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神がクーガを引きずっていった先は、いかにも購買所だった。物がごった返しており、何でもとりそろっていますよ、とか言いそうな店。クーガより年は少し下だろうか、学生らしき中国人の少年が店番をしていた。
「Welcome.」
学校名が日本語の学校にいる癖になぜか英語をしゃべる学生、しかも中国人、わけわからん。気が抜けている、なおかつやる気のない英語を喋った店番に対し、神はハイテンションな日本語で商品を注文した。
「ヘイ、王 江!制服男女サイズ適当プリーズ!」
訂正しよう、こいつはハイテンションな人ではなく不審者だ。英語に対し堂々と日本語で答える方もあれだが、そのまま英語で話す方も凄い、現実でやってる人は見た事がない。間違っているかもしれない英訳付いてます。
「|Please correctly.《正確に言ってくれよ》」
「えーっと……SMチックなサイズ!」
「|Don't joke.《冗談言うな》」
「うん、普通に男子Mと女子Sね!」
「Sure.」
まるで友達同士のようにテンポよく進んでいく会話、この二人は初対面です。英語と日本語での会話、不思議空間ですね、英語拙くてごめんなさい。店番の中国人は、店の奥の方から制服を二着取り出すと、それをカウンターに置いてレジを動かした。
「|10,000¥ with taxes included.《一万円、税込みだよ》」
レジに表示された零がやけに多い数字、神は天使のような笑顔を浮かべた。
「よし、クーガ払え」
「払うのオレかよ、金なんか持ってねぇよ!」
「私もない」
「お前一文無しなのに制服買おうとしてたのかよ!」
クーガの話を聞いているのかいないのか、多分ろくに聞いてない。神は店番に向き直り、クーガを指さしながら言った。
「ヘイ、王 江。こいつの着てる鎧と交換じゃだめか?」
「 |I think……OK!《まぁ……いいんじゃね!》」
「よし、交換だ!」
「お前ら勝手に何決めて……っちょ、待て、何する気だ、やめろ!」
うわああああああ…………
「わーい、制服だー♪」
「制服だなぁ……」
どこでいつ着替えたのかはナチュラルに省略するとして、二人は制服に着替えた。普通のブレザーの制服で、男女共にネクタイ、ひねりナッシング。
「本当に制服だなぁ……」
二人は一応同じ方向に向かって歩いているのだが、それにしてはテンションの差がありすぎる。チョウチョなんか追っかけそうな勢いでとても楽しそうな神に対し、釣りあげてから丘に一週間放置した魚でもここまで死んだ目はしてないんじゃないだろうかと思える目のクーガ。向かう先は天国か地獄かも解らないほど大変な差である。
「なんだよ、元気ないな」
「身ぐるみ剥がれて元気な人間が何処にいる!?」
ごもっとも。
「なんだよー、剣は残しといてやったじゃないかぁ」
「剣自体はどこぞの邪竜に向かって投げ飛ばしたまま放置だから鞘しか残ってねぇよ!」
クーガの言い分はごもっともである。制服にこれっぽちも似つかわしくない鞘がベルトに差してあるのだけれど、剣がないと寂しすぎる。ちなみに鞘自体に特殊効果はない、武器にすればただの鈍器だ。
「あー……あれだよ、制服にあってるから」
「オレが制服着たらもの凄く普通人だろ、主人公らしさのカケラもねぇ!」
「あれだあれ、ギャルゲーの主人公みたい」
「ギャルゲーなんかやった事あるのかよ!?」
「いや無いけど」
「なんの根拠もなしに人を貶めるな!」
「何言ってんだよ、ギャルゲーって言うのはだな、無個性の男が周囲の可愛いぃ〜女の子に不自然にモテまくるゲームのはずだぞ、それでその中から一人もしくは複数人を口説く、適切な答えを返せばほぼ確実に落とせるんだぞ。現実にあり得たらパラダイスじゃないか」
「現実にそんな事をしていたら、他の男たちからひんしゅく買いまくるよ、あと主観入りすぎ」
「この小説は、
や 山無し
お 落ち無し
い 意味無し
つまりやおいだ!」
「いきなりなに脈絡のないセリフ吐いてんだお前、大嘘ついてんじゃねぇ、いやお前の言った通りの意味で取るなら別だが。無意味に長いセリフ吐きやがって!」
二人はこの会話中ずっと歩いていて、校舎の目の前まで来た。クーガのツッコミばかりの続く、テンポの良い会話をしながら進んでいた所に、突然声が聞こえた。