6
【試合開始】
屋外。酒場の前、道のド真ん中。何でこんな事になったのか、そんな事オレには解らない。つーか知らん。地面には適当に書かれた長方形のコート、四角は二つ、隣接するように書かれている。
西側、とてもうれしそうな笑顔の少年、シロ君。
東側、茫然とした顔で立ち尽くすオレ、クーガ。
コートの中にはこの二人しかいない。一対一のドッチボール、タイマンドッチと言うらしい。なんと物騒な響きだろう、ほんと感動して泣けてくるよ。
コートの中の人口密度と比べ、コートの外は人でいっぱいだ。おそらく応援か野次馬か何かだろう。一つ気になるのが、結界でもあるかのようにコートから半径10m以内には誰もいない事だ、誰も近寄ってこない。その事が示しているのは、このタイマンドッチとやらは周りにも害が及ぶ物であるという事だ。と言う事はつまりやってる本人達はもっと危ないんじゃないんだろうか?
「殺っちまえー、シロー!」
ギャラリーの応援がさっきからこんなのばっかりだ、やるのやの字が変換されている所、そこが気になって仕方ない。
シロ君がタイマンドッチの説明を始めた。
「これからタイマンドッチの説明を始めます! ルールは簡単、適当にコートを引いてその中で選手たちが向き合う。そして互いにボールをぶつけ合うだけ。先に倒れた方が負け!」
「何だよそれ……つまりキャッチボールの凶悪版みたいなやつか?」
「凶悪って何さ!」
凶悪と言ったら怒られた。だって想像してみろ、一対一のドッチボールを。どちらかが倒れるまで続行されるドッチボールを。そんなのドッチじゃねぇ、恐ろしい。
ところで、今更なんだが。なんでこんな試合をする事になったんだ? 特に理由は思い当たらないんだが……ここに来たやつは皆やるのか、タイマンドッチ、そんな規則は嫌だぞ。訳は解らないけれど、あの満面の無邪気な笑みで「ドッチボールやろう」と言われたら普通断れないだろう、断ったらきっと捨てられた子犬みたいな顔するだろうから、良心が許してくれない。
(あぁもう勘弁してくれよ、こんな急展開にお兄さんはついて行けませんからね。何かしらの説明が欲しかったりするんですよ、でもきっと絶対に説明はないんだろうね!)
混乱しすぎて口調が変わっちゃったりするんだよ。まぁ何を言おうとすべて今更だ。こんな状況で試合放棄はできないだろう。多分逃げたらギャラリーに捕まる。人間あきらめが肝心、あの神と付き合っていれば否応なしに学ぶことだ。よし、腹を括ろう。
そして、試合が始まった。
【シロ君のターン】
凶悪と言われた事をもう忘れたかのように、シロ君はすぐに機嫌を直し、茶色いゴム製のボールを手にとった。ボールの固さを確かめるようにボールを数回たたいた後、シロ君はボールを右手に持って構えた。どこからどう見ても野球の投げ方だ。
「いっくよー、時速180Km !」
(ははは、車のスピードじゃねぇんだから……)
ビュッ、ガッシャアァン
顔のすぐ横を、風が通り抜けた。オレの動態視力では到底追えないスピード、音が聞こえたのはその後だ。最初の音は耳元で聞こえ、後の音は背後から聞こえた。混乱しすぎてどんな表情をしたらいいのか解らない。
無表情のまま、十秒ぐらい間をとってから振り返ると、そこにはちょうどボールと同じ大きさの丸い穴の空いた木製のドアがあった、穴の空いたドアが風に揺れている、ボールの姿は見えない。シロ君に向き直り、オレは叫んだ。
「殺す気かーッ!」
「あ、外しちゃった」
えへっ、とか言って頭を小突いているシロ君。仕草としてはかわいい部類に入るんだろうが、アレを見た後では薄ら寒いものにしか見えない。測定は出来ないが、さっきのボールって本当に時速180kmあるんじゃないだろうか。質量が軽いとはいえ、そんなスピードで物がぶつかって来たら……骨折どころじゃ済まない気がする、きっと胴体を貫通する。
背筋に冷汗を流しているオレに、誰かが拾ってきてくれたらしいボールが投げ渡された。投げ渡した人に『助けてくれ』と視線で訴えたが、その人はいい笑顔で親指を立てただけだった。
あのボールを直接食らったら負けることは必須……命さえ危ないかもしれない、キャッチすることも避けた方がいいだろう。だとしたらかわし続けるのが得策か。でもかわせないよな、ろくに見えないんだから。シロ君が外してくれたから助かったようなもんだ、次は外してくれるかどうか解らない。
つまり、この一球で勝たないと死ぬ確率がかなり高い!
すみません、出し遅れました。
言い訳としては、ここ最近忙しかったのです。
何かと造っていたのです。