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戦闘士クーガ  作者: 狂狗
勇者クーガ
8/49

 “クマさっんの〜ぉ、言うこっとにゃ〜ぁ”

 ああ……ふざけた調子だけど、割と歌うまいなぁ……。

 “お嬢っさん〜、お逃げなっさい”

 なんで逃げなきゃいけないんだろうなぁ……。


 ――思考、再起動――


 「なんでいきなり『森のクマさん』歌うんだよ!」

 さすがに突っ込んだ。危ない危ない、オレの思考回路が変な歌に汚染される所だった。神は満足そうな笑い声をあげて、歌うのをやめた。

 “『森のクマさん』をチョイスしたのは気分だ”

 「そう言う問題じゃなくて、オレのシリアスな気分返せ!」

 “返してほしいの?”

 「いや、返してほしくないけど」

 “うひひ”

 怪しい笑い声をあげてる神。さっきまで微妙な感じだったのに、上機嫌だな。なんでだ?

 “さーてクーガよ、改めて姫さまを助けようじゃないか!”

 「あ、ああ……それもそうだな、また忘れてた。ところで神よ、お前さっきからなんでそんなハイテンションなんだ?」

 “気のせいだ!”

 いい加減な返答が返ってきた。何か含みのある言い方だが『気のせいじゃないか?』と『気にするな』はほとんど同意義だから、気にしないでおこう。

 “ここまで来て姫様助けずに帰る気か、クーガ!”

 「まぁ、そのとおりだな」

 “ファイト、いっぱーつ!”

 神のやかましい応援を聞き流しながら、オレは再び姫様に指を伸ばした。よし、今度は何も起きない、ちょっと指先が震えているのは武者震いだと思っておこう。そのままゆっくりと指を近づけていく、そして震える指先がクリスタルに触れた。

 その瞬間、音もなくクリスタルは崩れ、光る粒子となって風に消えた。姫様はクリスタルの中から解放された、しかしその瞳は今だ閉ざされている。

 「ひ、姫様……?」

 恐る恐る呼んでみたが、反応はない。まだ寝ているのだろうか? まさか死んで……いやそれはない、邪竜は普通に閉じ込めていただけ、空気穴もちゃんとある。だったらやはり眠っているのだろう、眠ったままではどうにも対処できないので、姫様を起こそうと手の伸ばした所はいいのだが、どうにも手が震えたままだった。いかん、やっぱり気後れする、触ったら消えてしまうような気がするもんな、この姫様。幻のような、ここに居ないかのような雰囲気なのだ。姫様にどれだけ気後れしていようと、やっぱり動かないとな、頑張れオレ。

 などと考えていると、姫様の目蓋がピクリと動いた。びっくりして姫様の顔を凝視する。目蓋が少しずつ開いていき、オレはその光景から目が離せず、硬直していた。

 ゆるゆると目は開かれていき、瞳が半分ほど開かれ、その目はオレの姿を見た。

 それと同時に、姫様のたおやかな腕が動いた。


 ガンッ


 (……え?)

 痛みはなかった、ただ強い衝撃を全身に感じ、直後に全ての感覚がシャットダウンされた。一瞬完全な暗闇が世界を覆った後、他人事のような痛覚が戻ってきた、瞬きをしていると、ぼやけた世界がゆっくりと見えてきた。全てが他人事のように感じるが、現実だ。

 まったく回らない頭は、冷静に世界を感じていた。

 オレはどうやら倒れているらしく、直角に傾いた世界を見ていた。その中にいる姫様は完全に目を覚ましており、容姿に似合わない大欠伸をしていた。

 「ふぁ〜あ、よく寝た……」

 目を覚ますまでは確かにあった、あの儚げな雰囲気はどこにも無い。彼女は頭をバリバリ掻きながら立ち上がると、上からオレを見下ろして驚いたように言った。

 「あれ? あいつじゃ無いじゃん、人違いかよ!」

 見事な一人突っ込み、口調と動作は非常にマッチしているのだが、容姿と服装が似つかわしくない。見た目はともかく、こんな事やっている人間を誰も姫様とは呼ばないだろう。まぁほかに呼びようがないので、姫様と呼ぼう。

 「ちぇえ、せっかく髪伸ばしといてやったのに」

 悪態をつくと、姫様は何処から取り出したのか刃渡り三十センチにも届きそうな大鋏を右手に持ち、器用に髪を切り落としていった、あれよあれよと言う間に、長かった髪はザンバラのショートカットへと早代わりした、綺麗だったのに、もったいない。さらに驚くべきことに、身にまとっていたドレスを一気に脱ぎ捨てた、その下からはドレスと同じ深紅の、しかしドレスと違い、とても動きやすそうな服が現れた、どういう仕組みか解らないが凄い早着替えである。

 もはや服装も姫様とは言えない、多彩な表情に彩られた顔からは、力強い生命力を感じる。

 何と言うか、お姫様がガキ大将に早変わり。まぁ吃驚。

 そんな事を考えていると、姫様は多分オレに向けた言葉を発した。

 「おい、大丈夫か? 加減が違ったからな〜、ヤバイかもなこいつ」

 ヤバイかもじゃなくヤバイと思う、だんだん体のそこが冷めていく感覚がする、体中に感じていた鈍痛は次第に遠ざかっていき、視界は明度を落としていく。

 「おーい、おいオマエー、聞こえてるかー……おー……起き……」

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