9
姫様はオレの頬をぺちぺちと叩きながら、何かを言っているのだが、残念ながらもう聞こえないが。もう何も見えないし何も聞こえない。
(ひょっとして……オレ死ぬ?)
全感覚を奪われた世界で、オレの思考だけが動いていた。オレしか居ない世界……いや違う、神の笑い声は相変わらず聞こえている。
“はっはっは、不憫だねクーガ君よ”
(ちょっと待て、オレはマジで死ぬのか?)
“うん”
よかった、神とはどんな状況でもお話できるらしい、ちゃんと会話になっている。
(……ってぇ、よくない!)
“めでたしめでたし”
(全然めでたくねぇよ、オレは一話で死ぬのか? こんなヘンなオチで話し終わっちまうのかよ!)
“続くよ、多分”
(多分かよ!)
“いや、続くけど”
こんな状況でボケないでほしい。いいや、それ所じゃない、オレの意識が闇に呑まれるように曖昧になってく、多分意識が完全に消えたら死ぬんだろう。それは嫌だ、死にたくない、まだこんな所で死にたくない、何よりこんな死因はいやだ!
“助けるはずだった姫様に撲殺されたクーガ、戒名は久我 朱彦”
(それ本名だから!)
こんな時でも突っ込んでしまう自分が嫌だ。ああ……もう、いろいろ考えるのも、難しくなってきた……。死ぬのか、オレは、死ぬのか?
“うん、死ぬ。そして黄泉返る”
(そんなの……ありか……?)
オレの意識は、完全に闇へ飲まれた。
「おーい、起きろ、起きろってば!」
彼女は、地面に転がっているクーガに声をかけ続けていた、いくら声をかけようとも、起きる気配は無い。盛大な舌打ちをした後、腰に下げているウエストポーチを漁りながら、大きな独り言を話していた。
「くっそー、騙されたぞコンチクショー。ファブニルのバカー、フォルのバカァ。なんかキモイもん見えたと思ったら、来たのはコイツかよ、例の時の人かよ。怪我を回復させても意味がない、この世界はもう持たない、だとするとやっぱりコレなんだよなぁ……」
などと言っている内に、彼女がウエストポーチから取り出した物は、絡み合う蛇の紋が掘られた黒銀の懐中時計だった。それを睨みつけながら、独り言を続けた。
「一回しか使えない貴重品……だが、今使わずしていつ使う!」
懐中時計の鎖を取り外し、それを円にしクーガを囲む。その傍らに彼女は立ち、懐中時計を構えた。それを開くと同時に、歌うように……いいや、歌った。
|Haire〈ZHAT(SATURNUS-cheapll)=zhes=[Coure・w‐vhoucll]〉《来れ、サトゥルヌス》
これで勇者クーガは終わりです。
次は半生霊クーガ。