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2・レイ 見慣れない執事の姿に困惑する

 酷い胸騒ぎがした。


 まさか、あのホルストに限って何かあったとは思わないが……


 それにしても遅すぎる。


 万が一は無いとは思うが、逆に地形を変えるとか空に穴を開けるとか……常識を歪めるようなド派手なことをやらかしてないと良いけど……

 


「レイ様、私のことを考えて下さっていましたね」


「わひゃぁっ!?」



 突然、気配無く背後に立たれ素っ頓狂な声を上げてしまう。



「ホ、ホル、スト……だ、だから、お前はそうやって突然現れるのはやめろと言ってるだろ!」


「執事の嗜み故」


「言ってる意味はよくわからないけど、譲る気が無いことだけはよく伝わってくるよ」


「ご理解頂けて幸いです」



 主人は私のはずなのに、どうにもホルストの方が一枚も二枚も上手で良いようにあしらわれている気がしてならない。いや、実際ホルストの方がやり手なのは確かだけどさ。



「それでホルスト」


「なんでございましょうか? あ、間もなく昼食のお時間でしたね。今から腕によりをかけて……」


「そうじゃなくて! その、件の侵入者の件だけど。お前が何事も無く戻って来たということは、大きな問題は無かったということで良いんだな?」


「ああ、ご報告が遅れて申し訳ございません。その件ですが……」



 ん? ホルストにしては珍しい。


 何か異変があった際の報告は、事後でも必ずあるのに。


 しかも、今のは忘れていたと言うよりも、あえて触れるのを嫌がった感じにも見えたが。



「何かあったのか?」


「……ええ、非情に残念ですが消しそびれてしまいました」


「いや、そんな物騒なことを苦虫噛み潰したみたいに言われても困るんだが……え? まさかお前ほどの達人でも手に負えなかったということか?」


「いえ、そうではありません……」


「そう、だよな。そんな事態だったら、優雅に昼食の準備とか言ってられないもんな。じゃあ、いったい何があったんだ?」



 ギシギシと重低音な歯ぎしりが聞こえてくる。


 ここまで不愉快そうなホルストはかつて見たことが無い。


 いったい何があったと言うのか。



「レイ様、嫌なら嫌としっかりと言って下さい」


「何の話だ?」


「本当に身を切る思いなんです」


「だから何がだ?」


「私、嫌なのです……」


「……だから、何のこと?」



 こんなに要領を得ないホルストは本当に見たことが無いのだが……



「レイ様」


「うん、なんだい?」


「メイド志望の小娘が一匹来ておりますが、断りましょう首にしましょう」


「メイド志望? 私の元にか?」



 ん~……自分で言うのも何だが、私は子爵家から見捨てられた存在だ。


 そんなところでわざわざ働きたいとか何の酔狂だ?


 それにホルストがこれほど渋るということは弟絡みか?


 いや、もしそうであるのなら、ホルストは有無を言わさずに葬っているはずだ。


 何か問題がありそうなメイド志望なのか?


 やけに荒々しいとか、傭兵が裸足で逃げ出すような屈強なタイプとか、明らかに人間性に問題がありそうとか…… 


 ……どれもこれもホルストが門前払いするよなぁ。



「ホルスト」


「何でしょうかレイ様」


「正直に答えろ。お前がそんなに拒む理由はなんだ?」


「別に拒んでいる訳では無いと申しましょうか……」


「言い方を変えよう。そいつに何か問題でもありそうなのか?」


「それも無いと思われます……まぁ、私には興味はありませんが、世間一般的には美人の部類に入る顔立ちでしょう」


「ほう」


「――」


 私が小さな感嘆を上げると、ホルストの瞳に暗澹たる光が宿る。


 え? いま私、何かおかしなことを言ったか?



「やはり、始末をしておくべきか」


「お、落ち着けホルスト。相手に特段問題が無いのなら無闇な殺生をするんじゃない!」


「問題だらけです……この数年、無菌になるように仕向けてきたというのに、ここで悪い虫がレイ様に付きでもしたら……」


「ほるすと? お前、何をブツブツ言ってるんだ?」


「はっ! とにも、もし少しでも不快に思うようでしたら即刻解雇ということで」


「わかったわかった。お前がそこまで言うのなら、取り敢えずそのメイド志望の娘とまず面接をさせて貰った後に考えるとしよう」



 いったい、その娘の何がそこまでホルストを悩ませるのか。


 ……聞かない方が良さそうだ。


 私は訳の分からない疲労感に包まれながら――



「お、おひさ……初めまして、レイ・ルーデリア様! 私、ル、ルミエーラ・カーヴェルともも申します! どど、どうかおおぉお側でお仕えさせて下さい!!」



 元気いっぱいに挨拶するルミエーラという少女と出会ったのであった。

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