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戦闘士クーガ  作者: 狂狗
勇者クーガ
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 光は近づくにつれ光量を増していき、オレの目も次第に光に慣れていった。出口までの道は坂道になっていき、オレはそれを登りきった。

 (うわっ……凄い景色だ……)

 そこは山の頂上だった、凄い高い、明らかにこんな高さを上ってこれるほど歩いていないのだけれど、今更なので気にしない。まさに風光明媚と言う言葉が似合う景色だ、でも崖なので少し危ない。足元には青々とした黄緑色の草が生えており、周りの木々も鮮やかな色で、美しい。

 しかし、ひとつ気になる。背後から吹いてくる強風だ、正確には後ろ斜め上。妙に蛇行している風、洞窟に吹き込んでいた風と思われる強風だ。花粉が凄い含まれているらしく、さっきから鼻がムズムズして仕方ない。その強風の吹く先に何が居るのかは、話の展開的にわかるが、何でこんなに花粉が混ざった風なんだろう、わざとこんな風を起こしているとは思いたくない。わざとだったら……あれだよ、さっき考えてたオレの弱点をついて風を起こしている事になるからな。確かにオレはこの風のせいで鼻水ダラダラなうえに涙目になってるから、効果的面には違いないけれども、そんなせこい事をする相手が敵だと思いたくない。振り返れば真実はおのずと知れるのだが、振り返りたくない。いろんな意味で。

 “振り返るのだ、話進まないから”

 (……神ウゼェ)

 “ウザくてけっこう、はよ振り返りんしゃい”

 神の言う通りに動くのは癪だったが、確かに振り返る以外に道はなかった、帰る訳にもいかないし。オレはゆっくりと振り返った。


 そこには、邪竜と呼ぶに相応しい存在が鎮座していた。

 黒い鱗に覆われた巨体、人間など引っ掛かっただけで引き裂かれるであろう鋭く大きな鉤爪、天を突く四本の金色の角、禍々しいほどに赤い目を持った、邪竜ファヴニルが悪魔のような翼を激しくはためかせていた。

 ……あのいかにもな外見といい、この威圧感といい、それらはあの竜が本物の邪竜だと示している。しかし、あれだ、やっぱりこの強風起こしてるのはあの邪竜なんだよな? しかも、わざわざオレの出てきた洞窟の上に生えている杉の周りで、バサバサやってんだよな、ついでに言うと、なんか羽ばたき過ぎて疲れた顔してるんだよな。邪竜にあえば、普通は腰が抜けるぐらい吃驚するんだろうけど、あんな風じゃなぁ……第一オレ一応勇者だし、勇ましい者だし。吃驚現象にはもう慣れたよ。

 (……何やってんだこいつ? いくらなんでも間抜けすぎる、普通に偉そうに構えていてほしかった……)

 内心で独り言をつぶやいてると、邪竜はオレがふりむいてからしばらくの間を置いて羽ばたくのを止めた。そしてオレを上から鋭い視線で見下ろし、低い唸り声をあげると。

 「ようこんな遠くまで来なはったな、勇者はん」

 「なんでそこで喋るんだよ!? つーか何で京都弁?」

 邪竜の鋭い牙が生えそろった明らかに人語を話せなさそうな口から飛び出してきたのは炎でも毒の息でもなく京言葉だ。テレパシーでも何でもなく普通に喋っている。いくらなんでもシュールだ、シュールにも程がある。叫んで突っ込む以外の行動が取れない。このまま戦闘に入るのかと、真面目に考えて剣を構え直したんだが、こいつはオレの期待をどれだけ裏切れば気が済むんだ。オレが唖然としているのにもお構いなく、邪竜は一人で話し始めた。

 「いやぁ、ワイもこんな形でアンタとは会いとうなかったわ。どういう訳だか、ワイの評判はここ数百年の間に悪者って事になっとってな、昔はそうでもなかったんやで? 山の神様っちゅう事で、ちゃんと奉られてた頃もあったなぁ」

 「大阪弁になってるぞ!?」

 「地だけどなんか文句あるけ?」

 「どこの方言だよ!」

 「まぁそれは置いといておくんなはれ、ワイは別にそんなに悪者として暮らしてきたつもりはあらへん、今回姫さんをさらったのも訳あっての事や、どうか見逃してくれへんか?」

 早いテンポの会話で突然そんな事を言われても、どうすればいいのか解るわけがない、と言うか邪竜がどういう仕組みで喋っているのかが気になって仕方ない。だいたい、事情があっての行動だと言われても、ここまで来るのにかかった道のりを考えると、そうあっさりと引き下がれない。しかしオレとしては戦う気が起きない。こんな事を言い出す異様にシュールな邪竜に対して、戦意と呼べるものはことごとく喪失していた。邪竜と戦うか否か決めかねていると、神の声がまた聞こえてきた。

 “戦うのだクーガよ、戦え! ……くふふっ”

 何やら威厳があるように見せたいらしくやけに低い声になっている、ちなみに威厳のかけらもない。一人で喋っているのは怪しいので、オレは心の中で返事をした。

 (何で最後に意味ありげな笑いが入るんだろうなぁ?)

 “いいから戦え、オチは出来ている”

 (ますます戦意が喪失してきたのは気のせいではない、真実である)

 “そんな解説っぽく言ったってねぇ、戦ってくれなきゃ”

 (神の命令だろうとやる気は湧いてこない)

 “ちぇ、じゃあ少しやる気が出るアドバイス。邪竜と話してて”

 (なんだそりゃ……?)

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