本編
「ユリコ、すまない……」
そう言って私の手を取り、綺麗な顔を歪ませて、宝石と称えられる紫の瞳を薄い水の膜で覆わせ、絞り出すような声で謝罪するのはこの国の皇子たるアウグスト様。
皇子として生まれ、皇子として育てられた。そしていずれは皇帝として君臨すべく、いついかなる時でも毅然として前を向き、間違うことは許されぬ立場の方。
他の世界からの"落ち人"という存在で、とても大きな力を持つ私に知識を与え、居場所を作ってくれた。
こんな私も守るべき国の民としてくれた。
彼は皇子であり、判断しなくてはならなかった。
だから、多数の国民と一人の国民、どちらを救うか選択しなくてはならず、多数を選んだ。
国は民がいてこそ成り立つのだから、当然のことである。
ただ、それだけのことなのだ。
この世界では異端であるこの身体に宿る力が、この国の結界となり、この国のみんなを守り続ける。それはもちろん、アウグスト様も然り。
花の咲き乱れるこの小さくも美しい庭園は、私の命を吸い取る術式が使われているらしく、痛みや苦しみを感じることなく眠るように逝けるとのこと。
この場所にアウグスト様に抱えられて来てどれほどの時間が経ったのか分からないけれど、優しい眠気がだんだんと強くなっていくのが分かる。
手を伸ばし、アウグスト様の陽を浴びてきらきらと光るような綺麗な金色の髪の毛に触れる。
「……ユリコ?」
「アウグスト様の髪、前から、触ってみたかったんです。不敬罪、なります?」
「いいや、ならない。何度でも触っていいんだ、君なら。」
「なら、もっと、早く、触ってれば、よかった。」
眠気が強い。瞼をずっと開けていられない。
それでも最後のその時まで、彼を目に焼き付けていたいと思った。
髪の毛に触れていた手に力が入らず、だらりと下に垂れるところで、アウグスト様に掬い取られる。
「ユリコっ!」
うっすらとしか開けれない目に映ったのは、耐えきれずに紫の瞳から涙を零すアウグスト様だった。
けして泣いたことのない皇子のこの顔は、かつても、これから先も、きっと私しか見ることがないのだろう。
「ユリコ、すまない、ごめん、ごめん!」
「駄目ですよ、皇子は、謝っちゃ……」
嗚呼、眠くて眠くてたまらない。
「アウグストさま、長生き、してね。おやすみなさい」
「おやすみ、ユリコ―――」
私の呼んで何かを言ったアウグスト様。その声を聞き取る前に、私はそっと目を閉じて眠りについた。
と、そんな最後だったな、と思い出す。
あの時と全く変わりないだろう、芳しい花が咲き乱れる美しい庭園。
見下ろす私の服はぼろぼろになっていないし、両手もしわしわのミイラのようになってない。
あれから、そんなに時が経っていないのだろうか。
そもそも、私は何故起きたのか。「おやすみ」と言って死んだはずなのに。
ただあの時と違うのは、ここにアウグスト様はいないし、私はあの時見なかった硝子の棺に入れられていたようで、その中に彼を思い出すような淡い紫色の敷布が敷かれていた。
とりあえず起き上がり、硝子を鏡代わりに自分の姿を見てみるも、何も変わったところが見られない。
とそこで、背後から草木をかき分け踏みしめる音がする。
「アウグスト様?」と振り返ると、そこには紺色のローブをまとい真っ白な髪をもつ見覚えのある少年がいた。
「アウグストだと思った?残念だったね。」
城に出入りすることを許されたエリート集団である皇国魔術師団の中の、唯一歳の近そうな少年。
アウグスト様だけではなく、他の高位の方にも砕けた態度をとる場面を何度か見ているので、彼自身もとても高い身分を持つのだということはなんとなくわかっていた。
そんな彼は私に魔術を教えてくれた先生であり、よくお茶をした友である、
「ハイノ……」
そう呼ぶと「はーい」と返事をしながらこちらへやって来て、硝子の棺を後ろにして立つ私の前に彼は立つ。
頭ひとつ分程度の身長差のため、思い切り見上げるような体勢にはならないが、それでも目線は上に行く。
柔らかい雰囲気を持つ彼とは対照的にその燃えるような赤い瞳で私をじっと見つめた後、私の後ろの硝子の棺に移る。
「へー。こんなのだったのかー。」
こんなの、とはどんなのだろう。
目線からは硝子の棺のことを指しているのだろうけど、どういう意味でそう言ったのかが分からない。
「ハイノ、どうしたの?」と聞くと、鋭い目つきでやはり棺を指さした。
「あれだよ」
「棺?」
「の中に入ってるあの布。アウグストの奴、自分の目の色と一緒とかやってくれたね。」
鼻で笑いハイノはそう言った。話が見えてこない。
わけがわからないまま見ていると、件の紫の敷布だけが燃え上がったかと思うと塵埃も残さずに消えた。棺は何ともない。
何も残さずに消えたということは即ち魔力によるもの。
私は魔術を使ってない。となると、
「ハイノ、燃やしたの?」
「そうだよー。だっていらないから。」
「いや、勝手に燃やしちゃ駄目だよ。」
いらないから燃やす、しかも遺体を安置するために用意されたものを。
やはりハイノはハイノだ。
普段の彼は穏やかで優しい。しかしたまに妙に振り切った行動をするところがある。それが今回も当てはまってしまったのだろう。もし何か言われたら、起きた時には無かったとでも言っておこう。
「さてユリコ、」と先程とは一変して、優しい眼差しでハイノは私を見つめた。
「一応聞くけど、体調悪いところとか、いつもと何か違うところってないかな?」
ハイノは目で魔力の流れが見えるらしい。だいぶ昔にここで生きていた人々は見えたらしいが、世代を重ねるごとにその力は薄まり、今世では失われた力とのこと。それはこの国のみならず他国でも言えることなので、結構有名なのだと以前本人談で聞いたことがある。
その力を持ってすると、体に異変があると魔力が滞るらしく、見るとすぐ分かるらしい。
そんな人からすれば私の状態なんて聞かなくても分かるだろうけど、念のため、ということなのだろう。だから「一応」なのだ。
「何もない。大丈夫。」
「そっか。まあ、これ作ったのボクだから、何かあるわけないのは分かってたんだけどね。」
「……どれを作ったって?」
「全部だよ。キミを眠りにつかせて、この国の結界とする術式や、それを組み込んで絶対に壊れることのないこの庭園、永遠に枯れない花たち、そして触媒となる硝子の棺。ああ、その敷布だけはアウグストが用意して入れたっていうのは聞いてたんだ。」
アウグスト様が用意したと分かってて燃やしたとは、不敬罪に当たらないだろうか、と考えるが、あのハイノのことだ、きっとそうはならないのだろう。
ただ気になることがある。
私はなぜ、死んでないのだろうか。私が生きているということは、結界はできていないのではないだろうか。つまり、皇国は危ない状態なのではないだろうか。
「私をもう一度殺しに来たの?」
非難するような言い方になってしまったのは許して欲しい。他に良い言い方が思いつかなかったし、そもそもこの話題に関しては急を要するかもしれないので、回りくどい言い方をしたくなかった。
「いいや、違うよ。だから泣きそうな顔しないでよ。」
困ったように笑いながらハイノは私の頭を優しく撫でた。
自覚はなかったけど、ハイノがそう言うくらいだから、泣きそうな顔だったのだろう。
「私が死なないと結界が!」
「そう。だから仮死状態になってもらったんだ。」
本当に死んだわけではなかったらしい。
受けた説明とそもそもが違う。
「張る予定の結界の中央ーーつまりここで落ち人が自決するっていうのが本来のやり方なんだよ。でもそれだと君は命を失う。だから術式を使って仮死にしたんだ。ボク一人でやったから誰も知らないとは思うんだけど、アウグストは勘のいい奴だから最後の逢瀬で気付くかもって思ったけど、そんなこともなかったみたいだね。まあ、余計な土産を置いていったけどね。」
自決という本来のやり方は今初めて知った。ただ死ねば良い、というわけではなかったらしい。
だが、おかしな話だ。
アウグスト様からは永遠の眠りにつくと聞いていた。そして彼は私がハイノの術式によって逝くところを見ている。
もしかして、アウグスト様は本来の結界の張り方を知らないのではないだろうか。もし知っていたのなら、こんな中途半端なやり方しなかったはず。
「何でこんなことをしたの?」
アウグスト様という皇族からの命令でもって、ハイノは私を結界の礎としなくてはいけなかったのに、こんなことをやらかすなんて狂気の沙汰すぎる。私としてもアウグスト様の国を救える上に安らかに逝けるなんて御の字だったのに。
私の言葉に、酷く傷付いたようにハイノは顔を歪める。
「ボクはただキミに生きててほしいんだ。」
「だからって、こんなことしちゃダメでしょ!この国で生きる人たちはどうするの!?」
「キミのこれからの人生を犠牲にしてここの人間は幸せになるなんて理不尽だ。そう思わない?」
「いいえ、私一人か多くの国民かを選ぶなら、大多数を選ぶべきでしょ。」
「……ほんと、奴にしっかり毒されて。」
おそらくアウグスト様のことを言ってるのだろうけど、私はそんな覚えは全くない。
ハイノは細く長いため息をひとつ吐くと、どさり、と音を立てて、選りすぐりの人間しかなることのできない皇国魔術師団が身に纏うことを許される高貴なるローブが汚れることを気にせずにその場に座り込んだ。
「わりと長い話だからさ、キミも座りなよ。」
自分の隣の地面をぽんぽんと叩く。私も服が汚れても気にしないタイプなので、芝生の上に座り込む。
「アウグストの父親……まあ、皇帝としては、落ち人の魔力を継がせたくて、アウグストにキミをあてがい子を産ませた後に、命と引き換えに結界を張らせようとした。」
まあそれはなんとなく分かっていた。
「そして水面下で対立する教会側としては、落ち人を囲われて魔力が皇族に集中することを避けたい。だからこそ、結界の維持が難しく消滅するおそれがあることをまず国民に伝え不安感を煽った。そうなると、皇帝としても、真偽はどうであれすぐに動かなくてはいけない。」
「だからあのタイミングで結界を張ることになったのね。」
私の言葉にハイノが頷く。
「で、アウグストだけど、あいつは皇族として責任と義務を持つ自分とキミを想う男としての自分の間で揺らいでいたところに、キミとの婚姻がパーになったことで、父親から同盟国の王女との婚姻を言い渡された。それで箍が外れちゃったんだろうね、キミを今の状態のまま永遠に自分の手元に留めておけるように死なせようと思いついた。苦しまず眠るように逝けるように、そして死んでもキミの体が朽ち果てることなくそのままの状態が保てるようにとボクに依頼がきた。」
もともと私がいた国では、国のための婚姻とか生死をかけるとかは無縁だったため、皇帝の考えを聞いてもこの国はそういう考えなのかな、と思ってしまう。アウグストに関しては、こちらに来た当初から、皇太子という身分にもかかわらずまめに私とコミュニケーションをとろうとしてくれて、責任感の強い人なんだなとは思っていた。そんな彼を兄のように感じていた。ただアウグスト様は私に対してもっとどろどろした感情を持っているのかもしれない。
「あのさ、すごく今更なんだけど、私起きちゃったけど結界ってどうなったの?」
「専門的な話になるし秘匿情報だから詳細を省くけど、キミが仮死状態になっている間に落ち人を捧げなくても維持できるようになったから大丈夫。」
「そっか……」
何にせよ、私という落ち人がいなくても維持できるようになったなら良かった。
今後落ち人がまたやって来た時に私みたいに望んで結界の礎となるかは分からない。今までと違う世界にやってきて、命をかけるのは嫌だと思う人に無理強いさせたくはない。
「それもハイノがしてくれたの?」
「まあねー。ボク結構凄い人なんだよ。」
「アウグスト様が頼むぐらいだからやっぱりそうなんだな、とは思った。」
「そりゃね。それにアウグストに幼少期から魔術教えたのボクだし。」
一瞬耳を疑った。聞き間違いだろうか?
私二十歳、アウグスト様二十五歳。なんなら私よりも幼く見える。それなのに幼少期から教えるとは。
「そういえば今まで聞いたことなかったけど、ハイノって今何歳なの?」
「それがボクもいちいち覚えてなくてさ、四百年以上は生きてるはずだよ。詳しい歳気になる?それなら調べて計算してこようか?」
「え?あ……え?それじゃあ、後日?」
童顔気味なのかな、と思ったら、まさかの数百年単位での長命だった。究極の童顔と言えよう。
そういえば今世の人間は無理だけど、昔の人は魔力の流れが見えたと言っていた。つまりハイノはその世代の人間だから可能ということなのだろう。
ここの世界での寿命はどんなに長くても八十歳程度と聞いた。恐るべき長寿である。
「というか、何でそんな長寿なの?」
「キミぐらいの時に色々あってね。それ以来不老不死みたいになっちゃったんだ。」
割と軽く言ってるけど、内容としてはまったく軽くない。間違いなく人智を超えている。
「まあその流れで今回の術式を取得できたし、落ち人を生贄とする本来のやり方を抹消することができたから、それはそれで結果良しなんだよ。」
「……そう。だからアウグスト様は今回あなたを頼り、本来ではないやり方で依頼したんだね。」
ハイノの意思により、今世には本来のやり方が伝わらなかったとのこと。それは沢山の情報が集まるだろう王族でさえも伝わっていないのだから、本当に“抹消”したということなのだろう。それだけこの制度を嫌悪しているのだろう。だからこそ、私をこうして助けてくれたのかもしれない。
詳らかになっていない部分はあるも、大筋の流れは理解できた。
「ハイノってほんと、とんでも無い人だったんだね。」
「そうだよ。王族でさえ持て余し、他国にさえ名を知られている。ボクを嫌う人間は多いよ。」
「それだけの人ってこと、私は今知った。」
「そりゃーボクのいらない話なんてキミに伝わらないようにしていたし。」
私たちはそこそこの期間を共にした。先生でもあり友でもあるハイノが、この関係を好ましい良いものと思いそういった行動に出ていたのだとしたら嬉しい。
「魔術師様は秘密主義だもんね。」
ハイノに限らず、皇国魔術師団の方々はそれだけ特殊な仕事であるからか、そもそもそういう気質の人が魔術師に多いからなのか、秘密主義は多い。その代わり、煙に巻いたり回りくどかったり独特な言い回しをするけど、偽りは言わない。
そういう背景もあって、私はアウグスト様の次に早く心を開けたのだ。
そんなハイノという目の前の人物は、困ったように笑っていた。
どうしたのか、という気持ちを込めて彼の名を呼ぶと、彼は黙って指で顎をさする。ハイノは頭で処理するのに時間がかかる何かに直面するとこのような行動をとるのだ。なので彼から言われたわけではないのだが、声をかけて邪魔をしないよういつからか沈黙を守るようになった。時間にしたら一分にも満たないが、考えがまとまったのか顎にあてていた指をおろした。
「ボクは確かに秘密主義だけど、けして嘘は言わないよ。それを念頭において聞いて欲しい。」
「もちろん、前から知ってるよ。だからこそ貴方を信頼してるの。」
「え?ああ、そう?ありがとう。」
「それで、念頭に置いて何を聞いたらいいの?」
「ああ、うん、そうだね。」
さっきから妙に歯切れ悪い。ハイノにしたら珍しいことだ。
「ハイノ、どうしたの?」
「いやー、いざ言うとなると、うーん」
「言いにくいこと?」
「そりゃあ、まあ、うん。」
「……じゃあ、止めとく?」
「いや。でもキミに『愛してる』って言うのすごく緊張するっていうか……」
「……うん?」
「……うわ!」
流れるような愛してるだったが、聞き間違いだろうか。隣を見ると、真っ赤な顔のハイノがこれまた真っ赤な瞳を大きくしてこちらを見ていた。どうやら聞き間違いではなさそうだ。
「いや、ちょっと待って、聞かなかったことにして!」
「あ……そう?」
「違うんだよ、今の発言を取り下げるわけじゃなくて、仕切り直しさせてって意味で!」
真っ赤になって慌てふためき、自分が何を言ってるかもいまいち分かっていないようなハイノは初めて見た。
本人としてはこのような流れで言う予定はなかったらしく、仕切り直しを所望された。
深呼吸をし、いったん心を落ち着けたらしいハイノが依然真っ赤な顔のままでこちらをまっすぐに見る。
「いつから、とか、これっていう決定打を言うことは難しいんだ。それだけいつのまにか自然にそう思うようになってたから。キミがお茶を飲んで幸せそうに笑っていたり、ボクの冗談に面白そうに笑ってたり、外からの風に乗って花の香に微笑んでたり、そういう日常のささいなことで幸せを感じるキミを見てボクは幸せになる。そして叶うなら、良いものでも悪いものでもキミの感情の起伏が全てボク由来のものであってほしいし、それが無理なら、キミと共有し分け合いたいと思うようになった。こんなの、普通の生徒や友人や同僚や他の人に抱く気持ちじゃない。ボクはユリコを愛している。」
今までハイノは私にそんな素振りを見せなかった。
私がハイノを先生であり友として慕っていたからそれを優先してくれたのだろう。
「キミに生きていてほしいと言ったけど、もっと具体的に言うと、ボクの隣で一緒に生きてほしい。」
私の、時が止まった。
私の人生の中で、私を愛し、こんな風に共にする未来を望まれたことなんてなかった。
それがこうして言葉と態度で表されたことがなくて、本当に自分に対してのことなのかとかつての私なら疑ってしまったと思う。
ただハイノは嘘を吐かないことを私自身よく知っている。だからこれがハイノの本音であり、私に望んでいることなのだと理解できる。
ハイノは不老不死と言っていたから、この少年のような姿で老いて死ぬ私よりも長生きしていくのだろう。そうなると、新たに誰かを愛し、隣におきたいと思うようになるのだろうか。そんな仮定の話を考えると腹が立つ。
こうして怒りを覚えるということは、私も、彼を愛しているということなのだろう。今更自覚するなんて。
「ハイノ、私の方が先に老いて死んでくからあなたからすれば本当に短い時間しか一緒にいることができないの。それってどうなの?」
「キミがもともと決まっていた寿命を全うしたいならそれでも良い。でもこのままボクと同じ時間を共にしたいと言ってくれるなら、ボクと同じよう不老不死にすることもできる。ただ不老不死になったら、元の世界や体に戻れないし、ボク以外と関係を持ち交わることができなくなる。まあそれもこれも、キミがボクを受け入れてくれること前提の話なんだけどね。」
そうして自虐的に笑うハイノが少しおかしい。こんなこと聞いている時点で、私がハイノを受け入れているようなものではないか。そこに思い至らないなんて。
確かに私はあちらの世界で生まれた。ただ、それだけだ。
そして私はこちらの世界に生きるハイノを愛している。その気持ちこそが重要なのだ。
「ねえ、ハイノ、さっき気付いたんだけど私も貴方のこと好きみたい。この寿命のまま貴方を置いて行って、他の誰かにとられるのすっごく嫌なんだよね。だから不老不死になってハイノと一緒に生きていこうと思うんだけど、」
どう思う?そう続けようとしたのに、その前に隣にいるハイノに強い力で抱き寄せられた。
ふわふわの白い髪の毛が私の頬に当たる。あの時触ったアウグスト様の髪の毛とまったく違うもので、私はハイノの頭を何も言わずにそっと撫でた。
「……キミがそこまでボクに執着してくれてるって思わなかったから、すごく嬉しい。」
私の肩口からくぐもった声が聞こえる。
さっきの言葉だけど、人によっては束縛しているように感じるから、いい方向にとってもらえて何よりである。
「ほんとさっき気付いたばっかりだけどね。私、ハイノのこと恋愛対象として見てるのかなって思って、仮定として貴方が私とは違う他の人と一緒に生きていくのを想像したんだけど、それがすっごく嫌で。まあ、だからハイノのことを好きだってことに気が付けたんだけども。」
「なるほどね。」
そういうと、私を抱き寄せていた強い力をゆるめ、優しく引き離される。そうして、しっかりと目を合わせ、とても真剣な表情で口を開いた。
「キミは不老不死となり、生涯ボクの傍にいてくれるってことで良いんだよね?」
「もちろん。」
そうして私たちは、唇を重ねた。
美しい庭園、ついさっきまで私が入っていた硝子の棺、お互いが座っているのは地面だし、服も草や土がついている。
愛を誓うには雰囲気があったものじゃないかもしれない。でも、それを笑い話として何回も何十回も何百回もできたら良い。それだけの時間が私達には許されている。
唇を離したあと、私達はどちらからともなく笑いあった。




