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「待てやごらぁああああ゛!」
シーンの使いまわし。クーガはまたプレゼントと追っかけっこを始めた。何で叫んでるかは少し前のシーンをみて思い出してください。中庭は廊下と違って入り組んでいるので、クーガはそれを利用しプレゼントを追い詰めていた。
徐々に、じょじょ〜にプレゼントの距離を縮めていく。3mだったところを30cmまで縮めたのは大変な努力だと思うよ、クーガの息はとってもものすっごくすばらしく上がってるけどね。
その時だ、クーガの目の前を大きな蒼白い狼が横切った。突然の事に対処できず、クーガは全力疾走でその狼に突っ込んで行った。
「ぎゃあああああ、あぶねええぇぇ!」
ぶつかる寸前、クーガの叫びが聞こえたのか狼はクーガに視線をやったが、特に動きもしなかった。そして、クーガは狼に体当たりしてしまった。
はずだった。
スカッ
(……すか?)
クーガの思考は固まった、それなりの衝撃が体に来るであろうと思っていたのだが、衝撃どころか狼に触れた感覚さえなかった。
クーガは狼の体を突き抜け、そのまま足を引っ掛け派手に転んだ。面白いぐらいに転がっているクーガを、狼は黙って見ていた。体中に痛みを覚えながらも、クーガはその狼の事で頭がいっぱいだった。
(あの狼、体がなかったぞ。立体映像? でも動いてたよな、そんな立体映像を映すような機械ないし。明らかに意思がある動きしてるよなあれ、リアルタイムで動いてるよなあれ。そういえば体突き抜けた時になんかヒヤッてしたような気が……)
勢いが収まり、地面に転がっていたクーガは、一つの結論にたどり着いた。
「……オバケ?」
オーケイ、ジョミー、逃げるぞ! 誰だか解らない人に心の中で合図を送り、逃げようとしたクーガの背中に、聞き覚えのある声がかかった。
「あぁ、お久し振りですね。貴方もそう云う服を着て居れば、多少は正常な人間に見える」
この無駄に丁寧かつ毒の入った口調は!
「何で閻魔様がいるんだよ!?」
「閻魔様では無く、山田とでも呼んで下さい。偽名ですが」
「偽名かよ、しかも閻魔の山田って……どこかで聞いたような」
染めてるんじゃないかと思うぐらい黒い髪に黒い目を持った美少年、閻魔様とか呼ばれていたがどこが閻魔なのか。閻魔なんて言うと私的にはヤマの山田より、部下の鬼にイカとか呼ばれてる大王を思いだ……げふんげふん、この話は関係ないですな。
「閻魔様何でここに、つーか閻魔様が地上に来ていいのかよ!?」
「だから山田と呼んで下さいと言ってるじゃないですか、休暇中ですよ」
「休暇あるんだ!」
言われてみれば、山田と名乗った少年の服装はどう見ても遊んでいるようにしか見えない服装だった。水色のえりのセーラー服に同色のベレー帽、そして日傘。セーラー服と言っても女学生の着ているスカート型では無く、本来の姿であるズボン型である。
ぶっちゃけていうと、似合っていない。黒すぎる髪と白すぎる肌、そして酷く大人びた表情をしているこのマセガキは、どう見てもインドア派なので、活動的な服が似合わない。味気ない黒服でも着てればいいと思う。
山田さんは服装と合っていない、人を嘲るようないっそすがすがしい表情を浮かべ、言った。
「有るのでは無く作るんですよ、仕事を早く片付け早く片付け……捻出した時間を休暇としているんです」
事情は解らないが、大変な生活をしているらしい。そんな事を言われてしまったら、生返事ぐらいしか返せない。クーガが対応に困っていると、何の前触れもなく肩に寒気を感じた。あわてて自分の肩を見ると、そこには半透明で群青の鴉がとまっていた。肩に何かがとまっている感覚はない、得体の知れない冷たさがあるだけ。
「…………!?」
「魍、無断で人様の肩に止まっちゃだめだよ」
山田さんがそう言うと、その鴉はクーガの肩から離れ、山田さんの肩にとまった。どんなに見直しても、やはりその鴉は半透明だった。言葉を失っているクーガに、山田さんが説明を入れてくれた。
「この鴉は僕の式神ですよ、先程の狼もそれです。僕が兎や角命令しない限り無害ですから安心して下さい」
とやかく命令されたらどうなるんだろうね。そんな事を気にしているクーガに、山田が言った。
「所で、貴方はあれを追い駈けて居たんじゃないですか?」
そう言って、山田さんが指さした先には、のんびりと歩いているプレゼントが。「あ〜、あのウザイがきやっといなくなったぜ」なーんて考えてるかどうかは知らないが、意気揚揚と歩いている。
「…………また忘れてた!」
「やっぱり」
記憶障害があるとしか思えない物忘れの量である。クーガはほとんど走り駈けながら言った。
「こうしちゃいられねぇ、オレ行くから!」
「待って下さい」
追い駈ける気満々だったところにかかったストップ。危うくズッコケかけながらもクーガは立ちどまり、振り返ると、山田さんが悪戯っぽい微笑みを浮かべて言った。
「元はと言えば僕が声を掛けた事で開いた距離です、僕が少し御手伝いしましょう」
「マジで!? つーかそんな事出来るのかよ」
「いわゆる金縛りと言う奴ですよ。まぁ出来る限り止めて置きますが、動く無生物……なのかなぁ? あんな物にかけた事は無いので、実際どれ位止めて置けるかは解りませんよ?」
「全然オーケー、ぜひともやってください!」
「了解しました」
山田さんが返事を返すとほぼ同時に、草むらから半透明の大蛇が現れた。クーガはかなりビビッたが、山田さんが普通に冷静なので、多分さっき言っていたシキガミの類なのだろうと思い、警戒はしなかった。
「蛟、話は聞いてるよね?」
その蛇は山田さんの言葉を理解しているらしく、首を縦に振った。それを確認すると、クーガの方に向きなおり、薄い笑みを浮かべながら尋ねた。
「準備はいいですか?」
「おう」
プレゼントは相変わらずのんびりと歩いている。クーガは視線をプレゼントにしっかりと定め、いつでも飛びかかれる準備をした。
「じゃあ止めますよ……三、二、一」
山田さんは、特にこれと言って何かをおこなった素振りは見せなかった。しかし、変化は明らかだった。
「零」
その一声が引き金だったかのように、プレゼントはピタリと動きを止めた。それと同時にクーガはプレゼントに向かって走り出した。
プレゼントに迫るクーガ、プレゼントはまったく動かない。距離はどんどん縮まっていく、あと1m、あと50cm、10cm。
あと1cm……!
「……取った!」
クーガはプレゼントに触れた、その手はプレゼントの側面に当たり、そのまま手を握りしめた。クーガは確実にプレゼントを捕まえた、そう思った。しかし、プレゼントは掴めなかった。
驚愕を覚えながら瞬きをすると、そこにプレゼントはすでにいなかった。顔を上げると、すでにプレゼントは遥か彼方に。
クーガが掴んだプレゼントは、残像だった。