10
誰も見ていない事を良い事にして、オレは地に伏していた。
施錠された初等部の門の前で。
「そうだよな、小等部が下校してるなら、初等部はもっと早くに下校しててもおかしくないもんな」
“うん、そうだね”
「五男はもう帰っちまった、と」
“うん、そうだね”
「ここまで来たのは無駄足だった訳だ」
“うん、そうだね”
「『うん、そうだね』以外の事を言えよ!」
“肯定しか出来ねぇのに無茶言うなよ……”
神に無茶言うなと言われると非常に心外だ。
“失敬な”
神が何と言おうと、どうしようもない事に変わりは無い。初等部、いわゆる幼稚園がこんな時間までやっているはずが無い事をなぜ失念していたのか、自分の迂闊さが憎い。明るいパステルカラーで彩られた門は固く閉ざされ、人の来訪を拒んでいる、開けゴマと言ってこの門が開く訳がない。開いたところで五男はいない、もう帰ってるに決まってる。
五男がだめなら、あと残っているのは一人しかいない。
(最後は三男か、ちゃんと会えるのか?)
“私、不安になってきちゃった”
(奇遇だな、オレもだ)
何だかこのまま三男にも会えない気がしてきた。そうなったらどうしたらいいんだろう、届け物を届けられないし、そう言えばこの制服も返さないといけないんだった。何としてでも三男に会わないと困った事態になる、カリパクはいけない、何とかしなくては。
“ここであれこれ言っててもしょうがないから動こうぜ”
(そうだな、動くか)
神の意見に賛同し、とりあえず歩く事にする。三男がいるのは中等部だ、ここからは結構距離がある。また神が“神ナビ起動”と言って道案内を始めた、心なしか声に元気が無い。そしてオレはもっと元気が無い。当たり前だ、これだけ市中引き回しみたいな事すればな、肉体的にも精神的にも疲れてきて当然だ。
二人ともここまで疲れたのは何時ぶりだろう。
そんな事を考えると、口から重いため息が出てきた。疲れていても立ちどまれない、動かなくては。まるで安住の地を追われたユダヤ人だ、そんな事を考えつつ、また足を動かした。