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顕醒之章 Chapter:1

最後は顕醒が主人公です。


他とはまるで毛色の違う話になってしまいました。


   Chapter:1



「こちら甲班、緋富(ひとみ)。異空間に突入した。目測……約三〇メートルから先は真っ白だ。霧か煙か判らない。内側の景色に異常はない。蒼司(そうじ)、どうだ?」

「超音波でも念波でも、何も感じられません。あの先は不可知領域のようです」

「空間が不定形なのか。脱出路の目印は万全にしておこう。深琴(みこと)(くさび)をたのむ」

「はっ」


(真言を唱える声)


「班長、私に先行させてください。靄の際まで行けば、先が見えるかも」

「……よし、充分に注意しろ」

「はい」


(遠ざかってゆく足音)


「班長。楔、完了しました」

「ご苦労。蒼司、現状は?」

「班長、道の先があります」

「こっちからは感知できない」

「私からは、そちらのすぐ後方が不可知領域になっています。個人ごとに、半径二十八メートルが感知の限界のようです。まるでゲームのフィールド表示制限ですよ」

「ゲームは分からんが、言いたいことは理解した。深琴行くぞ。蒼司に合流して村を目指す。二〇メートル感覚で楔を打っていく」


(三人ぶんの足音と深琴の真言がしばらく交互に続く)


「村に進入。ひと気はない。靄は相変わらずだ」

「たいげんさまをころさないで」

「子供の声が聞こえた。誰かいるのか? 違う、子供じゃない。あれはマズいぞ! いったん退け。ここは予想よりはるかに危険だ──楔がない⁈ 蒼司、深琴どうした。おい、二人とも何処だ⁈ 緊急事態発生! どうなってる────」


(何人ぶんもの悲鳴)



 顕醒は眉ひとつ動かさず沈黙していた。


「どう思うね?」


 音声を聞かせた作業着姿の男は、痺れを切らせたように訊ねる。


「救出されたのは、どなたです?」

「深琴。目印役だったのが幸い……と言いたいが……」


 男の溜め息が木立のなかで不気味に響く。

 陽は高く昇っても朝の寒さが残る、初春の森。車一台とて通れぬ未舗装の登山道である。

 坂のはるか下には柵が敷かれ、『国有林につき立ち入り禁止』の札が向こう側に(、、、、、)掲げられている。

 男と同じ作業服の男女がさらに三人、そして顕醒の計五人。それ以外に生き物の気配はない。

 もうひとり、いるにはいる。

 折り畳み式の救護台に寝かされ、頭から足まで白布に覆われている。その布も半分は真っ赤な血に染まっていた。


「──おい!」


 男が声を上げるより早く、顕醒は布をめくった。

 血走った左眼が、ぎょろり、と顕醒を見た。

 右目に貼り付く血塗れの包帯。そこに眼球の膨らみはない。

 同じように覆い隠された口には、(くつわ)か詰め物がされているようだ。

 首から下はまるでエジプトのミイラだ。腕も台も巻き込んで、足先まで隙間なく布に巻かれている。

 その上から全身に呪符が貼り付けられ、幾枚かは血を吸ってふやけている。


「気の毒だが、こうでもしないと自傷が止まらないんだ」


 男が観念したように言うと、他のメンバー達も悔しげな(あるいは後ろめたげな)視線を土に落とす。

 彼らは対妖機構《神羅(じんら)》。妖種に対しては穏健派で、他の多くのコミュニティとも連携しているなど、衆との共通点は多い。

 顕醒がここにいるのも、組織の枠を越えた応援要請を受けてのことだった。


「我々がもういちど孔を空けて、ここから援護する。頼めるか?」


 男の提案に、顕醒は道の先を見た。


「村までの距離は?」

「五〇〇メートルくらいだ」

「では、自分で行きます」


 そう言うと、顕醒は山の奥へと歩きはじめた。遠ざかってゆく大きな背中を、神羅の者達は黙って見送る。

 足音が木々の彼方へ消えたころ、ひとりが口を開いた。


「キザったらしい奴ですね」


 いちばん若い青年だった。


「ああ。クソッ、まさかあいつが来るとはな」

「ヤバい奴なんです?」

「あれが顕醒だよ」

「顕醒って……衆の鬼不動……!」

「今度の化け物以上の化け物だ。撤収の準備するぞ」


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