーを捕まえろーっ!」
「我らには聖女様がついている! 正義は我らにあり! すすめーっ!」
青い旗にはこれでもかと美化されたわたしの肖像画が描かれていて、最初見たときは思わず赤面した。
これは『聖女の美容液』のパッケージイラストらしく、いまではわたしのイメージとして定着しているという。
その事実には度肝を抜かれたけど、恥ずかしがっているヒマなんてなかった。
なにせ革命軍として立ち上がった中には、多くの民兵さんたちがいたからだ。
しかもわたしといっしょに幽閉されていた看守さんたちや、鳥たちも戦うと言いだしたからもう大変。
わたしは危ないからと懸命に止めたんだけど、
「僕らを自由にするために街の人々が戦っているのに、僕らだけ安全な場所にはいられません!」
「クルルーーーッ!」
と看守さんたちは筋骨隆々、鳥たちはモッフモフと、たくましく成長した姿で力強く言われ、わたしは彼らを送り出すしかなかった。
だったらわたしにもできることがあるはずと、魔導拡声器を手にする。
生まれてこのかた、こんなに声を出したことがないというくらいベランダから叫びまくった。
『セラフィス様、6時方向に敵の弓兵です! 弓兵の背後にいるテガミバト部隊さん、看守さん部隊は援護してください!』
わたしはこの国いちばんの高い場所にいるという地の利と、ふたつの魔法を駆使し、革命軍たちの目と耳となった。
『12時の方向、丘の向こうに魔導戦車が現われました! 「ウゴクエアリョール」部隊さん、爆撃してください!』
『ウゴクエアリョール』というのは世界最大級のワシの一種で、翼を広げると4メートルもの大きさがある。
彼らはナイトゲールと同じく、テガミバトを通じて仲良くなった鳥だ。
ウゴクエアリョールは鳥類随一の力もちで、あしゆびで看守さんたちを軽々と持ち上げて大空を飛び回っていた。
ぶら下がっている看守さんたちの武器は、なんと爆弾。
そう。バンシーが配備した即発式の爆弾を、城下町の技術者に頼んで投下できるように改造してもらったものだ。
鳥たちの活躍によって制空権を支配。しかもそこからフンや爆弾などを投下し、王国の魔導兵器を圧倒。
人馬一体ならぬ人鳥一体の攻撃は、この世界に新しい戦いの形をもたらしていた。
革命軍は次々とジャクヒン派の貴族たちを捕らえていく。トイレに隠れていたジャクヒン様はわたしが見つけた。
療養中だったバンシーはタンカに乗せられ逃走していたが、その最中に振り落とされて大階段から転げ落ちたところを捕縛される。
戦いは一方的なまま進み、その日の夕方には決着してしまった。
革命軍のリーダーであるセラフィス様が、マギアルクスとハリメトリノ両国を手に入れる。
大いなる権力を手にした人間というのは豹変しやすい。
ジャクヒン様のようになってしまうのではないかと心配だったけど、セラフィス様は人格者だった。
彼は最初に宣言していたとおり、両国の魔法技術の粋を集めてエアストル様の徹底治療を命じる。
同時に暗殺事件の裁判をやり直させ、わたしは無罪を勝ち取った。
セラフィス様が言っていたとおり、トワネット家は先天的魔女の一族ということがわかり……。
バンシーやかつての両親、親戚一同までまとめて『黒点の塔』へと幽閉された。
黒点の塔はわたしにとっての第二の故郷、っていうくらい暮らしやすかったんだけど、バンシーたちには地獄のようで、ベランダでは日々掴み合いのケンカが見られるという。
世にも醜い争いを見ながら、わたしは宮殿の庭でセラフィス様とキスをした。
セラフィス様は正式にハリメトリノの国王となり、エアストル様の回復を待って、わたしたちはハリメトリノへと帰る。
そこにはわたしの本当の父と母が待っていて、わたしたちは抱きあって喜んだ。
「ああ、ソルシエールや! こうしてまた、生きて会えるなんて!」
「もうぜったいに、離しはしないよ! 魔女に疑われて、辛い思いをしたんだろう?」
「はい。でもわたしを魔女だと言う人もいなくなりましたから、いまは幸せです」
わたしは民衆から、『雨上がりの聖女』と呼ばれるようになっていた。
だからもう、大丈夫。
「いちど容疑の晴れた真犯人は、そう簡単には疑われなくなりますから」
わたしは自分にウソをつく、悲しみを燃やすように。
だからどんな目にあっても、冷静でいられる。
このお話は、これにて完結です!
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