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戦闘士クーガ  作者: 狂狗
半生霊クーガ
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 意識が戻ると、邪竜と閻魔様は世間話に講じていた。

 「成る程、そう言う内訳ですか。つまり、竜王さんの謀は巧く行ったと」

 「やめておくんなはれ。はかりごとなんて、そんな大層なもんやないで?」

 「いいえ、流石あの『ひきこもり』と言われた竜王だけあって、自分の世界の事は良く解っているな、と」

 「……言わんといて」

 どうやらオレが気絶している間に肝心な事を話していたらしい、おのれ邪竜。とりあえず起き上がる。

 「あ、起きたか。おはようさん」

 邪竜の笑顔にイラッと来たオレは、もう一度こいつに掴みかかってやろうと思ったのだが、閻魔様が杖を持ち直したのでやめた。

 「お元気そうですね、久我さん」

 「エエ、オゲンキデスヨ」

 嫌みったらしく棒読みで返事をしたのだが、閻魔様はアルカイックスマイルを浮かべただけだった。この人の肝の据わりようが恐ろしい。何事もなかったかのように、閻魔様はオレの手に何だか良く解らない物を置いた。

 「はい、どうぞ」

 「どうぞって……これ何?」

 閻魔様がオレの手に乗せた物は、何やら不気味な懐中時計だ。三日月のような紋章の上に、絡み合った二匹の蛇の紋様が蓋に彫られており、銀製にもかかわらず黒光りしている、黒銀とでも呼ぶべきか。それは大きさの割りに、ズシリと異様に重かった。

 「不気味な懐中時計だな……」

 「姫様からのアフターケアですよ」

 「姫様からぁ!?」

 何故ここで姫様の名前が出てくるのか、そう言えばオレを助けたのは姫様だったか。それにしたって、何故この懐中時計が出てくるのかが解らない。こういう曰く付きっぽい品物に良い思いではないので、出来たらすぐにでも手放したいのだが、姫様からと言われたら捨てる訳にもいかない。これは何なのかと悩んでいると、邪竜の声が聞こえた。

 「な、なんてもん持ち出してくるんや……!」

 邪竜を見ると、理由は解らないが、凄い驚いた表情をしている。いやむしろこの時計を怖がっているような雰囲気だ。それをなだめるかのような優しい口調で、閻魔様が懐中時計の説明を始めた。

 「この懐中時計は、とある時の神様の持ち物の模造品(レプリカ)なんですよ。ですから安心して下さいね、竜王さん」

 「なんや……そういう事かいな、てっきり姫さんが勝手に強奪したのかと」

 「模造品(レプリカ)を造るのは勝手にやったみたいですよ」

 「あかんやないか」

 「ですよねー」

 この二人はさっきから自分達にしか解らない会話ばかりだ、オレだけ除け者。閻魔様の説明はまだ続いた。

 「これの本来の役目は、貴方の時間を止める時に使われたので、使い物にならないのですが、別件でまだ使えるんです。この時計は、貴方があの世に居られる残り時間を示します。時計が読めないかもしれませんが、時計を持っていれば十分です、時間が来れば自動的に生き返ります。体感時間で二十四時間過ごして下さい、方法は問いません。別にここで二十四時間過ごしても良いですけれど、折角ですからあの世も見て来ると良いでしょう。貴方の判断に任せますが」

 何だか凄いアバウトだな、あの世って。それにしてもあの世へ行けるのか、こんな変なお茶屋さんみたいな所ではなく、ちゃんとしたあの世へ。

 「まぁ……行けるなら行ってみたい気はする」

 生き返ると保証されているのだ、そりゃ逝ってみるしかないだろう。オレが承諾したのを聞くと、閻魔様はすぐに次の選択を出した。

 「では地獄か天国か、どちらが良いですか?」

 とんでもない選択だった。

 「選ぶのかよ!」

 「選びますよ、どうぞお好きに」

 “てってー、てれれれ、てってーてれれれ、てってーてれれれれ、てれれれれれれれ”

 (今までずっと静かにしてたのに、何でいきなり天国と地獄!?)

 “いや……名は体を表すというし”

 (言葉の使い方を間違ってる!)

 なんと言う展開だ。地獄か天国か選べって、こんな質問が来るとは思わなかった、さあどうする……?

 「天国を選ぶに決まってるじゃねぇか!」

 「では白い扉へ」

 閻魔様の一言で、巨大な白い門がひとりでに開いた。オレのすぐ傍にずっとあったの覚えてたか? 門の中からは白い光が差し込んできて、中の様子は伺い知れない。

 「……こんな簡単にあの世に逝けるとは」

 “本当に簡単だねぇ〜”

 本当に拍子抜けだ、事がサクサク進みすぎてるだろう、しかも一日で帰れるとなればなおさらの事である。なんてお手軽な。

 改めて振り返れば、背後には黒い二人。閻魔様はめんどくさそうな顔をして立って居て、邪竜はいい笑顔を浮かべて立っていた。

 「じゃあ……逝くぞ?」

 「逝ってらっしゃい」「気ぃ付けてな」

 出かける子供を見送るかのように軽い調子で見送ってくれる二人だが、きっとこの二人とはもう二度と会えないんだろう。そう考えると、何だか悲しくなってきた。オレは二人になんと言い返すべきか少し悩んで、結局一番簡単な言葉を返した。



 「いってきます」


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