新車におふだが貼られている
ジャンル:推理
「またか…」
ようやく納車された車には、またベタベタとおふだが貼ってある。
角の生えた悪魔のような絵が描かれたおふだの他に、『火の用心』、『詐欺に注意』とステッカーのものまで。
「勘弁してくれよ…」
冬の朝は寒くて、ただでさえ気が重いのに。
新車に貼ってある乱雑なおふだを剥がすのが毎朝の日課だなんて。
気が重い。
それに、剥がす手間を考えているのか、車に傷を作らないように気をつけているのか、マスキングテープのように引っ張れば剥がれるように細工されているのが気持ち悪い。
俺の出勤を遅らせたいのか。だが、毎日と続けばその分、朝早く起きて剥がすようになった。
出勤時間は変わらない。
「よし、全部剥がしたぞ、と」
ボンネット部分も綺麗になり、軽く車を見回してから、ドアを開けて運転席に座る。
*
「なぁ、もしかしてさ、剥がしている間にお前がそこにいることが重要なんじゃねぇの?」
「は?どういうことだよ」
昼飯の時間に、毎日のおふだ被害を友人に言うと、名推理といったドヤ顔で語り始めた。
「お前のことが好きなストーカーがいるんだよ。それでお前を盗撮するために、駐車場にしばらくいなければならない状況を作っている!」
「ヤンデレ好きの妄想に付き合っていられないんだけど」
「だって、他に被害はないんだろ?だったら、そこに足止めする以外にないじゃないか」
「はいはい、迷推理〜」
ストーカーなんているわけがないだろう。
見た目も性格も給料もそれほどよくないこの俺に、猟奇的に惚れ込む女なんていない。
ストーカー案を却下された友人は、
「一応、警察には言っておけよ〜」
と、まともな提案をしてくれたので、帰りに交番へ行った。
今のところ他に被害も出ていないが、巡回の際、気をつけてくれると言ってくれた。
*
そして、なんの変化も予定もなく、年末の帰省の日になった。
今朝もおふだが貼ってあった。
うんざりとしながら、剥がす。
ふと、友人のストーカー案を思い出し、周りをきょろきょろと見回す。
……うん。ブロック塀しかないな。うん。
自分の妄想に寂しくなりながら、いつも通りに車のエンジンをかける。
新しいタイヤが効きもよく、動き出した。
*
『事故の情報です。
〇〇自動車道で、スリップ事故が起き、運転手の男性が死亡しました。
前輪のタイヤに、シール状のものが複数枚貼られており、事故の原因と……』