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戦闘士クーガ  作者: 狂狗
デリバークーガ
45/49

 神の言う通りに歩いたら、すぐに小等部についた、予定通りの30分で。オレの今までの努力は何だったのかと思いつつも、無事ついたので良しとする。

 小等部は子供ばかりいる、小等部なのだから当然なのだが、こんなに大量の子供を見るのは生まれて初めてかもしれない。そのほとんどがオレを物珍しそうに見つめてくるのだから、落ち着かない事この上ない。

 その中の一人をつかまえて、胡豆の居場所を聞くと、その子供は元気よく答えてくれた。

 「胡豆なら運動場にいるぜ!」

 どうやら胡豆は小等部の運動場にいるらしい。オレはお礼を言って早々に立ち去った、迂闊に長居すると子供たちに捉まりそうだったからだ。子供は嫌いじゃないが、今は急いでいる。子供たちのおもちゃになっている暇は無い。


 暇は無い……のだが。


 「兄ちゃん、次はオレたちのチームに入ってくれよ!」

 「だーめ、お兄ちゃんは女子のチームに入るの!」

 オレは見事に遊ばれていた。

 運動場のような場所に連れていかれ、なぜかドッチボールをする事に。当然だがタイマンではない、チーム戦だ。やはり年上のオレがいるチームが勝つようで、負けたくない子供たちはこぞってオレを自分のチームに入れたがる。モテ期到来か?

 やけにオレばかり狙われる試合を何回戦やっただろう、子供たちがとんでもない事を言い出した。

 「お兄ちゃん対全員だー!」

 オレはその言葉を宣言した子供にシロ君の影を見た。

 ああ、非情かな。無論、オレに拒否権は無い。

 「かかれー!」

 そこにはルールなどと言うものは存在しなかった、コートすら存在しない。与えられるのは一方的な暴力、抵抗は許されない、子供相手にまともに抵抗できるはずがないだろう。子供を本気で撃退したら騎士の名が廃る……オレは騎士だからな、忘れんなよ!

 ……しばらく待ったが返事はない、心の中の住民に念押ししたつもりだったのだが、反応は無かった、珍しい。

 前から後ろから、四方八方からボールが飛んでくる。一応まだボールを用いるというルールは残っているらしい、オレはひたすらボールを躱し続けていた。騎士になる試練の一つに、下半身埋められた状態で九本の槍を躱すってのがあるって言われて、凄い訓練をさせられた事のあるオレに、こんなボール当たる訳ないだろう。ちなみにその試練は実在しなかった、教官は教え子全員に嘘を教えていたらしい。

 そんなオレの汗と血と少しの涙でできている回避率を目の当たりにしている子供たちは、ボールがちっとも当たらない事がつまらないのか、野次を飛ばし始めた。

 「おにーちゃん、かわしてるばっかじゃん」

 「あはははははー」

 この回避率は半分優しさでできているんだよ! とは流石に言わないでおく、残り半分が何かと聞かれた時に言えないしな、グロ過ぎる。

 「へたれー」

 「ヘタレー!」

 回避率云々の説明を子供たちにする事はできない、しかしこちらはっきり言っておく。

 飛んでくるボールの一つを掴み、すぐに投げ返しながら叫んだ。

 「オレはヘタレじゃありません!」

 当たった子供はギャーと言って尻もちをついた、もちろん手加減してるから怪我はしてないはずだ。ちょっと痛かったかもしれないが、人の事をヘタレ呼ばわりした罰だ。オレは断じてヘタレじゃない!

 そしてオレは飛んできたボールを再び掴み、投げ返しながら宣言した。

 「テメェら覚悟しろよー!」

 きゃー、という子供たちの楽しそうな悲鳴が、太陽が中天をすぎた空に響いていった。


 「ハァ……ハァ……」

 「おにーちゃん、またねー」

 「おー……」


 ……ツカレタ。

 元気スギルヨ、ミンナ。

 子供たちとの熾烈な争いは長く続き、気づけば日は傾いていた。結構本気だったドッチボールはオレの負けに終わり、次にやらされた鬼ごっこも、子供たちを全員捕まえるまでには至らなかった。ケードロだの缶蹴りだの、オレの知らない遊びもあったが、全部やらされた。

 ……うん、見事に踊らされてしまった。

 茜色に染まる運動場、あんなに賑やかだったのが嘘のようだ、もうオレ以外誰もいない。どこか荒野にも似た雰囲気を漂わせる運動場に、オレの物ではない、既に聞き慣れてしまった声が響いた。

 “へたれー”

 うん、もう慣れた。

 (なんだよ、ずっと黙ってたと思ったら開口一番に人の事罵りやがって)

 “へたれー”

 (ヘタレじゃねぇ)

 まったく、こいつはどれだけ人をヘタレと決めつければ気が済むのか。子供たちにまでヘタレと言われたんだよな、オレはやる時はやるんだぞ。

 人の訂正を聞かないまま、神は話を進めた。

 “あのさー、お前がとても愉快に子供たちのオモチャになっている間にさぁ”

 (その言い方はムカつくからやめろ。で、なんかあったのか?)

 “……胡豆君、帰っちゃったよ?”

 (……え?)

 嫌な沈黙が場を支配する、神が頭を掻いているような音と、乾いた笑い声が聞こえた。

 “いやぁー、お前が非常に面白く児童たちの玩具になっている間にさぁ”

 (表現変えれば良いと思ってるんじゃねえよ。つーかどういう訳だ、何があった!)

 “いやさー、お前がいとおかしく童らの遊具になりはべる間ね、胡豆君ずっと野球やってた訳よ”

 (お前、それでずっと静かだったのか)

 “うん、そうだよ。お前が遊んでいるのを横目に試合を観戦してたんだけどね、もうずいぶん前に試合終わっちまった訳よ”

 (教えろよ!)

 オレの叱咤に、神は少し罰が悪そうな笑い声を立てた。あれ、珍しく反省してる?

 “言おうかと思ったんだけど……思ったんだけど”

 珍しい、神がちゅうちょしている。うめき声ばかりでなかなか言葉を発しない。神は聞き取りづらい小さな声で、ぼそぼそと言った。

 “クーガが珍しく、普通に楽しそうだったからさ、うん、なんというかね、そのね、あのね”

 それ以降、神の言葉はまともな言葉になっていなかった。しかし、言いたい事はその一言で理解できた。困っているような、照れているような、そんな声音で何か言わなくてはと焦っている。ひょっとすると、いつものようにごまかす方法を考えているのかもしれない。

 ……ったく、怒るに怒れないじゃないか。

 (次、どっち行くんだ?)

 “え?”

 いつもはこっちが混乱させられているので、逆の立場になると少し小気味好い。

 (日も暮れてきたし、さっさと案内してくれ)

 “ええええっと、神ナビ”

 (いちいち口上述べんでよろしい)

 “とりあえず右の方にある校門まで行って!”

 そう言った神の声がやけに嬉しそうだったから、オレは苦笑を浮かべつつ、何も言わない事にしておいた。


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