7
「ぐォラいい加減にせんかい!」
「ぐえっ」
どこからどうやって降って来たのかは解らないが、とりあえず神がクーガの上に降って来た。当然のようにクーガを踏みつけて。
「どこから降って来たんだよお前!?」
「そのへんの説明はアニオタの神秘と言う事で」
「つまり科学的な説明は一切なしと。わざわざオタをつける理由が解らないが、それは置いといて。いい加減に降りろ!」
「やだ」
アホな事を言う神を強引に叩き落とし、立ち上がって埃をはらっていたクーガに、神は転がったまま叫んでいた。
「ブッちゃけて言えば強制召喚だよ、既に長すぎるから早く終わらせないとな!」
クーガは酷薄な笑みを浮かべながら、落ち着いた口調で言った。
「そうですか、だったらセリフの長い貴方を強制退去しましょう」
「待って、だいぶお役に立てるから待って!」
一瞬で立ち上がり、クーガのえり元をがっしり掴みながらそう言ってくる神に、クーガは振り返らずに言い返した。
「神が役に立った覚えがないんだがな」
「プレゼントは校庭に生えてるでっかい木の下に向かってる!」
「よし行くぞ」
歩き出したクーガ、神はえり元を掴んだまま引きずられていた。どれだけ体重が軽いのか、いや体重あるのかなこの人?
「マジでいるよ……」
「私が出任せ言うと思ったか?」
「もちろん」
「いくらポジティブ思考の私でも悲しくなってきたよ……」
番外編の分際で本編より長くなりそうなので、一行で移動したことになっている神とクーガ。彼らの視線の先にはプレゼント、校庭を呑気に歩いている。二人はいま草むらの中にいる、典型的なバレバレの隠密行動。プレゼントに見つかるとすぐに逃げられるので、こうして身を隠し捕まえる機会をうかがっている訳だ。まぁ、はたから見たら「なにやってんねんお前ら」と言った状況なんだけど。
「さっき言ってた木ってアレか?」
「そうアレだよ、あの桜の木。あんなに葉が生い茂ってるのに、羽虫がすごく頑張ってるから毛虫いないんだよ、あの木。しかも根元には草花が、シエスタに最高」
「シエスタって……昼寝かよ」
そんな会話を繰り広げながら、徐々にプレゼントに近づいていく。まだ飛びかからない、なぜって隙がないから。どうやらプレゼントはその桜の木に向かっているらしい、二人もそれに続く。
桜の木に近づくにつれ、その木の大きさが解ってきた。大樹と呼ぶにふさわしい立派な木で、またとても美しい木でもあった。
その木の根元で、昼寝をしている人がいた。真っ白な服を着た男で、熟睡している。神がシエスタに最高と言っていたのは本当らしい。プレゼントはその人に向かっているようだ。
「あれー、プレゼントが届けられちゃうよー?」
「姫様……逃げ出したとか言ってたよな、あれ中身入ってたのか?」
「さあ……?」
とりあえず見守る事にした二人、プレゼントはぽぴぽぴ足音を立てながらその人の目の前までやってきて、膝の上に足をかけた。
瞬間、その人はプレゼントに目にも止まらぬ裏拳を食らわせた。
ぐしゃ
プレゼントは見るも無残に潰れ、クーガの足元に飛ばされてきた。はっきりと拳の後が残っているプレゼントを見つめながら、クーガは呟いた。
「……え、どう言う展開?」
「多分、睡眠妨害されたから殴ったんじゃないかな。アルちゃん寝るの大好きだから」
「アルちゃんって……あの人そんな名前なのか?」
「本名は秘密と言う事で」
なんだかよく解らない展開になった。もしかしたらプレゼントはアルちゃんに向かっていたのではなく、本当に桜の木に向かっていたのかもしれない。真実は闇の中だけれど、とりあえずプレゼントはボロボロだ。
「どうしようこれ?」
神が指差した先にあるのは、潰れたプレゼント。なんだか足がヒクヒク動いててとても怖い、まだ生きているようだが、死にかけだ。
「いや、どうしようと言われても……中身どうなってんだろうな?」
「うっわ、それめっちゃ気になる」
すると神はクーガの肩を叩き、素晴らしい笑顔を見せると、反対側の手の親指を立てて、言った。
「ア・ケ・ロ♪」
「たまには自分から行動を起こしてみようという気にはならないのか?」
「ア・ケ・ロ♪」
クーガが何を言おうと、神は同じ答えしか返さない気らしい。クーガは慣れているせいであきらめが早く、素直にプレゼントのリボンに手をかけた。リボンは簡単に解かれていき、ふたは簡単に開けるようになった。
鬼が出るか蛇が出るか、ここまで来て「人のプレゼント勝手に開けていいのかよ」といまさら言う人はいないだろう。クーガは心を決め、プレゼントを開いた。