翔之章 Chapter:2
Chapter:2
「大鳥ぃ! お前こないだ、カイ先生と一緒だったって?!」
「しかも、他にもすげぇ可愛い子がふたりもいたって?!」
(やっちまった…………)
休み明け、朝のホームルーム前、翔は机に頬杖を突き、盛大な溜め息を吐いた。
どうやら、そこそこ大きな噂になっているらしい。凰鵡と朱璃も一緒に見られていたおかげで、先生との交際を疑われてはいないのが不幸中の幸いだ。
──あの夜、逃げた先のカフェで…………
「先生が妖種?」
告げられた事実に、翔は驚くと同時に納得した。
思えば、凰鵡もいつか「学校には、ほかにも妖種がいる」と言っていた。
「それでカイさん……何があったんです?」
凰鵡が訊いた。
「よく、分からないの。いきなり〝正体を学校にバラされたくなかったら〟って脅されて、あそこに……」
翔は奥歯を噛みしめた。やはりボコり倒しておくべきだったか。
「連中、どう見てもそのへんの不良だったわ。どうやって杜谷原さんのことを知ったのかしら?」
「逃げたの失敗だったな。クチ割らせりゃよかった。すまん」
「んーん、翔が正しかったと思う。よく分からないのがもうひとり、いたから」
「マジ? どこに?」
翔も朱璃も、そして杜谷原も驚いて凰鵡を見た。
「奥の壁際。金髪で、朱璃さんくらいの背の高さの女の人。翔、回り込んだとき、けっこう近づいてたよ」
かなり目立つ容姿だ。
ふと、去り際に感じた悪寒を思い出す。
あれが、そいつの気配だったのだろうか。
「その女が連中に先生のことを教えて、襲わせたのか?」
「もしかして、天風……?」
震える声で朱璃が呟く。
「違うと思う」
凰鵡が否定した。
「アイツの気配はもっと……ザワザワする」
翔も同意した。
(それに……)
口にはしなかったが、鳴夜ならもっともっと、狡猾にやると思った。
「その女の人のことは知らないけれど……」
杜谷原が言った。
「もし、対妖機関の人だとしたら、私が狙われたのにも心当たりがあるわ」
「今日はまず、転入生を紹介します」
先日のことを思い出している間に、ホームルームが始まっていた。
纏わりついていた同級生らも、釘を打たれる糠のような翔に愛想を尽かして去っていた。
(転入生?)
年の瀬も受験シーズンも迫ったこの時期に転校とは、よほどの事情らしい(本人が進学希望とは限らないが)。
だが、ボンヤリしていた翔の精神は、次の瞬間、ビンっと張り詰めた。
渦中の人物が教室に入ってきたのだ。
教室内がどよめいた。
切れ長の睫毛。冬服の上からでも分かる、スラリと伸びた手足。肩で風切るような歩みと、それに合わせて揺れる巻き毛のブロンド。
「斎堂純亜です。よろしく」
西洋の公女と思いきや、日本人らしい。典雅さと意外性に、クラスじゅうが興味津々だ。
翔も同じだった。だがその興味は、他のような好意的なものではない。
金髪で、朱璃と同じくらいの背の女──
「……ッ!?」
純亜の眼が一瞬、翔を見た。
鮮やかな碧眼の奥から、殺気が、翔の意識を射抜いた。