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ガツッ
「やぁやぁ遠からん者は音にも聞けぇ! ギギギ
キイイ 近くばよって目にも見よ! イイイイィィィ
イイイ われこそは名称未定高校1年F組生徒にしてぇ! イィィ
イィィ 女番長ウィクトリアなりぃ!」 イィィンン
前言撤回多いですけど撤回します、声ではなく謎の破壊音波です。スピーカーがキンキンいってセリフと同化しています、素晴らしい騒音です、しばらくキンキン音が耳から離れません。それでもなお破壊音波を発生させようとする奴がいます、生の声が上の方から響いてくるのでどうやら屋上にいるようですね。またその声は響いた。
「この度はぁ! ……あれ? マイクーどうしたー?」
今度聞こえてきた声にはキンキン声は混ざっていなかった、生の声しか聞こえてこない。屋上にいるその人はマイクをベシベシ叩いているようだが、音はまったくでない。首を傾げていると、その人の脇から赤いバンダナを頭に巻いた男が出てきて言った。
「このドアホ、壊れたのはマイクじゃなくてスピーカー、いやマイクも壊れてるかもな。お前がバカみたいに叫ぶせいで限界超えたんだよ!」
「え、マジで!?」
「マジで、オレじゃ直せねぇからな、自分で直せ!」
そう言うと男の方は引っ込んだ。ちなみにこの会話はクーガが現在いる校舎前で聞こえる会話で、何故こんな所まで会話がはっきり聞こえるのか。そんなのは屋上の上にいる二人の声がでかすぎる事以外原因は何もないのだが、とりあえずよく聞こえる。
そのため呆れる、とても呆れる。クーガは、母とか関係ないけど三千里離れた場所を見ているようなとても遠い目をしている。神でさえも(おいおい何やってんだよオタンコナス……)とか言いたそうな顔で見ている。
そんな二人の様子など知ったこっちゃない上で叫んでいる人は、またマイクを持って叫び始めた。
「この度ぃ! 皆にお願いがある!」
ちなみにマイクを手に持って叫んでいるが、マイクの電源は入っていない、それでも声はハッキリと聞こえてきた。これじゃあ文化祭とかの出し物にある若者の主張とか、その手の類の物にしか見えない。
「実はぁ! 先ほど私が造っていた物が逃げ出したぁ! よってぇ! それを捕まえて頂きたい! 名前は≪オマエのハート、勝手に届けちゃうZE☆君“プロトタイプ”≫だっ! 見た目は名前の通り歩くプレゼント! 赤いリボンが目印の白くて可愛い奴だぁ! 捕まえてくれた奴には! 特に褒美なしっ! 奮って捕まえてくれ!
以上!」
演説が終わったのか、屋上からの叫びは終わり、上の人はどこかへと消えた。演説のあいだ中、二人はただ聞く事しか出来なかった。そして、やっと神が唇を開いた。
「うん……ツッコミどころが多すぎて、もうツッコめねぇ……」
神の言葉を静かに聞いていたクーガだったが、突然叫んだ。
「……今の姫様じゃねぇか!!」
「いまさら気づいたよこの子!」
「ひ、姫様がここに……何で、何でこんなところに、しかも女番長!?」
姫様が演説をしているときは至って冷静だったくせに、演説が終わってからあわてだすアホ。ツッコミとは、たまにすさまじいボケをかます者である(←信じないように)、その場合普段のボケがつっこまざるおえなくなる。
なんてボケとツッコミの解説をのせている間に、クーガ君はますます混乱していきます、よしもっとパニクれ、ギリシアの神様パンが傍でへばり付いて見守ってるぞ。
「こんなパラレルワールドに姫様が、何で姫様? あと隣にいた男誰だよ、普通に話してたけど、一国の姫君と同等の立場で会話してるんだよ、誰だよあいつ!? あ、もしかしてあれか、ここはパラレルワールドだから同じ顔した人間がいたりするのか」
「残念、フツーに同一人物だよ」
「やっぱりそうかよ畜生!」
そう叫んで、地面に拳を叩きつけた時だった。
ぽぴぽぴぽぴぽぴ
なんかが、目の前を走っていった、変な足音を立てながら。クーガは地面に顔を向けていたため姿は確認しなかったが、神がその姿をはっきりと確認した。
それは、プレゼントだった。白い箱に赤いリボンが結んである、やけに派手なリボンが風に吹かれ揺れていた。そして、そのプレゼントは歩いていた、二本の足でしっかりと。詳しくは挿絵をご覧ください、と言いたいところですが挿絵がないので、脳内イメージでお願いします。
そのプレゼントが校舎に入っていく光景を眺めながら、神は呟いた。
「かわいくねー……」
人間の足を写実的に写した足から出るとは思えない、怪しい足音のまま、そのプレゼント(?)は昇降口をくぐり、校舎の中へと入って行った。
プレゼントが校舎の中へ入ったあと、クーガが感情の読み取れない声で尋ねた。
「……今さっき、姫様の言ってたプレゼントが、校舎の中に入って行ったよな?」
「入って行ったねぇ」
神が返事を返すと、クーガは立ち上がり、唐突に走り出した。向かう先は昇降口。神様完全に置き去りにされてる。
「ちょ、おまっ!」
「姫様の勅命だ、あれを捕まえるぞ!」
一応振り返ったクーガに向かい、神は聞いた。
「なんでわざわざ捕まえるんだよ、特に褒美なしって姫さまも言ってたじゃん!」
「伊達に≪ Sir.Kuga≫の称号は受けてねぇ!」
「日本語に直すと≪騎士,久我≫って、ダッセェなおい! いつそんな設定出来たんだよ!?」
「今さっき!」
「さっきかよ! ……って置いてくな!」
その言葉を言い終わるかどうかと言う所で、クーガは全力で走り出した。一応体は鍛えているので、それなりに速い。クーガの姿はあっという間に校舎の中に消えた。
一人とり残された神は、クーガに向かって手を伸ばしたが、届くわけもなく。
――伸ばされた手が、嫌に虚しかった。