4・レイ 二人の執事
追放された貴族とは言え仕事はある。
メインは茶の選定だが、その他にもお情け程度の領地を管理する仕事だ。
民からの陳情を聞いて処理するのだが、実際この町と言うか村はとても平和だ。
馬車で村の様子を観察してみたが……
これは本当に何も起こりようがない村だ。
何せ皆が顔見知り、親戚レベルの付き合い。そして、年寄りばかりだった。
一言で言うと限界集落。
そんな村らしく、車窓から流れ見える景色はどこまでも長閑だ。
隠棲みたいな生活をするには早過ぎるけど、私のような性格には向いているのかもしれない。
だけど、そう思えるのは私だからだ。
こんな何も無い田舎にルミエーラが来て五日が過ぎた。
まだまだ年端のいかない少女。遊びたい盛りだろうし、裕福な出を考えればもっと華やかな生活をしたいんじゃないのか? 正直、すぐに逃げ帰ると思っていた。
だけど、仕事や環境の変化に馴染まないかと思ったが、意外なほど仕事を早く覚えていた。
と言うよりも、異様なほどにそつが無い。
う~ん、私の記憶と照らし合わせても彼女は間違い無くお嬢様だ。
確かに貴族と商人という違いはあるかも知れないが、それにしても掃除の一つ一つや気遣いが堂に入ってる。
淑女の作法で身に付けたと言うよりも、長年の経験から気遣いの出来る腕の良い執事と言った感じだ。
実家であまり良い扱いを受けてこなかったのだろうか。それこそ、召使いのようにこき使われてきたとか?
世の中には自分の子供を奴隷のように扱うような毒親が居る。
まさか彼女もその一人だったとか?
……やめておこう。彼女が自ら話したならいざ知らず、勝手な想像で詮索するような真似は紳士としての生き方に反する。
「お帰りなさいませ、レイ様」
「ああ、ただいまルミエーラ」
馬車が屋敷に着き降りると同時にいつの間にか側に控えていたルミエーラ。
うちはメイドも執事も実に神出鬼没で心臓に悪い。
「暑い中、町の視察お疲れ様でした。テラスにレモン水を用意しました。よろしければ喉を潤して下さいませ」
「ありがとう」
ホント、気が利く。
そして、何より驚かされるのが、テラスに向かい歩いて行くと――
スッと違和感無く脱がされた上着。いや、それだけじゃない。視察用にスラックスの上に履いていたレインパンツさえも脱がし、さらには外出用の履き物を歩きながら履き替えさせるという芸当までこなしていた。
こんな芸当は、正直ホルストにさえ出来無いだろう。
……そう言えば昔、父の執事であったジョドーがこれを得手としていたな。
懐かしい。
しかし、この技術をルミエーラはどこ――
ギチギチギチギチ……
どこからとも無く聞こえて来た鈍い音。
振り返れば、今にも人を殺しそうな顔でこちらを見ているホルストがそこには居た。
……うん、良いライバルとして切磋琢磨してくれそうだ。






