第5話 49
「――バートニー村で暮らしたお陰なんだ……」
バートニー村のみんなが……なんでもない日々の営みの中で、それを教えてくれた。
「できない事は頼って良いのだと。
わからない事は教えを乞うて良いのだと。
それをしても誰もおまえを見捨てたりはしないのだと――
……村のみんなは、こんなにも独りよがりで情けなかった俺を、根気強く育んでくれたんだ」
「……お兄ちゃん……」
マチネ先生が白毛玉を撫でながら、嬉しそうに目を細めて俺を呼ぶ。
「……だから、な?」
俺は先程<竜爪>達にそうしたように、再び族長達に頭を下げる。
「苦しいなら、そう声をあげてくれ!
内に篭もって進めてもロクな目に遭わないのは、俺を見ればよくわかるだろう?」
族長達が息を呑むのが伝わってくる。
だが、構わず俺は続けた。
「――ロイドは決して、その声を聞き漏らしたりしないはずだ。
それでもどうしようもない時は――」
俺は顔をあげ、族長達に笑みを向けた。
「――みんなでなんとかして行こう!
俺もなんとかできるよう力を貸す!」
む、族長達は目を丸くしているな。
やはり俺の言葉では、伝わらないのだろうか?
「し、知ってるか? 畑仕事はひとりじゃ一日かけても一面の半分も終わらせられないが、みんなでやれば、数時間で終わるんだ!
――いや、そうじゃなく……ああもう! 俺は本当に!」
「……わかります」
頭を掻きむしって呻く俺に応えてくれたのは、鼠族の族長だった。
「力を合わせて大事を成す――我ら非力な鼠族は、それこそが我が氏族の力なのだと、フォルティナ王にも讃えられていたのに……ワシはすっかり忘れてしまっておりましたわ……」
左右に伸び垂れた白ヒゲをしごき、自嘲気味に哂う鼠族族長に、他の族長達も口々に同意を示す。
「……かつてフォルティナ王は、人属と獣属をひとつにまとめ上げ、だからこそこの地を苛んでいた荒神を調伏できた、か……」
「――そして、同様に我らを救い、今まさに我らをまとめ上げ、国難に立ち向かおうとなさっている貴方様こそ、彼の王の再来と思わずにはいられないのです……」
平服して大袈裟な事を言い出す鼠属族長に、俺は苦笑して肩をすくめる。
「よせよ。俺は英雄なんて柄じゃない。
みんなに支えられて、ようやく立ってられるような、情けない王子だ」
気恥ずかしさにそう応えると――
「――んんっ! 殿下、そろそろお沙汰を……」
前夫人がわざとらしい咳払いと共に、俺にそう促した。
「――そうだったな。
此度の件、十二氏族は各々、後継にその席を譲る事で沙汰とする!」
前夫人が根切りなんて言ってたもんで、俺が言った処分の軽さに目を丸くする族長達。
……いや、前夫人はこの辺りを落とし処とすべく、あえて厳しい例を先に挙げたんだと思うがな。
「……爺さん達はたぶん働き過ぎなんだよ。
人間、そうすると視野が狭くなっちまうもんだからな。
御家の為、氏族の為――これまで必死にやって来たんだ。
これからは里で孫達にでも、さっき言った事を語り継いで行ってくれよ」
砕けた口調でそう言ってやれば、族長達は平服して。
「――殿下の寛大な処置に感謝致します!」
声を揃えてそう告げた。
「よし! これにて一件落――」
だが、俺がそう締めようとしたその時――爺さん達はそろってガバリと顔をあげる。
「――なればこそ、殿下に恥を忍んでお願い申し上げます!」
「む? お、おう?」
思わぬ爺さん達の行動に、俺は思わず身を仰け反らせてしまった。
なんか、決死の覚悟って顔つきなんだよ。
「どうぞ我らをお召し抱えくだされっ!」
「は? いや、だが……」
前夫人に視線を向けるが、彼女は微笑を浮かべて満足げにうなずいている。
「――聞けば殿下が身を寄せるバートン領には、今も多くの領主や民が集いつつあるのでございましょう?
決して他意もふた心もございません! 役職もなくとも構わない!
我らは殿下への御恩に報いる為にも、身を粉にして働く所存!」
……あ~、これもまた獣属の習性ってやつか。
御恩と奉公つったか?
受けた恩義には、身を以って報いるとかいう……
「――良いではありませんか。殿下のこれからに、この年寄り共の知恵はきっと役立つ事でしょう。
……なんせ、王族や主家を利用してまで目的を果たそうとするくらい、悪知恵が働く者達ですからね」
「――お、奥方は本当にお人が悪い……」
前夫人の皮肉に、爺さん達は引きつった笑みを漏らしたが。
「……殿下は、困ったならば助け合おうと仰いました。
ならば我らが殿下をお支えするのも必然でしょう?」
と、すぐにその表情を引き締めて、俺の返事を待った。
「――わかった! 確かに官が足りずに頭を悩ませていたところだ。
爺さん達にはその育成を任せよう!」
ラグドール領の評議会議員をしていた彼らなら、行政官の育成にはもってこいだろう。
「細かい話は後で詰めよう。
悪いが今は、それより優先しなければいけない事があってな……」
屋敷の奥からドスドスと大股で、廊下を踏み鳴らして近づいてくる足音が聞こえる。
きっと出発の支度を終えたババアだろう。
まだ準備を終えていない俺の姿を見られたら……
そう思うと背筋が薄ら寒くなる。
「――と、とにかくそういうワケで、俺はちょっと支度してくるから……おまえら、悪いがちょっとババアに言い訳しておいてくれ!」
俺は早口でそう告げて、ババアと鉢合わせせずに客室へ戻る為、庭に出ると屋根の上へと跳び上がった。
「……ホント、肝心なトコで締まらないのがお兄ちゃんだよねぇ」
マチネ先生の呆れ気味の呟きが聞こえてきた。
……なんとでも言うが良い。
思わず心の中で反論する。
――だが。
「――で、でも、そこがアルの良いところでしょう?」
部屋に戻ってきたのか、リディアがマチネ先生にそう応える声もまた聞こえた。
そう。
リディアが肯定してくれたように、俺は今のこんな俺が――それでも良いとみんな認めてくれる今の俺が、悪くはないと思えるようになってきているんだ。
「まだ支度できてないのかい! バカ弟子――ッ!!」
「――やっべ!」
ババアの怒声まで聞こえて来て、俺は屋根を蹴って加速した。
俺の本来の目的――<竜爪>への協力要請と、獣属の了承は取り付けることができた。
あとは王族としての務め――ローカル・マッドサイエンティスト、スクォールと王宮の尖兵達をどうにかするだけだ!
ここまでが5話となります~
本当は樹海での事件まで一気に5話に収めたかったのですが、長くなってしまったので一度区切りたいと思います。
5話と6話を合わせてラグドール領事変て事でひとつ(;´Д`)
いろいろ過去話や設定話が多かった5話ですが、後半はアクション多めにする予定でややこしい話を前に持ってきた結果、この長さに\(^o^)/
つまり6話はアクション多めになるという事!
間に閑話を挟んで、舞台はフォルス大樹海に移ります~
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