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「貴方の住んでいた世界は、既に無くなりました」
……は? 世界が、無くなった?
思考が止まった、閻魔様の言った言葉が理解できなかった。世界が無くなったとはどういう事か、閻魔様が何を告げたのか解らない。いや、解ろうとしていないのか。淡々とした口調で説明は続けられた。
「貴方が殺めた存在、その人は貴方の世界の神だったんですよ。貴方のいた世界は、もう何時がたが来てもおかしくない、そんな状態でした。その状態で楔でもある神が死ねば、世界はバラバラになって消えてしまいます。言ってしまえば、神を殺した貴方が世界を壊した事になりますね」
その言葉に、体が固まった。その原因に、思考が凍った。その事実に、心が止まった。現状がやっと理解できたオレは何も言えなかった。嘘だと思いたかったが、閻魔様はそのような素振りはちらとも見せず、こちらを見つめている。
一体どれの事だ? 今までオレはたくさんの命を葬ってきた、たとえその理由が正義だとしても、オレは地獄へ落ちるのではないかと考えていた。しかし、こんな状況は考えた事もなかった。オレのせいで世界が壊れるなんて。オレの世界は既に無い、オレの世界はオレが壊した。そんな訳あるか、何の冗談だ、これは夢か。
混乱の最中、声が聞こえた。
「そう気にせんといておくんなはれ、クーガはん」
思考が今までと違う意味で固まった。背後からとても聞き覚えのある声が聞こえた、そして何か固い物で軽く肩を叩かれた。声を聞いただけでそいつが誰かわかった。ああそうだとも、この変な喋り方といいよく覚えている、忘れようがない。理由は解らないが、何故だか心の奥底に喜びと怒りが湧き出して来た。それと同時に大きな混乱がオレの思考を乱し、感情に任せるがまま、オレは振り向きざまに背後にいるそいつに向かって叫んだ。
「邪竜かよ!」
その言葉に対して、邪竜は困った顔をしていた。どう反応するか悩んだらしい。
……オレ、なんか間違えた。邪竜かよ! って何だよその言いかた、普通こんな感じのシーンなら、感動の再会かなんかだろ。いかん、やり直したい。うっかり突っ込んでしまった。
「いきなりなんや」
オレの間違った突っ込みに対して、とりあえずと言った感じで、冷静な突っ込みを返された、間違いない邪竜だ。何処からどう見ても邪竜だ、誰が何と言おうと邪竜だ、三百六十度の何処から見ても邪竜で間違いない。相変わらず角はキラキラで体は真っ黒、爪はやっぱり長くてでかい。とりあえず邪竜が目の前にいる訳だが、思考は余計に混乱したままである。もうわけわかめと言いたい状況だコノヤロー。混乱しすぎたオレは、気づけば思いついたままの言葉を叫んでいた。
「何でここにいるんだよ、つーかそんな爪で人の肩を叩くな!」
「ワイも死んだからに決まってるやないか、あとワイの爪は何も切れやせんで!」
「そんなナリで切れねぇのかよ! あといつの間に後ろに立った!?」
「切れんモンは切れへん! 忍び足で後ろに立ったのは今さっきや!」
「やっぱりお前なんか邪竜じゃねぇ!」
「せやから邪竜とちゃうってゆーとるやろ!?」
……一通り言いたい事は言い終わった。気づいたら立ち上がって叫んでたよ、どれだけはっちゃけてるんだよ、オレ。喜んでるのか怒ってるのか、自分でもわからねぇ。
“そうだね、そろそろ冷静になろうか”
あーはいはい、お前に言われるまでもないよ。