表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
共に駆け出す女勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/194

第3話 33

 サリュート殿が剣を閃かせたのと――


「――おぉ~とぉっ!?」


 ひどく気の抜ける声と共に、エルザと名乗った女は右手を前に突き出したのは、ほぼ同時だった。


 サリュート殿の――若い頃にババアにもらったのだと、いつだったか自慢していた長剣が横薙ぎにエルザの首元へと迫り、しかしその直前で、突き出された右手に多重展開された虹色の防壁――結界に阻まれて青白い火花を散らした。


 俺は戦慄する。


 サリュート殿は国内で五指に数えられるほどの剣士だ。


 その彼の抜き打ちに反応し、結界を喚起して防いで見せたのだから、あの女は魔道士でありながらサリュート殿並みの反射神経をしていることになる。


 だが、驚いたのはエルザも同様だったようだ。


「――君、すごいねぇ。まるで帝国騎士張りの戦闘能力じゃないか」


 彼女は多重展開された結界を自身の周囲に巡らせて、そう目を見張りながら呟く。


 奇襲に失敗したサリュート殿は、刃をひるがえして後方に跳躍。


 俺のすぐ横に立った。


「――サリュートッ! 貴様、大賢者様に刃を向けるなど、赦される事ではないぞ!」


 その時になって、ようやくレオニールが喚き始める。


 そんな彼に整った眉をひそめ、エルザは頭上――兵騎の鞍房(あんぼう)から身を乗り出して声を荒げる彼を振り仰いだ。


「ああ、レオニール君。ちょっと黙ってくれたまえ。

 これから大事な話をしなければならないんだ」


「……は? 私は貴方を守る為に――」


 と、エルザにたしなめられて、怪訝な表情を浮かべるレオニール。


「ああ、うるさいなぁ。私は黙れって言ったよ?

 これだから低能な者はイヤなんだ」


 エルザは呆れ――いや、哀れみのような表情を浮かべ、ひどく無造作に指を鳴らした。


 途端、レオニールの顔から表情が抜け落ち、糸の切れた操り人形のように鞍房(あんぼう)の足場に、彼の上体が倒れ込む。


「――いったいなにを……」


 突然倒れ込んだレオニールに、俺は思わず呻いた。


「なに、ちょっとローカル・スフィアと躯体の接続を解除してやっただけだよ。

 壊したわけじゃないから、安心したまえ。

 あとでちゃんと直してあげるよ」


 ――ローカル・スフィア。


 それはババアやクロが魂を指して用いる言葉だ。


「……魔道で魂に干渉だと?」


 ババアは繰り返し言っていたはずだ。


 魔道で魂に干渉はできない、と。


 ヤツの言葉が本当なら、ババアが不可能と言っていた事をやってのけた事になる。


 驚く俺に、エルザは口元に笑みを浮かべ、優しげな口調で続ける。


「あれれ? この土地ではやってないのかい?

 隣の国じゃあ、純血種を維持する為に再生人類をあんな風に扱ってたのに……さすがにアレは私も引いたなぁ。

 まあ、そんな彼らのおかげで私はこの地のユニバーサル・スフィアから、再生人類のローカル・スフィアの管理キーを解読する事ができたんだから、感謝しないといけないよね」


 ヤツは親切に説明しているのだろうが、なにを言っているのかまるで理解できない。


「……アル、話を聞いちゃいけない。僕が昔出会ったヤツもあんな風だった。

 連中は話したい事しか話さないし、話している事が真実とは限らない。

 わかっているだろう? アレはドクターを名乗ったんだぞ?」


 サリュート殿に注意されて、俺は気を引き締めた。


 王族が――ババアの鍛錬を受けた者が、ババアに代々必ず言い渡される事がある。


 それは王族が鍛錬を積む意味であり、目的でもある。


 ――すなわち、ローダイン王族は「敵」に対抗する為に、異常とも思えるほどの研鑽を積むのだ。


 長く生き過ぎた所為で、恐ろしいほどの寛容さを見せるあのババアが、顔をしかめて明確に「敵」と断ずる存在。


 敵――それはいくつかあって……侵災によって溢れ出す魔物であり、<三女神>と異なる<女神>を信奉する者だったりするのだが……


 なによりもババアが警戒し、見つけたら即座に殺せとまで徹底的に叩き込む者が「ドクター」を名乗る者――マッドサイエンティストという存在だった。


 昔、ババアは語っていた。


 ――連中は独自の価値基準、自身の好奇心を満たせるかどうかだけを根拠に行動するのさ。


 そのため常人の善悪の(くびき)から解き放たれた思考をし、まったくの善意で大量虐殺を行う事もあれば、悪意をもって万人を救う事もあるのだという。


 ――救われる者がいるのならば、悪ではないのではないか?


 そう訊ねた幼い俺に、ババアは諭すように語った。


 ――言っただろう? アレらは善悪を超越した者――いわば生きた災害なのさ。


 気まぐれに人を殺め、気まぐれに生かす。


 ババアが挙げた実例では、時計のズレを確かめる為に世界ひとつをまるごと――それこそ、その地に生きる生物さえも含めて、すべて魔道の源――精霊へと転換した者さえいたのだとか。


 ――重要なのは、善悪じゃない。


 ババアが繰り返し、俺とアリシアに語っていた。


 連中が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事こそ、連中を「敵」と呼ぶ理由なのだと。


 俺とサリュート殿の短い会話を聞きつけ、エルザはその顔に笑みを浮かべる。


「ふむ、やっぱりドクターの称号に反応したんだね。

 オーティスに反応した可能性も考えたけど、この星じゃあ、まだ教団の名は知られてないはずだものね。

 そして、ドクターを――マッドサイエンティストを知ってるって事は……」


 ヤツは懐からおもむろにメガネを取り出し、顔にかけた。


 途端、ヤツの両目を覆い隠すように、無数の細かい古代文字の羅列が流れ始める。


「――やっぱり! 君らは純血種――しかも白の魔動持ちと来た。

 失われたはずの皇族の血統にこんなところで出会えるとはねぇ……

 ――んん? しかもこの形は……ハハ、ハハハ――」


 メガネを通して俺達を見据えていたエルザは、ブツブツと呟いていたかと思うと、不意に狂ったように――身を仰け反らせて、声を張り上げて笑い出した。


 俺とサリュート殿は、ヤツの突然の行動が理解できず、視線を交わしてさらに距離を取る。


 と、ヤツの笑いが不意に止んだ。


「……みぃつけたぁ~……」


 顔を覆った両手の指の間から、その金色の目を妖しく潤ませて、ヤツは絞り出すように言い放つ。


「――神を造りし七人がひとり――ドクトル・ブルーのその血脈、みぃつけたぁ~……」


 ……ゆらりと。


 エルザの身体が左右に揺れて――


 次の瞬間には、俺の目の前に――吐息さえ掛かりそうなほど間近に、ヤツの顔があった。


「――彼女は何処に? どうすれば会える? 彼女ほどの者が死んでたりはしないよね? 彼女達の事はずっとずっとず~っと探してたんだ。

 それがこんな星図すらない未知領域(アンノウン・スペース)で見つけられるなんて!」


 ヤツの手が俺の両肩を掴む。


 その体格からは想像もできない強い力で、俺は身じろぎすらできなかった。


「私さ、しばらく前にこの星系で不可解な時震を検出してね、気になって助手君を送り出したんだけど、待てど暮せど帰って来ないじゃないか。

 仕方ないから、私が直接来たんだけどね?

 いやぁ、来てみてよかった。まさか青の賢者がこの地にいたなんてねぇ。

 帰って来なかった助手君に感謝だね。

 そうそう、君、助手君の事知らないかい?

 こんな程度の低い文明レベルの星なら、彼はきっと目立ったはずなんだけど」


「……その者の名は、ひょっとしてドニールという名か?」


 サリュート殿が長剣を構えたまま、俺を捕らえるエルザに訊ねる。


 エルザの狂気じみた喜悦に歪んだ顔が、俺から逸らされる。


 だから俺は、気づかれないようにゆっくりと左手を持ち上げ始める。


「知ってるのかい? そうだよ。ドニール君だ」


「――ヤツなら、ドクターを名乗った為に排除させてもらった」


「ああ、それで君、私相手にも勝てると思って、そんなにイキり散らかしてるのか。

 ドニール君もドニール君だ。私の目がないと思って、無能が勝手にドクターを名乗るなんてさ」


 気づかれないように慎重に、俺は左手を胸の前で拳に握る。


 ……目の前のこいつは、魔道を見通す。だから、気づかれないよう――やるなら一気にだ。


「……ヤツはご丁寧に事切れる前に侵災まで引き起こしてくれたよ。亡骸は魔物に喰われた」


 俺が知る限り、サリュート殿が直接侵災調伏に出向いたのは、俺が生まれるより以前、母上の実家――ベルノール侯爵領での侵災調伏だけのはずだ。


 王宮が動かなかった為、父上と母上が密かに城を飛び出して調伏に乗り出し、サリュート殿もそれに同行したんだ。


 しかし、人の身で侵災を引き起こした?


「ああ、彼の専攻は時空間事象における魔道干渉だったからね。未熟とはいえ、<誓約>に綻びを作るくらいはできたんだろうね。

 ま、それで自分が連中に喰われてるんだから、良い笑い話だ。帰ったら、他の子らに教えてやろう」


「――生憎、貴様をここから生かして帰すつもりはない!」


 サリュート殿が叫ぶ。


「だから、それがイキり散らかしてるって言うんだ。

 彼を倒したくらいでイイ気になって、私さえもどうにかできると思ってるのかい?」


 エルザの両手が俺の肩から離れ、サリュート殿に向けて突き出される。


 ――それを待っていた!


 俺は息を吸い込み、一気に魔道器官を――ファントム・ハートを高鳴らせた。


「――接続(コネクト)ッ! <世界の法則(ワールド・オーダー)>ッ!!」


「――おおっ!?」


 振り返ったエルザの顔に浮かんでいたのは、驚きではなく歓喜だった。


 瞬間、俺の唄に応じて、世界が書き換えられる――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ