第五話
あけましておめでとうございます。
今年もぼちぼち更新はして参りますので
よろしくお願い致します<(_ _)>
人が初めて味覚を認識するのは果たしていくつの頃だろう。物心ついた頃には既に味を認識し、好みもあった。チョコレートや飴なんてそれこそ幼児の人気者だろう。大人になってもあの甘味の虜になったままの者は多い筈だ。
学校の給食や家族が作ってくれるご飯。じゃなくても、スーパーにある味覚を全て食べる事なんて滅多にないだろう。しかし子供はそれらを少しずつ食し、そうして新たな味覚を知り舌は育って行く。
人の味覚は10歳で完成すると言われているが、そこから高校まで、更に様々な味を知り、好みを知り、そして苦手な味も数多く知った。そこから先も新たな味を知り、それらを好みで分かつ事はまだあるだろう。
さてここからが問題だ。人の身に生まれ十数年。様々な味を知ることが出来た。だがそれも自分が死んだその時までの話だった。亡者となったその時に身体の感覚は全てを奪われ、制御権を取り戻した今でも感覚は全てが遮断されている筈なのだ。であれば……自分の舌が感じ取っているこの甘味は果たして何なのだろうか。
口にした事無い筈が、これこそが自分の好みだろうと訴えかけて来る確かな味わい。コクがあって濃いかと思えば、後味にサッパリした香りが付いて来る。色とりどりの高級食材をも凌ぐ確かな味。世界の三大珍味こそが知れた味だと錯覚させてくる程に今まで出会った事の無い。これ程までに旨い物を食べたのはいつ以来だろうか。あるいは、これが初めてか。
自分の中で否定したかった。
嘘だ。そんな訳無い。自分が口にしているモノはかつて自分がそうだったモノ。人間にこれ程までの魅力を感じるなんて。
今まで生物を食って味を感じなかったのは自分が身体の制御権を持たなかったからか。ならば制御権なんて持ちたくなかった。あのまま果て無い闇の中で消えて居なくなれば「人間」の味を知らずに済んだ。まさか自分が……。
改めて腕の中の肉塊を確認する。首に噛みつくどころか、首元から肩にかけてを喰いちぎったせいで既に絶命している。鼓動打っていた心臓は途中で千切れ、何度か咀嚼ている物の残りだと物語っている。表情は絶望に満ちているが、涙目の奥に見えるのは恐怖では無い。大事な者を守れなかった事への未練だ。
頭では理解していても、口が「食材」を噛むのをやめてくれない。やっとありつけた飯に歓喜しているのだ。食べていた部分を外れた顎など気にせず蛇かの様に強引に呑み込む。他の亡者の様にそれが胃から漏れて出てきてしまうなんて事は何故か無い。
確かに満たされた。先程の危険な思考は何処へやら理性が戻って来た。味覚と言い、感覚なんか無い筈なのに胃が満たされた気がする。人を食べたショックがある筈なのにも関わらず、頭の中はこれまでに無い程スッキリしている。
ふと忘れていた存在を思い出し、男の背後遠くに居た幼子2人に視線を向けてみる。隠れる事はもはや忘れこちらを眺める二人。自身より小さい女の子を大事に抱きしめる男の子は未だに現実を受け止める事が出来ていないのか、両目を開いたまま微動だにしていない。
「ぱ、ぱぱぁああああああああっ!!」
両腕の中に居た女の子が叫んだ。その叫びは明らかに腕の中の肉塊……彼らの父親に向けられた物だ。そうか自分は……こんな幼子の父親を奪ったのか。もし自分が人としての意識を保つ事にこだわりさえしなければこんな事にはならなかった。生きた人を喰らう衝動に駆られる事も無かっただろうし、自分の腕の中で屍となり果てた男も救えた……。救えた筈なんだ……。
「ヴウウウウゥゥアア……」
自分のしでかした事を考えている暇はない。すぐそこまで銃声や人の声を聞きつけた亡者達が差し迫っている。今はこの子達を助ける事が先決だ。
腕の中の男をゆっくりと腕から降ろして横たわらせる。そして幼子2人の方向へと車を飛び降りて走る。
二人とも目の前の光景を信じられないのか、あるいは父親を食した化け物が走って来る事に絶望したのか。喉から声を絞り出す事も出来ずにその場に佇んでいる。
すぐ傍まで行くと二人とも目を見開いたまま見上げて来た。じっとしてくれているのはこの際助かる。そのまま近付いて二人を一旦離してから両腕にそれぞれ抱える。後ろを振り返り、後ろから近付いてる亡者を確認してから改めて走り出す。
そこで一つ違和感に気付いた。子供たちは捕まったと思っているのか二人ともジタバタと暴れ、声を出して泣いている。が、それでも彼らを持って走る事が出来ている。
思いっきりコンクリートに叩きつけて砕けた筈の指先は確かに繋がっており、その指先までが二人の暴れる幼子を抱える手伝いをしている。ただ亡者になったからだと思っていた身体能力は跳ねあがっており、一歩踏み出す度に10メートル近くを飛ぶかの様に進んでいる。まるで車の様な速度で、しかし思うがままに険しい道を走る事が出来ているのだ。
無かった筈の感覚で流れる空気を感じ取り、大地を踏む度にその衝撃が足から身体へと伝わって来る。嗅覚……に関してはノーコメントだ。両腕から確かな甘い香りがしているのは確かだ。
色々と確かめるのは後にするべきだろう。今は亡者の居ない安全な場所を探すべきだ。そう思い頭を左右へと向けながら走り回る。男が声を大にして叫んでしまったせいなのか街中という事もあってなのか亡者は至る所に蔓延っており、この幼子2人と父親がどこから来たのか検討も付ける事が出来ない。よくもこの中で何日も見つからず生き延びれた物だ。
亡者の数が多すぎる街中を離れるべきだ。廃工場なら奴らも居ないだろう。
そう思い更に足に力を入れて走る。夕焼けだった空には幾つかの星がその輝きを放っていた。
亀更新注意