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投票当日。


「なんだか、あっという間でしたけど。今日で決まるんですね」

「ん。肌がずいぶん焼けた気がする」


テンシーは大半の時間を弓矢の練習にあてていたので、

結局、勝負に関してはそこまでの進展がないまま、投票の日を迎えてしまった。


「待ってたわ。当然私が勝つのは決まっているけどね」


エーナインは自信満々な様子。どこから自信がきているのだろうか。


「投票結果を集計いたします。少々お待ち下さい」


結果が出るのを固唾を呑んで待っていた。


「勝者は・・・」

「勝者は?」


「テンシー様です!!!!!!!!!!!」

「や、やったーーーー!!!」

「な、なんですって!」


得票割合は3:7でテンシーの勝利となっていた。


「そんなのおかしいわ。みせなさい!」


そういって、エーナインは名前が書かれた紙を確認していくが、明らかにテンシーと書かれた紙が多いことに気づく。


「どうやら、うまくいったようだな」

「狩人ジジイ。あなたがなにかしてくれたの」

「大したことはしていないさ。これまで世話してやったやつらに頼んだだけだ」


何か、後ろで根回しをしてくれていたらしい。


「そんなのずるよ!」

「ズルって。言霊を使えるあなたのほうがよっぽどズルじゃないですか」


リブラが、憤慨するエーナインに対してたしなめるようにいう。


「私だって頑張ったのに!」


そういって、めちゃくちゃな政策について、自分を正当化するようにつらつらと自分のやったことに関して話し始めた。


「そうだった!私には言霊があったわ。こうなったら、市民全員をけしかけてやる!」


自棄になって暴動を起こそうとしているエーナイン。


「エーナイン、それは駄目」

「くっ」


テンシーが極寒にいると錯覚するほど冷えた表情でエーナインに語りかける。


「どんなにエーナインがやらかしたところで関係ないし、自由にするといい。けど、その一線を超えたときの覚悟はしてもらう」


テンシーの目は姉に向けるものではなかった。その様子の変わりように、リブラも驚く。


「ご、ごめん、テンシー」


そして意外にも、あっさりとエーナインは謝った。いつものとげとげしい雰囲気はなく、しゅんとしていた。


「なんだか、ずいぶんとしおらしくなりましたね」


エーナインの様子の変わりように驚くリブラ。下を向いて黙ってしまい、借りてきた猫のような大人しさだった。


「テンシーさんが言霊を使ったんでしょうか」

「いや、そんなものは使ってねえな」


狩人ジジイがエーナインとテンシーの様子を見ながら話す。


「あれは、単純に力関係の問題だろう」

「えっ、テンシーさんの方がエーナインさんよりも強いということですか?エーナインさんはあんな強いのに」

「単純な覚悟の差だろう。本気でやり合う覚悟がテンシーの方が上回っていた。エーナインはテンシーとやり合いたくはないんだろうさ」

「たしかに、エーナインさんはテンシーさんと一緒にいたい気持ちが強いんですもんね」

「そう考えると、可愛いところがあるもんだ」

「そこで折れてもらっては困るんですがね」


そういって、ルーラーが現れて、今日初めて口を開く。


「正直、エーナイン様にはがっかりいたしました。これほどまでに人望がないとはね」

「な、なんですって」

「まあ実のところ、そこに期待は一切しておりませんでしたが。こうなってしまった以上、こちらの都合で動かせてもらいます」


そういって、ルーラーの私兵が周りを取り囲む。


「テンシーさん、この状況はまずいですよ。言霊でなんとかならないんでしょうか」

「使えばなんとかなる。けど、使えない」

「え?使えないんですか。でも広場で」

「言霊は、文字通り言葉に霊を宿すこと。信念を持っていることが必要になる。私の言霊は強力である代わりに私的な理由で用いることができないように縛っている」

「そんな、じゃあ」

「今は捕まるしかない」



意気消沈したエーナインと一緒に、テンシー、リブラは捕らえられ、縄で縛られた。


「こっちでもなんとかする。少しの間耐えてくれ」


そういって、狩人ジジイは走って逃げた。

権力が一枚岩ではないのか、ルーラーも狩人ジジイを捕らえるのは難しいらしい。逃げた彼を追うことはなかった。


そうして、3人は目隠しをされた状態で街の外れに連行される。


「すぐに裁判にかけて死刑にして差し上げます。ここでおとなしくしていてください」

「こんなところに牢屋があっただなんて」


地下の奥深くの明かりもなく真っ暗な牢屋に連れてこられた。

そこは非常に狭くジメジメとしており、とても人が過ごせる環境ではなかった。


牢屋に入れられたあと、何人かの牢屋番をおいた後ルーラーは去っていった。三人にとって、暗い場所は問題なかったので、さほど取り乱すことなく牢屋で過ごすことになった。


「やだ。ここかび臭ーい」

「なんか、随分子供っぽくなってませんか。エーナインさん」

「あれが彼女の素。甘えたがり」


最初の印象と違う、とげがなくなった様子のエーナインであった。


「エーナインは変に張り切るより、あんな感じのほうが向いてる」

「あーあ。うまく行かなかったわ。あなた、リブラだったわね。テンシーをお世話していたみたいね。私の部下にしてあげるわ」

「あの、全然反省してなさそうですけど」

「それも彼女の特徴」


落ち込んでいたとおもったら、あっさりと立ち戻って調子に乗る。その単純さが、今の閉じ込められてふさぎ込みやすい中では気楽な気持ちにさせてくれる。


「それで、リブラはなんでテンシーと一緒にいたの?」


元気を取り戻したエーナインが、テンシーとの関係を聞いてきたので、リブラは自分の過去をエーナインにも話した。


「ぐすッ。大変だったわね」


結果として、涙と鼻水を垂らした状態で、同情し感動するエーナインがいた。


「よし!私があの憎きルーラーを退治してあげるわ」

「私がいうのもなんですが、単純すぎませんか」

「それもエーナインの特徴。さて、じゃあ外に出ますか」

「え。出られるんですか」

「エーナイン。お願い」

「ええ、任せなさい」


そういうと、エーナインは人差し指を立てる。指が真っ赤に染まっていた。そのまま閉じ込められた牢屋の鉄格子に対して、指で円を描いたかと思うと、指が触れた部分の鉄格子が煙をあげながら溶け落ちて穴があいた。


「こんなものじゃあ私を閉じ込めることなんてできないわ」

「あつ、熱い!!」

「危ないからこっちに向けないで」


エーナインは赤く染まった指を使って決めポーズをしていたが、リブラは熱気に耐えられず声をだし、テンシーが軽くあしらう。


「な、何をしている!」


牢屋から抜け出したことに気づいた牢屋番がこちらにかけよってくる。エーナインは指をふーふーして冷ましながら、手刀であっさりと相手の意識を奪い去った。


「エーナインさんはこんなに強かったんですね」

「まあね。私はエースナンバーのAの名を持つ通り、戦闘兵器としての役割もあるからね。燃料の問題があるけど、この街くらいなら一人で滅ぼせるわよ」

「そんな。ならなんでわざわざ捕まるようなことをしたんですか」

「エーナインは加減が苦手だから、周りに人がたくさん居る状態で殺さずに対応することが難しい」

「そうなのよね。皆殺しにするわけにもいかないし」

「エーナインさんは大勢と戦うのが向いているんですね」


規格外のエーナインの力を知ったあと、牢屋から出ていく。


「街にこんな場所があったなんて知りませんでした」

「だいぶ歩かされたからね。街外れなんでしょ。どうやら、ここは遺跡みたいね」


歩いていると、エーナインが言ったとおりここは過去の文明の遺物が残っているようだった。光が差し込むこともなく暗い地下ではあるが、暗いところであろうが暗視のあるテンシーとエーナイン、もともと目が見えないリブラの3人なので、何の問題もなかった。


「なにか、足にあたりましたね」


そういって、リブラは足元に転がる部品のようなものを拾い上げる。


「こら。なにがあるかわからないんだから、そんなかんたんに拾わないの」

「ごめんなさい」


戦闘や探索ごとに関しては知識もあり指導する力もあるエーナイン。今も、しっかりと注意をして罠を解除しており非常に頼りになった。


「エーナインさんは何故、街を治めたりすることにこだわっていたんですか。こういったことのほうが向いていると思うんですが」

「だって多くの人に影響を与えられないじゃない」

「そんなことないと思いますけど」


どうやら、エーナインはできるできないというよりは、自分がやりたいことをやろうとしているようだった。


「ちなみに、拾ったのはなんだったの」

「なにかのパーツだったみたいですね。もうスクラップですけど。同じようなものがあちらの部屋にあります」

「リブラは人だけでなくモノの魂も見れるの?」

「見えるものと見えないものがありますね。なにかしらのエネルギーを持っていたりすると見えやすいです。せっかくだし、そのスクラップの山も見てみませんか。なにか使えるものがあるかもしれません」


そういって、テンシーとリブラはスクラップのあるところに向かった。エーナインは何故か気が進まない様子ではあったが、否定する要素があるわけでもなかったので渋々一緒に向かった。


「これは、機械というよりは、人型の機械のパーツ?」

「そうみたい。エーナインはわかる?」

「どうかしら。わからないわね。さあ、これ以外なにもないし、早く外に出ましょう」

「?」


エーナインはこういったことの知識は無駄に詳しく、知らないときにはきっちりと調べようとする性質なので、テンシーは違和感を感じた。

「それにしても、全く見たことのないもので精密なものなので、過去の文明のものでしょうか。どうやら祀られていたものが多いですね。あら、こちらに像がありますよ」

「…!」


そういって、リブラが指差した先に、無傷のまま残る像があった。


「この像、テンシーさんに似てませんか?」

「言われてみれば。でも、瓜二つというわけでもない」

「そりゃそうよ」


顔はそっくりだが、服装はテンシーが着たことのないものであった。


「エーナインさんはなにかご存知でしょうか」

「わからないわね。まあ、そんなことはどうでもいいじゃない」

「えっ。そうですか」


明らかになにか知っている反応ではあったが、本人が話したくない以上、掘り下げはしなかった。


そういって、スクラップの山をあとにした。

その後、あっさりと外にでることができ、そこは平野が広がっていた。


「やはりでてきましたか。閉じ込められたままだとは思っておりませんでしたが」

「ルーラー!」


外に出てみると、大きな人型の機械から、ルーラーの声がした。

明日で終わります。

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