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「忘れてたーっ!」
“どんだけ忘れっぽいんだよ、このヘタレ”
なんという事だ、キャラ紹介なんて物があれば絶対に出てくるであろう人物の事を(結構頻繁に)忘れるなんて! ああ、なんという恥か、まさに生き恥!
“どんだけカッコよく言っても、事実は変わらない悲しさ”
そうだ、邪竜の死になどかまけている場合ではない。姫様を助けるためにオレは一体どれだけの命を犠牲にしたというのか、それらを踏みにじるとこだった!
“大げさな”
今こそ姫様を助けるときなのだ、さあ急げクーガよ!
“私のセリフ盗るな”
「さっきからうるさい、人がせっかく決意を新たにしているというのに」
ああもうなんだっていい、邪竜のことは後でどうにかなるだろう!
“てきとーな!”
それより今は姫様を助けるんだ、今助けなくていつ助けられるというんだ、神とコントなんかやってる場合じゃない。確か姫様は先ほど邪竜がいた後ろの位置にいるはずだから……
「目の前にいるじゃん!」
“お前大丈夫か?”
しっかり前を見てみれば、いるじゃないか姫様。さっき見たままの状態で、やっぱり地面にクリスタルが突き刺さっている、その中で姫様は変わらず眠っていた。
恐る恐る近づいて姫様の姿を近くで見ると、スコープで見た通りに姫様は近づくのが恐れ多いほどの美少女だった、そのまま姫様を眺めていたい気持ちと、直接触れてみたい衝動が起きた。
“触れろよ、つーか姫様助けろよ”
「……つくづく思うが、お前は雰囲気を壊すのが大好きだな」
邪竜はすでに倒されているのだから、このクリスタルは開くはずだ。おそらく大した力を加えなくても、このクリスタルは砕け、中の姫様は解放されるのだろう。オレはクリスタルにゆっくりと指を伸ばし、クリスタルに触れた。
その瞬間、オレの脳裏をいくつかの記憶が駆けめぐった。
ひたすら切り刻んだ。血の中に倒れ臥す、あいつ。陽光と共に、広がっていく血。初めて生き物を切った、あの感覚。泣き声と、子守歌。引き離された、手と手。黒髪の子供が、花畑を駆けて行く。鏡に映る、紫の道化。
そして、銀色。
指がビクリと震え、オレは手を戻した。なんだ今のは、他人事のように頭の中を駆け巡る、だが他人事ではない。この懐かしいような、悲しいような、心臓を締め付ける感覚。あれは、オレの過去……なのか?
何かが大きく揺らいだ。オレは今まで何をしてきたんだ、忘れかけていた、いろんな事を。忘れていいはずがないのに、自分が奪ったいくつもの命、どうして忘れかけていたんだろう。
殺してしまったんだ、全部。他に手段もあっただろうに、殺してしまったんだ。
どうしようもなく、立ち尽くす。オレは、今まで何のために。
“そんな事はどうでもいい、進めクーガ”
「……どこへ」
もういやだ、何もしたくない。なんでこんなものがいきなり見えたんだ、見たくなかったぞこんなもの、忘れたままで居たかった。忘れてはいけないとわかっていても、忘れたかったんだ。
自分が、何をしてここまで来たのか。
暗鬱としたオレの様子に辟易したのか、神はしばらく黙っていたのだが、なんの前触れもなく、大きく息を吸い込んだ。聞こえてきたのは歌声。
“あるぅ日〜ぃ、森のなっか〜ぁ、クマさっんに〜ぃ、出会った〜♪”