ブラック企業から転職してきた彼は不死身でした。
我が社に転職してきた彼が以前勤めていたのは、いわゆるブラック企業だったのだという。
「結局、公の機関に刺されて潰れてしまいました。そのおかげで僕も今こうしてここにいられるわけですが」
歓迎会の席で隣同士になった俺に、彼はそう語った。
「へえ。うちもたいがい激務だけど、前の会社そんな酷かったんだ」
「一ヶ月以上自宅に帰れないとか、ざらでした。職場が何かもう臭くて」
「うわヤバいね……」
「みんな呻き声あげながら仕事してましたし、歩く時もふらっふらで」
「まあ、そんな感じにもなるよな」
俺もたまにデスマーチの最中に呻いたり吠えたりしたくなることがある。
「ええ本当に……人によっては立ってられずに這いずって動いてましたし」
「嘘でしょ、まるでゾンビじゃん」
俄かには信じられないが、それと比べればうちの会社はまだマシな方なのか。
「もう訳わかんなくなってましたよね。機関が会社に突入してきた時も、社員総出で妨害しに向かっていきましたから」
「だ、大丈夫なのかよ、そんなことして。いや大丈夫じゃないから会社潰れたんだろうけど、君らも無事じゃ済まないだろ。ていうか……え、突入?」
「向こうも殺す気で来てますから、もう戦争ですよ。銃でばかすか撃ってきて」
「は?」
「言ってもうちらだって頭を銃撃されない限りは割と平気ですからね」
「ん?」
「腕飛ばされても腹もがれても、足が動けば噛みつきに行けます」
「ヘッドショットしか効かないの? まんまゾンビじゃん」
「噛みつき成功すれば、ワンチャン相手をこっちの仲間に引き込めますし」
「感染してんなそれ。ゾンビじゃん、確実に。そもそも職場が臭かったのも、みんなゾンビだったからだよな? 腐ってたからだよな?」
「最初はどんな職場でも腐らず仕事に取り組もうって前向きに考えてたんですけど、正直、最後の方は腐ってましたよね」
「いやメンタル的なこと言ってんじゃなくて。肉体が腐敗してたんだろって」
「お、先輩ウマい」
「何が!?」
酒の席でもなお血色の悪い(むしろ土気色の)彼の横顔を見やる。
首から上を防御すれば実質不死身ということらしい。
我が社は武力紛争地域へ人員を派遣する民間軍事会社――彼のような人材は現場で重宝されるだろう。ゾンビすら使役する我が社こそ究極のブラック企業じゃなかろうかという思いを、俺はビールと共に飲み下した。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:ブラック企業






