第10話
「おにぃ、玄関で倒れ込んでなにしてんの……」
俺が涙をふいて、座り込んでいると妹の――真理が声をかけてきた。
「あぁすまん……ちょっとな……」
「なんかあったの?」
「い、いや……なんでもない、、、、」
「あーもう、おにぃさぁ……そういうのいいから」
真理がそう言った。
「そういうのいいって……どういうことだよ?」
「だっておにぃ泣いてたじゃん」
「…………え?」
見られてたのか?
「泣くのに理由がない人なんていないから。――でなにがあったの?」
「はぁ……なんでもお見通しってわけか……。」
「私がおにぃのことで気がつかないわけないじゃん」
そう言って笑みを浮かべる真理。ホントこいつには昔から、かなわないな……。
「俺さ彼女いたろ?……」
「あーうん。いたね……。香苗ちゃんだっけ?」
「そう香苗……その香苗と別れた……」
「ふーん。理由は?」
「え?」
「いやだから、別れた理由だよ。そこまで教えてくれたんだからおしえてよ」
「うわ、き……浮気された……」
実の妹にこんなことを話すのは……少し変な気分だ。
真理は少し驚いたような顔をしたがすぐにまた笑顔になった。
「そっか……浮気か……それでおにぃは泣いてたんだ?」
「そうだな……。笑えるよな?」
俺は真理にそう言った。――真理の返事は俺の予想外のものだった。
「いいじゃんおにぃ。青春してる。彼女に浮気されて悔しくて泣く。最高に青春してるじゃん」
座り込んでる俺の前に真理も座った。
「青春ってお前なぁ……」
「でもさ……泣いてたって始まらないよ。浮気されて悔しくても前に進まなきゃ。大丈夫だよ。おにぃならね。」
なにが大丈夫なのかは分からない……でもどうしてだろう……少し安心するのは……。
「その根拠はどこにあるんだ……?」
俺は顔を上げて真理の目を見て問いかけた。やっぱりまだ笑っていた。
「だって……琴吹星矢は、私――琴吹真理のお兄ちゃんなんだから」
真理はそう言った。
何故かはわからないが、俺はそれを聞いた瞬間堪えていた涙が溢れでてしまった。
 




