6
「ははは……変な人だったな」
“おまえの方が変人だよ”
「そのセリフ、そのまま返してやる」
オレは茂みの中で着替えていた、地図を見ても近くにトイレが無かったのだ。あの後、樒実さんは、じゃあねー、と言って森に消えた。煙のような消え方だった、登場の仕方も唐突だったし、あの人は瞬間移動が出来るのではないかと疑ってしまう。あんな怪しい人を当てにして良いのだろうか。しかし、他に手段はない。
なので、こうして樒実さんの貸してくれた制服に着替えている。
「ぶかぶかだな……この制服、樒実さんのサイズで出来てるから、オレには大きすぎる」
“そうだね、胴回りとかはともかく、足とか足りないね”
「その言い方やめろ、オレが太いみたいじゃないか!」
“太いじゃん”
「樒実さんと比べればな、あの人細すぎるだろ!」
”確かにひょろ長いね”
などと話している内に着替え終わった、裾も袖も余っているが、誤魔化せ範囲ではない、脱いだ服はエコバックに押し込んだ。
ポケットから取り出しておいた小石を、改めて確認する。色は派手だがとても小さいので、下手するとなくしてしまいそうだ。シロ君は何でこれをラッディって奴に届けてほしいんだろう、手紙とかならともかく何故に宝石。そう思いつつ、ズボンのポケットに入れ直した。
「さてと、それじゃあ行くか」
“どいつから?”
「そうだな……言われた通りの順番に行くか?」
“捻りヌェー”
「捻りがいるのかよ」
“いらない”
なにはともあれ、地図を改めて開き、ルートを確認する。現在地は大学部のC棟、その裏に広がる森の中。大学部に用がある人はいないから、すぐに出ていいだろう。用があるのは高等部、次男の榴火とやらだ。幸い、高等部はここから近い、徒歩十分程度で着くだろう。
「じゃあ行くか」
エコバックを肩にかけていざ行こう。と言う時に、神がナレーション調で言った。
“果たしてクーガは無事に高等部に着けるのか”
「着けるだろう」
“きっと道に迷う”
「さすがにこの距離じゃ迷わないだろ……うん、たぶん」
“ほんとーにぃー?”
神が余計なこと言うから不安になってきたじゃないか。
「迷わないといったら迷わない、行くぞ!」
“れっつらご~”
オレの足がやけに速足だったのは、気のせいだったという事にしておこう。